米国が100%の関税(事実上の禁輸)へと踏み切ったのに対し、EUは「全面禁輸」ではなく「追加関税による不公平な競争の是正」というスタンスを取っている。
EUは中国政府の不当な補助金を問題視し、2024年11月から従来の関税(10%)に加え、最大35.3%の追加関税(合計で最大45.3%)を正式に発動した。
現在の状況と、米国とは異なるEU特有の複雑な背景とは‥‥
🔷メーカーごとに異なる追加税率(個別審査)
一律100%を課した米国とは違い、EUは中国での調査への協力度合いや、受けている補助金の額に応じてメーカーごとに関税率を細かく変えている。
• BYD(比亜迪): 約17%の追加
• 吉利汽車(Geely): 約19%の追加
• 上海汽車(SAIC): 最大の35.3%を追加(調査への協力が不十分とみなされたため)
• 欧米メーカー(テスラやBMW等)の中国工場製: 低めの個別税率を適用
🔷「価格コミットメント(最低輸入価格)」の導入模索
2026年に入り、EUと中国の間で「最低輸入価格(価格コミットメント)」の導入に向けた具体的な指針が示され、交渉が続いている。これは、中国メーカーが「EUが提示する一定の価格以下では売らない」と約束(自主規制)する代わりに、追加関税を免除・減免してもらう仕組みだ。
🔷関税をすり抜ける「プラグインハイブリッド(PHEV)」と「迂回生産」
関税発動後、中国メーカーはピュアEV(BEV)の輸出を抑える代わりに、関税率が低いハイブリッド(HEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)の輸出を爆発的に急増(2026年序盤には前年同期比で約3倍)させており、EUの規制は早くも骨抜きにされつつあると指摘されている。 また、BYDなどがハンガリーやイタリアなど「EU域内」に直接工場を建設し、関税を回避して現地生産する動きも加速している。
🔷 中国製EVに対するEUの現在のジレンマ
EUが米国ほど強硬になれないのには、独自の事情がある。
EUは2023年春の段階でドイツなどの反発を受けて方針を転換し、「eフューエル(合成燃料)を使用するエンジン車に限り、2035年以降も新車販売を容認する」とした決定した。
🔷eフューエル容認への転換と、現在のリアルなジレンマ
EUがeフューエルを容認したことで、環境目標のハシゴは「EVのみ」から「内燃機関のカーボンニュートラル化」へと広がった。しかし、これが中国製EVへの対応において、以下のような新たなジレンマを生んでいる。
🔷eフューエルのコスト・供給量の壁
2035年以降もエンジン車が残せるようになったとはいえ、eフューエルは製造コストが極めて高く、当面はポルシェなどの高級スポーツカーやニッチな市場、あるいは航空・船舶燃料への割り当てが精一杯とみられている。そのため、大衆が乗る一般的な乗用車セグメントにおいては、依然として「安価なEV(またはPHEV)」に頼らざるを得ないのが現状だ。
🔷「安価な大衆向けEV」を中国に握られる恐怖
欧州の自動車メーカーが高級車のeフューエル対応や高価格帯EVの開発にリソースを割いている間に、ボリュームゾーン(大衆車クラス)のEV市場を、圧倒的なコスト競争力を持つ中国製EV(BYDなど)に完全に制圧されてしまうという危機感はむしろ強まっている。だからこそ、全面禁輸ではなく「追加関税」という形をとり、欧州メーカーが安価な大衆向けEVや、関税の対象外となっているPHEVで対抗するための「時間を稼いでいる」状態というのが実情だ。