BMW 630i (2005/9/3)

 



ポルシェ カレラS


流石は6シリーズとでも言いたくなる優雅なスタイル。このスタイルで5シリーズ+150万は安い?
 

BMWは昔から大型のクーペモデルをラインナップしてきた。古くは60年代の2000CSや3.0CSなどで、その後6シリーズとして優雅なスタイルと高級感で独特な地位を気付いてきた。ところが6シリーズは89年に、後継車として更に上級の8シリーズにバトンタッチする。が、8シリーズは結果的には失敗に終わり、その後BMWの大型クーペは不在のままだった。それが2003年に、何と6シリーズとしては14年振りに新型が発表された。外観はベースとなる5シリーズのイメージを残した新時代のBMWのスタイルだが、流石に6シリーズというだけあって、そのエレガントなスタイルは5シリーズに対して150万のエクストラコストを払う価値は十分と言えるクルマに仕上げられていた。

現在6シリーズはV8 4.4ℓの645Ci(1039.5万円)とそのオープン版の645Ciカブリオレ(1118.2万円)、そして今回試乗した直6 3ℓの630i(852万円)で構成されている。




左上:2000CSi、1967年モデル。独特のキドニーグリルを持つ。

右上:633CSi、1985年モデル。旧6シリーズは1989年に打ち切られ、それ以来14年間6シリーズが途絶えていた。当時は世界で一番美しいクーペと言われていた。

左下:850i、1993年モデル。8シリーズの結果は見事に失敗作となっていしまった。

新6シリーズが発表されたときに、7シリーズから端を発した21世紀のBMW顔になった事で、世界一美しいと言われた14年前の6シリーズに比べて、アレでは6シリーズでは無いと言っていた連中もいたが、こうやって現物を緑のある公園に持って行って目の前で眺めて見れば、なかなか美しいではないか。

まあ、良いの悪いの言ったところで、所詮庶民には縁の無い車なのだが・・・・・。


真横から見ると、ウエストラインが高く、ルーフがが低い。旧型のガラスエリアの大きいデザインとは異なり、優雅というよりもスポーティーという感じだ。

トランクの処理などは最近のBMWのセオリーどおりだが、後ろからの姿もカッコが良い。
しかし、良く見ればデカイ!

早速各部を見てみると、まずトランクはサスの出っ張りなどの為に車幅が広い割には内幅は狭い。日本人が心配するゴルフバックは何個詰めるのか?
しかし、心配は無用。朝早く上司の無能な部長や、得意先の悪徳購買課長の家にお迎えに行くようなゴルフしか知らない輩には、このクルマは無縁だから。大体、部長ご自慢のクラウンロイヤルエクストラが3台も買えるクルマを持っているなんて知れたら、次の人事査定や今後の取り引きは絶望的と思ったほうがよいだろう。

気を取り直してドアを開ければ、そこは流石に高級な大型クーペの雰囲気が溢れている。630iのシートはクロスとレザーのコンビが標準となるが、試乗車にはオプションのダコタ・レザーが装着され、しかもサイドサポートのタイトなスポーツシート(これもオプション)だった。

リアシートはポルシェカレラなどと比べれば各段に実用的だが、セダンに比べれば当然前後方向が狭く、フロントシートを下げれば足の置き場に困るし、低いクーペのルーフはリアに向かって更に低くなるから、頭上のスペースも殆ど無い。
・・・・・・などと文句を言うなら、このクルマを買わなければ良いのだから、これまた全く問題なし。

標準で装着されているガラスサンルーフは、チルトのみでオープンはしないが、そのお蔭でガラス面積は大きいから、電動サンシェードを開ければ車内は実に明るくなる。
これまた、サンルーフは開けてフレッシュなエアーを楽しむものという、我々庶民の気持ちを見事に打ち破ってくれる。
走行中にフレッシュなエアと戯れたい向きには、これまたカブリオレがあるので、そちらをどうぞという事か?


   

運転席に座ると5シリーズに比べて遥かに低い着座位置と低い天井が、このクルマが実用的なセダンでないことを主張している。ドアを閉めると5シリーズの重厚さとは異なる、如何にも軽量化された感じだが、それでいて高級感のあるフィーリングが伝わってくる。
ダッシュボードのデザインは5シリーズを基本としているが、5シリーズが横方向の広さを強調しているのに対して、6シリーズのほうが視覚的にタイトで多少オシャレな雰囲気だ。しかし、よく見れば、空調やオーディオの操作パネルは全く同じものを使用している。

シートに座ってみれば、元々、欧州車のシートは国産車とは比べ物にならないくらい座り心地が良いのだが、その欧州車でもこのクラスになれば、もう何も言うことはない。実に座り心地は良い。
当然ながらステアリングは電動で上下、前後するからベストの位置に構成できる・・・筈だ?これに付いては後で触れる。

エンジンを始動しようとして、ダッシュボード上のスタートボタンを探すが無い!よく見れば、このクルマはオーソドックスにステアリングコラムに差し込んだキーを捻るという、従来からの方式だった。ベースの5シリーズと同じ方式だが、ボタン式が増えた昨今では、何故かこの方法は心が落ち着く?


330iと共通の新型直6エンジンN52はマグネシュウムのシリンダーブロックとバルブトロニックを
装着する最新の6気筒エンジンだ。

エンジンのアイドリングはクラウンマジェスタのように回っているのが判らないほど静かではないが、ポルシェ911カレラのようにブルブルと振動することもなく、言って見れば極普通というところか。ブレーキを踏みながらATのセレクターをDにいれて、パーキングブレーキをリリースしてイザ出発すると、この大柄なクルマは十分なトルクでスルスルと前に進む。ただしBMW745などのV8エンジン搭載車で感じる、走り出した瞬間から溢れるばかりのトルクからくる高級感は感じられない。この感覚はセルシオにもあったし、クラウンマジェスタにも感じられた。やはり、幾らBMWの6気筒が優秀でもV8というエンジン形式と4000cc超えという排気量から来る感覚は持ち合わせていないようだ。米国人がV8が好きなのも判る気がする。

そんな事を気にしなければ、マグネシュウムのシリンダーブロックを使い、バルブトロニックなど最新技術を満載したN52エンジンは低速からフラットなトルクを発生して、空車で1610kgの大柄なクルマを走らせるには十分だ。元々530iは1590kgあるボディを走らせるのには十分に速かったから、それと同等な重量の630iが遅い訳はないのだ・・・・・けれど、実は体感としては旧型であるM54エンジンを搭載した530iのグングンと加速していく感覚と、4000rpm辺りから発生するヴォーとクィーンの混じったワクワクするサウンドも、5000rpm過ぎてから轟くバルブ音など、正に駆け抜ける喜びの感覚が、この新型N52エンジンには無い。たぶん実際には速いのだろうけれど、何故か体感的には面白くないし、4000rpmからの音はヴィーンとBMWらしくなく、なにやらアウディに似ている。

このN52エンジンを最初に搭載したのは630iで、次に新型3シリーズ(E90)に搭載され、最近は5シリーズ(525iと530i)もM54からN52に変更された。スペック上ではM54の231psに対してN54は258ps、(トルクはどちらも300Nm)とパワーには差がある。E90はボディも一新された新型だから、まあ良いとして、一番気になるのは既にM54搭載の現行型(E60)525iか530iを所有しているオーナーだろう。しかし、もうお分かりと思うが、フィーリングという面では旧型エンジンの方が上だから、安心して大丈夫だ。BMWの事だから常に改良を加えて、恐らくE60の後期モデルでは十分なフィーリングになっているとは思うが。


基本的には5シリーズと共通だが、インパネのデザインが異なり、よりタイトでスポーティな
雰囲気を演出している。

実際の走行にあたって最も気になるのは、低い着座位置と相対的に高いダッシュボードが原因となる前方視界の悪さと、見切りの悪さによる車両感覚の掴み難さだ。シートを頭と天井の距離を我慢できるギリギリまで上げても、ステアリングが視界に入らないように出来るだけ下げても、視界の下1/3以上はメーターの上部により遮られる。6シリーズの全幅は1855mmで5シリーズ(1845mm)とは10mmしか違わない。それなのに着座位置が高く、ボンネットも良く見えるし、ダッシュボードも低めの5シリーズは遥かに運転しやすいし、更に視界の広い7シリーズは1902mmもの幅があるにも拘わらず6シリーズよりも見切りが良い。6シリーズを購入希望のユーザーは短時間ではなく、3日位のモニターでもやって、実際に自分の走行パターンに沿って、本当に問題が無いかを試してから注文書に判子を押さないと、買っては見たものの殆ど車庫の中という結果に成りかねないだろう。

でも、こんな優雅なクルマを置きっぱなしにしたら、埃と紫外線で塗装は痛むし、近所の野良ネコには傷を付けられるし、車上荒しも心配だ・・・・なんて、話にうなずくあなたは、B_Otaku と同じ貧乏人!


メーターは5シリーズと共通。

オーディオとエアコンのコントローラーは5シリーズと同一で、上部のディスプレイも同じ。ただし、パネルのデザインは異なる。この辺は5シリーズよりも、よりパーソナル感を充実させている。

6シリーズはベースとなっている5シリーズと同様にアクティブステアリングが装着されている。初期の5シリーズのステアリングは非常に軽くて、とてつもなくクイックだったから、普通のドライバーが行き成り乗ったら戸惑うばかりか、ある面危険ですらあったが、1年程経過した時点での最新モデルは、可也大人しい設定になっていた。今回の630iは更に重めで、以前は軽くクルッと回ったステアリングは多少粘っこさを感じる様な特性になっていた。それでも低速では軽いから、交差点を左折するような場合はスルッと自分から回るような感覚で、慣れれば如何ということはないが、始めは違和感がある。初期型では全てに違和感があったから気が付かなかったのかもしれない。それでは、初期型が駄目かといえば、あの危険な程の人工的なクイックさも慣れれば結構捨て難いものがあったのも事実だから、初期型の特性が好きなオーナーは、骨までシャブリ尽くすしかないだろう。

旋回特性は当然ながら安定していて、普通のドライバーが一般道で多少頑張る程度では、道路の曲線に沿って、何も起こらずに旋回していく。既に述べたように、車幅が広く見切りも悪いから、コーナ−を攻めて楽しいというクルマではない。やはり、このクルマは高速道路を矢のように走る、高速ツアラーとしての使い方が一番似合っている。

乗り心地は、特に低速で良くない。試乗車は走行200km程度のマッサラな新車だったので、当然ダンパーの当たりは付いていないが、それにしても40km/h以下では、路面の凸凹を吸収しきれずにボディ自体が上下に揺すられる。恐らくダンパーのみならず、スプリングの設定もかなり硬いのだろう。BMWでいうところのハードとかベリーハードとか呼ぶサスペンションだと思う。ただし、60km/hくらいからは徐々に収まり、80km/hを超えれば十分にフラットな乗り心地になったから問題はないだろうが、やや難のある取り回しと共に、このクルマを市街地の裏道で使うには、宝の持ち腐れでは済まないデメリットもある。

ブレーキ性能は従来の5シリーズと同じフィーリングで、少しストロークが長めだが、相変わらず少ない踏力でも効きは良い。更に、ハードなサスによる低速時の乗り心地の悪さの代償として、強い制動時でもクルマとしての安定感は申し分ない。このクラスの価格帯のクルマは、庶民のクルマと相対的に比べれば、それはもう、月とスッポンという言葉が正にピッタリだ。地獄の沙汰も金次第というのも、これまた正しいから嫌になる。
 


630iに標準の8J18ホイールと245/45R18のリアタイヤ。645Ciの場合は9J18ホイールと275/40R18タイヤとなる。

630iはフロントもリアと同一のホイール、タイヤを使う。645Ciは前後異型で、フロントは8J18ホイールと245/45R18タイヤとなる。

今回試乗した630iは滅多に売れないらしい。元々、販売台数の見込めない特殊で高価な6シリーズではあるけれど、この6シリーズの中でさえも売れないのは、このクラスのユーザーは殆どが会社の経費で落とすので、どうせ買うなら高いほうというノリで、852万の630iではなく1039万の645Ciを買うそうだ。考えて見ると、同じ一千万円級の4座スポーツクーペなのに6シリーズは経費で落とせて、ポルシェ911は落とせない。6シリーズは実用車で、911は趣味のスポーツカーということか?税務署というのは、案外、下手なユーザーよりクルマというものを研究しているのかもしれない。 だとすると、M5は経費で落とせるのだろうか?外観からは高級サルーンだから社用車でも全く問題無さそうだが、F1用をデチューンしたようなエンジン積んで、これが実用車か?とも言いたくなるし・・・・。まあ、630i以上に無縁のクルマだから、如何でも良いが。

それでは、630iを勧められるのはどんな人かと言えば、先ずはウイークデーにはショーファーの運転するセルシオやシーマ、もしくはセンチュリー!のリアシートに収まるような、大企業の役員、それも執行役員なんてセコイのではなく、本物の商法上の取締役。言ってみれば、副社長級以上の上級役員あたりが、プライベート用に自腹で買うのは如何だろうか?
それとも、そこそこ流行っている開業医で6シリーズのオシャレさと高級感を理解できる趣味の持ち主にも良いだろう。(目一杯儲かっているドル箱クリニックの院長なら、M5やM6、いやどうせならフェラーリでも?)

少なくとも庶民には縁の無い車だし、クルマ命の走り屋が全財産を注いで買う程に本格的な性能でもない。ここら辺がポルシェとは根本的に異なる点だ。勿論、B_Otaku が6シリーズを買うことは無いと断言できる。(と、言うより、買えないというのが正しいが)