小規模・個人経営学習塾のみならず、「偏差値向上と一般入試対策」を唯一の売りにしている大手塾・予備校も、すでに構造的な危機に直面している。
「少子化でも大手なら安心」「難関大合格実績を出していれば安泰」という従来のビジネスモデルは、入試制度の変化と需要のシフトによって急速に崩れつつある。
大手塾であっても、従来のスタイルに固執すれば経営が悪化する背景には、以下の3つの重大な構造変化がある。
大手塾を襲う「一般入試依存」の限界

1. 一般入試組の激減と「ペーパーテスト不要論」の広がり
現在、私立大学の入学者数の約6割が「総合型選抜(旧AO)」や「学校推薦型選抜」による合格者で、国立大学でも推薦枠の拡大が加速している。
• 中堅以下の大学での不成立:「東大・京大・医学部・早慶」などの最難関層を除けば、学力テストでの競い合い(偏差値勝負)自体が減少している。
• 早期決着(年内集約):推薦や総合型選抜は秋〜冬前半で合否が決まるため、高3の冬〜直前期まで手厚い一般入試対策講座(講習費などの高利益商品)を購入してもらう従来モデルが成り立ちにくくなっている。
2. 「スケールメリット」が機能しない推薦対策
従来の予備校ビジネスは、「1人の名物講師が数百人に同じ授業をする(または映像授業を配信する)」という高利益率・高効率な標準化モデルだった。
しかし、総合型選抜で求められるのは以下の個別支援だ:
• 生徒個別の「志望理由書」の添削
• 探究学習の成果物(ポートフォリオ
これらは標準化(マニュアル化)が難しく、圧倒的に人件費がかかり、大手が得意としていた「大量生産・高収益」のビジネスモデルが通用しない領域なのだ。
3. 高すぎる「固定費」という巨大リスク
小規模塾が固定費の上昇で苦しむ一方で、大手は巨大な自社ビルや駅前の高額テナント、莫大な全国広告費、本部の管理コストを抱えている。
生徒数や受講単価が維持できなくなった際、これらの固定費がそのまま経営を強く圧迫する。実際に、かつて一世を風靡した老舗の大手予備校が校舎を一気に閉鎖・集約した事例は、この構造変化を象徴している。
予備校業界の「新たな二極化」
今後、大手・中堅塾の存続は以下の2つの方向性のどちらに舵を切れるかにかかっている。
【勝ち残る大手・専門塾の2大方向性】

① 難関大「一般入試」特化型 → 東大・医学部などの最難関層に絞り込み、高単価を維持
② 総合型・推薦+探究学習対応型 → 低学年からの探究・ポートフォリオ作成や個別指導へ転換
逆に、一番危険なのは「中堅大学をターゲットにしつつ、従来通りの一般入試対策の一斉授業・集団指導を続けている中堅〜大手塾」で、このターゲット層こそが、最も推薦選抜へのシフトと少子化の影響を受けるためだ。
とはいえ、 大手予備校各社も手を手をこまねいているわけではなく、近年は「総合型選抜専門塾の買収」や「探究学習プログラムの開発」「小・中学生向け英会話・プログラミング教室への進出」など、一般入試依存からの脱却を急いでいる。
大手教育企業や大手予備校も「一般入試依存の危険性」を強く認識しており、ここ数年で「専門塾のM&A(買収)」「EdTechベンチャーとの提携」「高校(B2B)向け探究支援事業の立ち上げ」などを急速に進めている。
大手各社が実施している具体策や新規事業の代表的なアプローチは、主に4つのカテゴリに分類できる。
大手教育・予備校グループの具体的な施策

1.総合型専門塾のM&A(買収・グループ化)
自社でゼロからノウハウを構築する時間を買うため、すでに実績のある専門塾を傘下に納める動きだ。
• ナガセ(東進ハイスクール):
AO・総合型選抜の老舗専門塾である「早稲田塾」を早期に買収・グループ化した。東進が得意とする映像授業・学力対策と、早稲田塾が持つ「ポートフォリオ作成」「小論文・面接指導」「論文執筆」のノウハウを組み合わせ、難関大の総合型選抜市場を先制して押さえている。
2.探究EdTech・ベンチャーとの業務提携
「個別指導の手間(人件費)」がかかる総合型選抜対策をデジタルで効率化するため、IT企業と組むケースが急増している。
• 河合塾 × Study Valley(スタディバレー):
探究学習支援プラットフォームを持つベンチャー「Study Valley」と連携し、実企業の課題を題材にしたオンライン探究講座を開講。生徒が探究活動を進めながら、そのプロセスや成果をAIツールで記録・整理し、そのまま総合型選抜の「志望理由書」や「ポートフォリオ」として活用できる仕組みを提供している。
3.高校現場(B2B)を押さえる新規事業
塾で生徒を待つ(B2C)だけでなく、高校の必修科目である「総合的な探究の時間」そのものを支援する学校向けサービス(B2B)へ参入し、早い段階で生徒との接点を作っている。
• ベネッセコーポレーション:
高校向けに探究学習・志望理由書作成・小論文対策をデジタルで一元化する学校向けパッケージ(『キャリアナビ』や『グロースナビ』など)を提供。AIによるポートフォリオ作成支援や探究チャット機能を組み込み、高校の授業内で「自己分析」や「年内入試対策」を完結できるインフラを全国の高校に広げている。
• 学研ホールディングス:
高校向けに「学研探究 小論文講座」や映像講座を展開し、探究学習の成果を進路や総合型選抜の小論文指導にダイレクトに紐付けるサービスを強化している。
4.体験・実績づくりの「プラットフォーム化」
総合型選抜では「何をやったか(活動実績)」が問われるため、テスト指導だけでなく活動実績を作る場そのものを塾が提供する新規事業が増えている。
• 課外活動・探究イベントの提供(河合塾など):
「みらい探究プログラム」やメタバース空間での探究フェス、リアルでの地域探究ツアーなど、専門家や企業と中高生をマッチングさせる体験型プロジェクトを開催。受験生が志望理由書に書ける「一次情報・独自の体験」を作れる場を提供している。
大手が目指す共通の狙い

これまでの予備校ビジネス→これからの総合型・探究ビジネス
・提供価値 →過去問の解法・偏差値向上
・サービス領域 →高校3年生の受験直前対策
・指導体制 → 講師1人対大人数の集団授業
・主戦場 → 塾の教室(B2C)
大手が特に注力しているのは、手がかかる志望理由書やポートフォリオの指導を「AIやEdTechツールで省力化・標準化すること」と、「高校の『探究の時間』にサービスを導入してもらい、高1・高2の段階から生徒を囲い込むこと」だ。
このように、大手教育企業は「ペーパーテスト対策の予備校」から、「キャリア育成と進路伴走のプラットフォーム」へと急速に自社構造を再構築しようとしている。