最善か無かを放棄し中国とつるんでオウンゴールとなったメルセデスベンツ





最善か無か(Das Beste oder nichts)」を標榜し、コストの概念を度外視してでも世界最高の自動車を作っていた時代のメルセデス・ベンツ(例えばW124型EクラスやW140型Sクラスなど)を知る者からすれば、近年の同社の戦略、そして今回の「中国製エンジンの採用」という現実は、まさに名門の凋落であり、自滅のオウンゴールに見えるのは極めて自然なことだ。

1989年に初代レクサスLS(日本名:セルシオ)が登場した際、その圧倒的な静粛性と驚異的な製造クオリティ(チリの細かさや塗装の質)にメルセデスが大きな衝撃を受け、そこから露骨なコストダウン(W210型Eクラスなどでの品質低下)に走ったのは自動車史の転換点だった。
Mercedes Benz E250 CGI BlueEFFICIENTCY 試乗記 (2009/12)

その上で、今回の「EVシフトの迷走と中国への接近」が、結果的にトヨタ(および日本勢)にとって有利な展開をもたらしている。

🔷「EV一本足打法」というオウンゴール
欧州委員会が打ち出した「2035年までに内燃機関(ICE)の実質禁止」という過激な環境政治の波に乗り、メルセデスは2021年に「2030年までに市場が許す限りすべてEVにする(Electric only)」と宣言した。

しかし、この戦略は完全に裏目に出た。

• 富裕層へのEV行き渡りと需要の急減速: プレミアムセグメントの顧客ほど「長距離をストレスなく走れる信頼性」や「内燃機関特有の味わい」を求め、高高価なEV(EQシリーズなど)の売れ行きは2024〜2025年にかけて世界的に失速した。

• エンジン開発のブランク: EVに予算を全振りしてしまったため、世界最高峰だったマルチシリンダー(多気筒)エンジンや高度なハイブリッド(HEV)の自社開発サイクルがストップしてしまった。結果として、現在の「慌ててPHEVやHEVを強化したいが、エンジンは吉利(HORSE)から買うしかない」という、かつてのプライドからは考えられない歪な状況を生み出している。

🔷 トヨタの「マルチパスウェイ(全方位)戦略」の完全勝利
メルセデスをはじめとする欧州勢が自滅していく中で、トヨタが頑なに守り通した「マルチパスウェイ戦略(EV、PHEV、HEV、水素など、顧客の需要に合わせてすべてを準備する)」は、今や完全な正答として世界中から評価されている。

• 10年以上のリード: メルセデスが今になって中国の力を借りて構築しようとしている「効率特化型エンジン+モーター」の仕組み(PHEV/HEV)を、トヨタは初代プリウス(1997年)以来、30年近く熟成させ続けている。THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)の信頼性、コストパフォーマンス、そして実際の燃費性能において、欧州勢+中国勢の連合が追いつくにはまだ長い年月が必要となる。

• ライバルの自滅による棚ぼた: トヨタからすれば、自社が巨額の投資をしてHEV/PHEVを磨いている間に、最大のライバルであるプレミアムブランドが勝手に自社の強み(伝統的な内燃機関の技術力とブランド価値)をドブに捨て、自社開発を諦めてくれたわけだから、これ以上ない「ラッキーな展開」と言える。

🔷ブランド価値の崩壊という致命傷
ボルボの系譜である吉利製エンジンをCLAのような「エントリーモデル(低位モデル)」に限定して使うのは、経営合理性としては理解できる。しかし、プレミアムブランドにとって最も重要なのは「ロマンと信頼(ストーリー)」だ。

ベンツのボンネットを開けたら、中身は中国製のボルボ系エンジンだった

この事実そのものが、かつて「最善か無か」に憧れて高い大金を払っていた世界中のオーナーのブランドへの忠誠心(ロイヤルティ)を激しく削り取っている。一度失った「唯我独尊の技術ブランド」というイメージを取り戻すのは、コストカットをするよりも遥かに困難だ。

欧州の環境政治にハシゴを外され、自らのプライドと技術遺産を切り崩しながら中国に依存せざるを得なくなったメルセデスの姿は、かつての絶対王者の凋落の勢いをさらに加速させていると言わざるを得ない。結果として、ブレずに足元を固め続けたトヨタの強固な収益構造と市場支配力が、より一層際立つ形となっている。