フランス軍事省傘下の軍事学校戦略研究所(IRSEM)が2021年9月に発表した報告書『中国の影響力作戦(Les opérations d’influence chinoises)』は、中国が展開する認知戦や世論誘導の全体像を暴いた約650ページに及ぶ大規模な調査レポートだ。
この報告書において、沖縄に関する指摘は「潜在的な敵国の弱体化と分断」を狙う戦略の一環として具体的に名指しされている。
🔷中国の主な狙い(目的)
中国が沖縄に関与する最大の目的は、「日本政府や在日米軍への妨害」および「日本の防衛力拡大の阻止」で、沖縄を起点に日米同盟に揺さぶりをかけ、有事の際のアメリカ軍の動きを遅らせたり、日本の安全保障政策を牽制したりする意図があると分析されている。
🔷なぜ沖縄が狙われるのか(背景)
報告書では、中国にとって沖縄が「利用しやすい環境」にある理由として、以下の国内事情が突かれていると指摘している。
• 歴史的・政治的な複雑さ: 沖縄住民の中に、歴史的経緯から日本政府に対する複雑な感情が残っている点。
• 米軍基地への反発: 在日米軍基地の集中に対する根強い抗議の声や不満が存在する点。
これら地元の純粋な懸念や声を、中国側が自国の利益のために政治利用しやすい基盤として捉えているという見方だ。
🔷具体的な影響力工作の手法
報告書では、世論を誘導し分断を煽るために、以下のようなアプローチや動きが列記されている。
学術・文化交流を通じた世論形成
• 独立派へのアプローチ: 琉球独立を掲げる勢力や運動家を中国へ招き、学術交流などを名目にネットワークを構築・支援する。
• 歴史的繋がりの強調: 「琉球(沖縄)はかつて中国の朝貢国であり、日本とは異なる独自の歴史を持つ」という言説を後押しし、日本本土からの心理的分離を促す。
反対運動への介入と支援
• 米軍基地抗議運動の支援: 辺野古移設をはじめとする米軍基地への抗議運動を外側から後押しする。
• 憲法9条改正反対への連動: 日本の自衛権や防衛力強化に繋がる法改正への反対運動を支援し、日本が軍事的なレジリエンス(強靭性)を高めるのを防ぐ。
拠点確保のための動き
• 不動産投資: 中国側の資本や個人が、沖縄の米軍基地周辺で不動産投資を進めている動きに警戒を示している。
補足:日本の防衛力(レジリエンス)への評価
一方で、この報告書は「日本は他国に比べて、中国の影響力工作を比較的うまく抑え込んでいる」とも評価している。その理由として以下の点が挙げられている。
① 地政学的要因: 島国であり、物理的に外部からの関与を受けにくい。
② 尖閣諸島問題: 尖閣周辺での中国船の威嚇行動により、日本国民の対中感情がそもそも警戒モードになっている。
③ 政治の安定性: 政権や統治機構が安定している。
④ メディアの構造: 主要メディアの寡占(伝統的な大手メディアの信頼性)が定着しており、偽情報や外部からの介入が入り込みにくい。
*この意見に対しては、近年中国側のメディア工作が顕著になっている点で発表時期とのずれを感じる。
背景にある共通の認識 フランス(IRSEM)のこの指摘は突飛なものではなく、日本の公安調査庁が2017年の報告書で「中国が琉球独立勢力に接近し、中国に有利な世論形成を狙っている」と警鐘を鳴らした内容や、米国議会の諮問委員会(USCC)の報告とも一致するもので、国際的な安全保障の専門家の間では共通の警戒事項となっている。