ポルシェ カレラ (2006/3/5)
※この試乗記は2006年3月現在の内容です。現在この車種は MCにより仕様が変更されています。







BOXSTER


CAYMAN S


CARRERA S


BMW M5


BMW 630i




 

  
前期型996の涙目に比べて丸目になった997。やはりポルシェは丸目が似合う。

クルマ好きが一度はオーナーになってみたいクルマの筆頭は、何と言ってもポルシェ。その中でも911系こそが、マニアにとっては何時かはポルシェ、五体満足なうちにオーナーになりたい クルマの代名詞だろう。 最近はケイマンやボクスターなど、スポーツ性では寧ろ911系を上回るものもあるが、やはり誰が何と言おうがポルシェはリアエンジン!そのポルシェ911系の現行モデルがコードナンバー997。今まで、ボクスター、ケイマンS、カレラSと試乗したが、 997の中でも一番ベーシックなカレラの試乗記が無かった事に気が付いて、遅ればせながら今回の実施となった。
911系の歴史などについてはカレラSの試乗記を参照願うとして、997の売れ行きは如何なのかを見てみよう。

まずは北米の販売状況は以下のようになっている。

車種名       2004年販売台数  2003年販売台数
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ポルシェ911     9.7千台     9.4千台
ポルシェボクスター   3.5千台     6.1千台
MB SL       12.9千台    13.3千台
MB SLK       7.4千台     6.0千台
BMW Z4       13.7千台     20.2千台
AUDI TT      5.3千台     7.9千台
レクサス SC      9.7千台    10.3千台
ニッサン Z       30.7千台    36.7千台
アキュラ NSX     0.2千台     0.2千台
ホンダ S2000    7.3千台     7.9千台
マツダ RX−8    23.7千台    12.3千台
シボレー コルベット  35.3千台    28.0千台
ダッジ バイパー    1.8千台     2.1千台
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ポルシェカイエン    18.1千台    12.9千台
MB Mクラス     25.7千台    30.0千台
BMW X5      35.2千台     40.7千台
VW トゥアレグ    27.7千台     16.4千台
レクサス RX     106.5千台    92.4千台
インフィニティ FX  31.0千台    27.6千台
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この結果を見れば北米のスポーツカー3強は、シボレーコルベット、ニッサンZ、マツダRX−8となる。 コルベットが強いのは当然として、日本車も随分と頑張っている。ニッサンZが強いのは想像していたがRX−8の健闘ぶりが目立つ。ポルシェ911の年間約1万台というのも大したものだ。 こういう数字を見れば、Zやポルシェが米国人の好みを無視できない理由が良く判るし、RX−8の4ドア4シーターというコンセプトだって米国人の好みに合わせたという訳で、 買いもしない日本人が、ああだの、こうだのと言っても始まらない。

ポルシェといえば、最近は高級SUVのカイエンが好調と聞くが実際は如何なのだろうと思って調べて見れは、成る程2004年には1万8千台も売れている。 兄弟車で価格的に買い得なVWトゥアレグに迫る売れ行きだ。成る程、ポルシェの最近の好調ぶりは本物のようだ。
それにしてもこの分野でのレクサスRXの強さは凄いの一言だ!確かに値段からして、X-5やカイエンとは客層が違うかもしれないが、それにしてもRXがレクサス神話を支えていることは間違いな い。 国内版のハリアーに試乗してみたが、結果はナカナカ良く、欧州車ユーザーにも勧められ る国産車としては、ベスト3に入ると言っても良いかもしれない。

それでは、本国のドイツでは如何かと言えば、

車種名       2005年販売台数  2004年販売台数
---------------------------------------------------
ポルシェ911     7.1千台     6.9千台
ポルシェボクスター   4.0千台     3.2千台
MB SL        2.5千台     3.6千台
MB SLK      17.5千台    20.5千台
BMW Z4       6.9千台     8.2千台
フェラーリF430    0.5千台      −
AUDI TT      3.2千台     4.8千台
ニッサン Z       1.6千台     1.9千台
ホンダ S2000    0.2千台     0.3千台
マツダ RX−8    1.8千台     4.2千台

北米と異なりメルセデスSLが少なく、その分SLKがスポーツカーではダントツの売行きだ。BMW Z4と911がそれに続くが、台数は北米に及ばない。やはりこの手のクルマは、今や北米抜きではビジネスとして成り立たないのが判る。

北米にしても、ドイツにしても、普通のクルマから見ればトンでもなく高価な911が、結構コンスタントに売れているというのは、やはり予算があれば買いたいというユーザーが多い証拠だし、今のポルシェはそれだけの魅力があるのも事実だ。

ところで、北米でもドイツでも、高価な911の方がコストパフォーマンスの良いボクスターより売れているのは何故だろう?と思ってドイツでの価格を調べて見れば

       ドイツ国内価格    日本国内価格  米国価格
ボクスター  EU43,068〜 (\603万)    569万円  $45,000〜 (\540万) 
ケイマンS  EU58,529〜 (\820万)    777万円  $58,900〜 (\707万)
カレラ    EU75,200〜 (\1,053万)  1,082万円  $71,300〜 (\856万)

日本ではボクスターからカレラにターゲットを変更するには500万円以上の追加予算が必要となるが、ドイツなら450万円だし、 ケイマンSに至っては日本で300万円近い差が、ドイツでは200万強となる。どうせなら、カレラを買おうということか? これが北米となると、カレラを買わなきゃ損みたいた価格体系だ。日本の価格は政策上ボクスターとケイマンを安く設定しているという噂は正しかった。 一般にボッタクリと批判される程に内外価格差が激しい日本の高級輸入車価格の中では、ボクスターというのは異例の買い得設定のようだ。

興味のある方はメルセデスやBMWが如何なのかを調べてみると面白い。いや、オーナーによっては結構悪夢かもしれないが・・・・。
 

写真左:
リアエンジンのカレラは、この角度から見るのが一番それらしい。アグレッシブなケイマンに比べて優雅で美しい。

 
写真下:
上からボクスター、ケイマンS、カレラのサイドビュー。
こうして見ると、カレラのリアオーバーハングの長さが良く判る。
ポルシェは車名に“S”が付くとキャリパーが赤になる。この3車種ではケイマンSのみ赤いキャリパーが付く。

こうして見ると、ケイマンがボクスタークーぺであることと、3車ともBピラー以前は可也似ているのが判る。何しろ部品の50%が共通なのだから。
  

左のカレラと右のケイマンSを正面から見れば、ライトとエアインレットの形状の違いで、差別化しているのが判る。
 
実はフロントスクリーンから前のバルクヘッド以前は両車とも殆ど同じ。ボンネットは事実上は共通部品ですらある。
 

ここまでの内容から、米国ではボクスターとカレラの価格差は日本程では無いのが理解できた筈なので、今度は先ず外形を比べてみる ことにする。上の一連の写真を見ても判るように、911はBピラーより後ろがマルで違う。リアエンジンというレイアウトから必然的にリアのオーバーハングが長くなるが、 それが逆に優雅なデザインに結びつき、結果として高級感を醸し出している。
ところが前半はといえば、既に報道されているように、バルクヘッドから前は殆ど共通となっている。最大の違いはライトのデザインと、フロントエアインテークで、 チョット見れば大いに異なるが、その部分を覆って見れば、成る程、殆ど同じなのが判る。

今回の試乗車は5速ティプトロ(ベース価格1,145万円)にメタリックカラー(14.5万円)、クルーズコントロール(8万円)、エレクトリックコントロールシート(24万円)、レザー仕上げダッシュボードパッケージ(26万円)、レザー仕上げドアパネル(4.5万円) 、BOSEサラウンドサウンドシステム(20万円)、6連装CDチェンジャー(9万円)などのオプション(106万円)が付いていたので、総額は1251万円だから、取得税や諸経費を含めると支払い総額は1300万円以上!となる。


フロントとリアのボンネット&エンジンカバーを開けたところ。

フロントのトランクはボクスター/ケイマンと同じ。

それでは、各部を見てみよう。
トランクはかなり深い。先代の996は折角のスペースの多くをスペタイヤが占領していたが、997は修理剤の搭載でスペアタイヤが廃止されたこともあり、大人2人が2〜3日の旅行をするには十分のスペースがある。
ここも良く見ればボクスター/ケイマンと同じ。ただし、バルクヘッドパネルが車幅一杯となり、ここにオーディオアンプなどが収納される点が異なる。

リアのボンネット(というか、エンジンカバー)を開けると、そこには水平対向のエンジンが見える。と、言っても一部が見えるだけで、開口部の大部分はエアインテークしか見えない。リアボンネットの内側にはファンが装着されてルーバーからエア を取り入れている。エンジンの吸気もリアのルーバーから供給しているのが判る。
最近の吸気システムは回転速度域での流路を切り換えるので、随分嵩張って場所を取る。


現代では世界の量産車で唯一のリアエンジン。

ドアを開けた光景は、実を言えばボクスター/ケイマン(987)と非常に似ている。ポルシェに詳しくない人(実際、世の中の殆どの人がそうだろう)なら、チョット区別が付かないくらい似ている。500万円も余計に投資したカレラオーナーからみれば、面白くはないだろうが、 前述のように米国では最大300万円の差だと思えば納得も出来る。


987と997は双子とは言わないまでも、普通の兄弟よりは遥かに似ているインテリア。
これでは987から997に買い換えても、大きな感動はないだろう。
最大の違いはメーターが5連になることだ。

カレラ(997)の室内


試乗車はオプション(24万円!)のエレクトリックコントロールシート(要するに電動シート)が付いていた。
この写真の大きさでは、チョット見はケイマンと区別が付かない。  
 
ケイマン/ボクスター(987)の室内


写真のケイマンは標準シートなのでバックレストのみ電動。カレラも標準はこのタイプとなる。 写真の長いレバーは力が入り易く、手動の上下調整としては実に使い勝手が良い。
 

上部のエアコン噴出し口が四角い以外は、オーディオとエアコン操作パネル は全く同じ。試乗車はオプションのレザー仕上げなので、ケイマンと違って見えるが、標準仕様なら殆ど同じとなる。
 
写真はオプションのフルオートエアコン装着のためカレラと全く同じとなる。上部のエアコン吹き出し口が丸いことでボクスター/ケイマンであることが判別できる。
 

この写真から、両車とも全く同じスイッチやノブが使用されているのが判る。
 
左のカレラはオプションのレザー仕上げドアパネルとBOSEオーディオシステムを装着しているが、標準なら、これも全く同じ光景が見られる筈。
 

運転席に座ると、シートの座り心地 も、ドライバーの視線に入るインテリアも987とソックリだ。試乗車はオプションのレザー仕上げを装備しているから、レザーの縫い目(ステッチ)が見えるので、雰囲気が違うが、これが標準仕様ならば更に似ている事になる。最大の違いは987の3連メーター に対してこちら(997)は5連メーターとなる。詳細は上の写真を参照されたい。

 
向かって左にあるキーを差し込むオーソドックスなイグニッションスイッチ。左隣はライトのスイッチ。
 

それではいよいよエンジンを掛けてみよう。
始動は最近のハイテク車両と違って、極普通にキーを差込み(勿論ブレーキペダルを踏んで)右に捻る。 クランキングの後にエンジンが始動すると、排気音とメカニカル音はハッキリと聞こえるし、剛性感の塊りのようなボディはエンジンの振動と共にクルマ全体が揺れる。決して不快ではないが、このクルマを1千万超えの高級車と勘違いすると驚く事になる。それでも、カレラSに比べれば振動は少ない。

正面のメーターは987の3連に対して997は5連となる。追加されるのは右端の油圧計と左端の油温計で、この二つが増えただけで幅が広くマニアックに見えるから不思議だ。
ポルシェのメーターは実に精密そのもので非常に見やすい。本当に計器という感じがするのは流石だ。各種の表示も実に鮮やかな色彩で、クッキリと見やすい。     
中央は速度計と各種警告灯、下段には表示部があり、速度がデジタル表示される。左は速度計でカレラの場合は0〜330km/hが180°の間に目盛られているから、細かい速度は判らないが実際はデジタル表示を使うので問題はない。
右は水温計と燃料計、時刻や温度を表示するディスプレイ部分とATの場合はインジケータが組み込まれている。特にATのシフトインジケータの見易さはポルシェ独特のものだ。


イグニッションオンの初期表示。警告灯は実にクッキリ鮮やかで見やすい。これぞ精密計器という質感だ。
 

同じく初期表示の拡大。オイルのレベルが表示されるが、半角カタカナ表示はシラケル。
 

走り出すにはブレーキを踏みながら、セレクターをDに入れて、他車に比べて長いパーキングレバーをリリースするという手順では、一般的なAT車と何ら変らない。 取り合えず2車線の国道を流れに乗って走る。この程度の速度では回転計の針は2000rpm以下で、負荷が少なければ1600rpm程度で巡航すら出来る。 この時の走行音は高級サルーン並みとは言わないまでも結構静かだ。それでも耳を澄ませば、微かに聞こえるのは御馴染みのポルシェサウンドで、ケイマンに比べて音量は小さいものの、 例のモーターのような音や、ヒューンという吸気音のような音などが聞こえている。

 

ポルシェのティプトロの独特な点として第1にセレクターレバーにある。P→R→N→Dという配置は一般的だし、マニアルにする場合にDから左でMもよくあるタイプだが、 それから先、実際にマニアルでシフトするにはステアリングのスイッチのみで、セレクトレバーでのマニアルシフトは出来ない。
更に第2の特徴としては、Dモードで走行中でもステアリングスイッチでのシフトアップ/ダウンが可能なことだ。前車をパスするために加速したい場合、 通常ならスロットルベダルを床まで踏みつけてキックダウンするか、セレクターレバーを左に倒して、マニアルモードに切り替えてから更にスイッチなどでシフトダウンするのに比べ、 ステアリングスイッチの「−」を押せば一瞬の後にシフトダウンするし、慣れれば素早いダブルクリックで2段落としも可能だ。
これを更に手助けするのが、右側のメーターに組み込まれたシフトインジケータで、Dレンジで走行中も常にギアポジションを表示していて、シフトスイッチを押すと、 即座に表示が入れ替わる。素早い2段押しをすると、赤い表示は素早くチカチカッと動き、見ているだけでも結構楽しめる。
これを読んで、う〜ん、流石は911カレラだ。お金が掛かっていると感心するだろうが、実はケイマン/ボクスターも油圧と油温を覗いて、全く同じ機構とメーターが付いている。 特にボクスター(2.7)の場合は、ベース価格が500万円代という価格帯で、これ程のメーターを備えている車は、世界のどこにも存在しない。
更に言えば、試乗車に装着されていたカレラ標準のステアリングホイールはケイマン/ボクスターと全く同じだし、シフトレバーとゲートパネルも全く同じだ。  


マニアルシフトはステアリングのスポークに埋め込まれたスイッチで行う。
 

小さい表示にも関らずに非常に見やすいシフトインジケータ。左はパーキング時、中央はDレンジの時で走行中のギヤポジションが一目で判る。 右はマニアル時。
 

走り始めてから10分程すると水温も十分に上がってきて、また自分自身も慣れてきたので、前が空いたこともあり、ステアリングスイッチをマイナス2回で 4速から2速にシフトダウンする。 大したショックも無く、回転計の針は4000rpm程度まであがって既にポルシェサウンドを奏でている。 そのままフルスロットルを踏んでみると、クルマはグングンと加速をして6000rpmを過ぎてからも益々シビレるサウンドを発しながら、難なくレッドゾーンの始まる7000rpmに到達する。 そこで、シフトアップスイッチをいれ3速に、更に加速を続け・・・・あっ、ヤバイ!左側のアナログ速度計は10時辺りを指している。慌てて回転計の下部にあるデジタル速度表示をみれば、やっぱりヤバイ。 そこで減速して、車の流れを見つけて左車線に入る。 成る程、ケイマンやボクスターのトップエンドは差別化のためにデチューンしてあるという噂は確かに本当だろう。このトップエンドの特性を手に入れたければ、総額1200を投資しなさいというわけだ。
それではカレラSに比べて如何かと言えば、あちらの加速は更に豪快で、排気量で0.2ℓ、パワーで30psしか違わないのに、背中を蹴飛ばされるような加速と、 トップエンドでカレラに比べて多少ガサツな感じはするものの、ドキドキ感では結構上を行っている。ただし、一般道ではカレラの動力性能は十分どころか、殆ど発揮する場所がないし、カレラどころかケイマンも、いやボクスターだって実際に公道ではオーバースペックなことは間違い無い。
そんな事を考えならが流していたら、バックミラーに大きく写っているのはトランクにショボイ羽の付いたチェイサーだった。それも、車間距離を開けずに、要するに煽りというやつか? オイオイ、追突なんかするんじゃねえぞ!なんて思ってドライバーを見てみれば、40代半ばのオッサンがドアに寄りかかって片手でステアリングを握って(実際にはツマンで)いる。 仕方なく?今度はセレクターを左に倒すと、インジケータの赤いLEDは右下のDの位置から左下のMに変る。もう一つの赤い表示は4に点灯しているので、ステアリングのスイッチの下側(−)を2回押すとLEDはチカチカっと光って2が点灯する。 回転計の針が跳ね上がったのを確認して、またまたフルスロットルを踏む。今度は2回目なので、クルマの挙動を良く見てみていれば、とに角安定しているの一言だ。 カレラはケイマンに比べると安定性という点では遥かに勝っている。逆に言えば面白味に欠けるという表現も出来る。それにスピード感がないので、ケイマンと同じ速度でも緊張感がまるで違う。
ところで、チェイサーはと言えば、ルームミラーで見る限り可也後方にいるのだが、こちらが減速して流し始めると、あれっ、ドンドン迫ってくる。危ないので左車線に入ると、 頭に血が上ったチェイサーオヤジは右車線を更に加速しているようだ。すぐに右車線に移動して後を付いて行ったら、多少躊躇しながら、それでも更に加速をしている。 それにしても、後ろから見る挙動は、見るからに不安定で、あんなクルマでよくもまあ・・・・。
 


ステアリングコラム左に生えているのがウインカー&ライトの切り替えレバー。ウインカーはロックする手前で戻すと、その後3回点滅する。ロックする時のフィーリングは1000万 円超どころか、国産低価格車にすら負けるフィーリングだ。
 
試乗車にはオプションのオートクルーズが装着されていた。
 

カレラのステアリング特性はケイマンに比べれると明らかにマイルドに感じる。勿論、一般的には十分にクイックなのだけれど、987がミッドエンジンで回転軸に対する慣性が極端に少ないことからくる、 ステアリングレスポンスの鋭さに比べれば遥かに穏やかだから、長距離のクルージングには向いている。やはり987はピュアスポーツで997はクランドツーリングという世間の評判は正しい。カレラSの時も感じたが、 リアアクスルの更に後方に重いエンジンをぶら下げているという感覚を消し去ることは不可能なようだ。
今回の試乗コースはケイマンSと全く同じなので、例の中速コーナーにトライして両者を比較することにした。 最初は十分なマージンを取ってトライしてみると、弱アンダーで実に安定して何事も無かったようにクリアする。自分では相当に速度をセーブしていた積りでも、速度計を見れば決して遅いスピードではない。 もしも、ミニバンで後について行ったらば、相当に怖い思いをするに違いない程度の速度はでている。987も普通の国産車に比べれば速度感は無く、メーターを見て驚くことは多いが、 997はこれが更に顕著で、先程のチェイサーオヤジをオチョクった時も国産車の80km/h程度の感覚だった。
次に復路では先日ケイマンで可也の緊張感を伴ったときに近い速度でコーナーを、回ってみても、結果はスンナリとクリアしてしまった。 例えばコーナーリング中の微妙な修正舵を入れる度に、ノーズがピクッと動くケイマンに比べて、カレラはもっと自然な操舵感覚だし、その前に微妙な修正が必要無い程に平和なコーナーリングが出来る。 ただし、そうは言ってもリアエンジンだから、いくらPSMがあるとは言っても、ある限界を超えれば恐ろしい思いをすることは想像できるが、公道上でそんな速度は不可能だし、 第一に並みの腕のドライバーではとてもそんな速度で進入することは出来ないだろう。要するにカレラはケイマンSに比べて、より高いコーナーリング限界と扱いやすさで、 流石は300万円高いだけのことはあると納得できるが、言い代えれば走る楽しみは圧倒的にケイマンSだ。

カレラSは標準でPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)が装着されているために、その乗り心地の良さは驚異的だったが、 カレラはオプションとなり、今回の試乗車には装着されていなかった。PASM無しのカレラの乗心地は当然硬めだ。 しかし、速度が上がればフラットになるし、極めつけのボディ剛性のために低速でも大きな入力で一瞬バシッと来るだけで決して不快ではない。 勿論、長距離を走っても乗り心地に関して不満は一切出ないだろうし、この硬さを嫌うなら、そもそも本格的なGTカーを選ぶのが間違っている。

ブレーキに関しては、誰もが絶賛するポルシェのブレーキシステムだから、それはもう悪いはずが無いが、今まで乗ったボクスター、ケイマンS、カレラSと今回のカレラを比べると、 皆少しずつフィーリングが異なっていた。これは固体差なのか、車種によって多少違うのかは不明だ。4車の中でダントツの剛性を見せたのはカレラSだった。 何しろ全く遊びは無く、ペダルを踏んでも殆どストロークせず、硬い板を踏むようなガッチガチの剛性感だった。勿論、その硬いペダルを踏みつければ、クルマは踏んだ分だけ減速する。 ボクスターとケイマンSは勿論ペダルを踏んだときの剛性感は他車とは比較に成らないほどだが、カレラS程ではない。今回のカレラは最初の(遊び)ストロークはカレラSについで短いが、 特に停止時にはそこから力一杯踏むと、意外とストロークする。実際に走って、制動する場合はそれ程の力で踏まないので殆どストロークしないし、何故か結構な力で強めの制動をかけても、停止時のようにはストロークはしない。 何やらマスターシリンダやABSアクチェータの特性もあるのかもしれない。
ポルシェのブレーキキャリパーはベースモデルが黒で、高性能モデルの”S”が赤となる。なお、一部モデルにオプションのセラミックコンポジットは黄色とキャリパーの色でグレード差をつけている。 今回のカレラはベースモデルだから黒で、価格はカレラより安くてもボクスターSやケイマンSは赤いキャリパーとなる。この辺りは何とも上手い差別化をしている。 赤いキャリパーが欲しいのでSにするという心理は痛いほど判る!
 


カレラのリヤに標準の10J×18ホイールと265/40ZR18タイヤ。

カレラのフロントに標準の10J×18ホイールと235/40ZR18タイヤ。

ケイマンの発売により、その地位が怪しくなりつつある911系だが、今回乗ってみて確認出来たのは、やはりカレラはグランドツーリングカーであり、 ハイウェーを使った長距離の移動なら此れに勝るものは無いという事実だ。価格を考えればボクスターやケイマンに比べて割り高だが、それでも誰もボッタクリだ等と言わないのが流石はポルシェ! 考え方によっては、カレラが適正価格で、ボクスターは政策的なダンピングとも言えるから、買い得なボクスターを選ぶか、高くともカレラを選ぶかはオーナーの考え次第だ。 まあ、そういっても、ある階層の人たちの間では、ボクスターやケイマンなんて乗ったら、金持ち仲間にバカにされると思っている輩も居ることは事実だ。 実際に日本でのカレラ/カレラSのAT/MT比率は80%以上がAT(Tip)という事実はカレラの客層を物語っている。
高性能スポーツカーの代名詞だったポルシェ911は、今や誰でも運転出来るハイウェークルーザーとなってしまったから、金さえ出せば誰でも乗れるという点では、 911を一生の目標にして、何時かは911を思っていたクルマ好きにはとっては、何とも複雑な心境だが、そうは言っても、クルマ道楽の到達点にカレラを選んだとしても、 十分な満足感は得られるだろう。それどころか、ボクスターとケイマンの登場で、より選択肢が広がったのは喜ぶべきことだし、ボクスターのダンピング的価格政策も ポルシェ社を精神的に支えてくれたクルマ好きに対する感謝の気持ちという噂も、あながちウソでなさそうだ。

さぁて、あなたはどれを選びますか?えっ、その前に家族の説得?成る程、納得。