米国議会の超党派諮問委員会である米中経済安全保障調査委員会(USCC)は、2016年3月に公開されたスタッフ研究報告書『アジア太平洋における米国の前方展開に対抗する中国の試み(China’s Efforts to Counter U.S. Forward Presence in the Asia Pacific)』で、中国の沖縄に対する工作活動の指摘をを発表した。
この報告書は、中国が軍事的な能力(A2/AD:接近阻止・領域拒否)を高めるだけでなく、平時から「非軍事的な手段」を用いて日米同盟に楔(くさび)を打ち込み、米軍の拠点を弱体化させようとしている実態を詳細に分析している。
🔷抗議活動への工作員の介入
報告書では、中国が沖縄に情報部員(インテリジェンス・オフィサー)や煽動者を送り込んでいる可能性を指摘している。その目的は、米軍の動向に関する情報収集を行うと同時に、在日米軍基地への反対運動・抗議活動に加わることで、日米関係や安全保障上の連携を内側から複雑化・泥沼化させることにあると分析している。
🔷沖縄独立運動の支援と煽動
自衛隊の元情報本部長などの分析を引き合いに出しながら、中国が親中派の沖縄住民や中国側のエージェント(工作員)を通じて、沖縄の独立運動を裏から支援し、煽り立てていると言及している。これによって日本国内の世論を二分し、防衛体制への結束を乱す狙いがあるとみなされている。
🔷 フェイクニュースを用いた世論工作(認知戦)
中国による情報操作の具体的な実例として、中国の官営メディアが流した「虚偽のニュース」を挙げている。 具体的には、2012年9月に中国メディアが「2006年に琉球(沖縄)で行われた住民投票で、住民の75%が日本からの独立を望んだ」という架空の事実を報じたことを指摘した。
しかし、実際にはそのような住民投票は一切行われておらず、沖縄住民の大多数が日本に留まることを望んでいるにもかかわらず、こうした偽情報を流すことで「沖縄の主権は未定である」という認知を国際的・国内的に定着させようとしている、とプロパガンダの手口を暴いている。
🔷基地周辺の不動産買収
フランスの報告書(2021年)でも警戒されていた「米軍基地周辺における中国系資本による不動産買収」について、USCCはこの2016年の時点で、すでに日本の報道や安保専門家の見解をもとに言及していた。これらは軍事施設の監視や、将来的な情報収集の拠点として利用されるリスクがあるため、米軍側も警戒を強めている領域だ。
日米仏のタイムラインから見えること 時系列に並べると、中国による沖縄への影響力工作に対する警戒の動きは、以下のように地続きになっています。
• 2016年(米国・USCC): 米軍の前方展開を阻むための「日米分断工作(工作員の介入、偽ニュース、不動産)」として初期の警告を発する。
• 2017年(日本・公安調査庁): 国内の分断や親中世論形成を狙った「独立勢力への接近や、学術交流を隠れ蓑にしたアプローチ」を公式に特定する。
• 2021年(フランス・IRSEM): グローバルに展開される中国の影響力作戦の重要ケーススタディとして、沖縄の歴史的背景や介入手法を網羅的に総括する。
つまり、日米仏の安保・インテリジェンス関係者の間では、すでに10年近く前から「中国が沖縄の歴史的・政治的な隙を突いて世論を誘導しようとしている」という共通の認識があり、それぞれの視点から段階的にその具体的な手法を浮き彫りにしてきたと言える。