吉利汽車(Geely)はスウェーデンの「ボルボ(Volvo)」を買収し、そのエンジン開発部門を完全に統合し、現在、吉利はボルボの技術をベースにした自社製エンジンを開発しており、これを欧州車(メルセデス・ベンツの一部モデルなど)へ逆に供給している、という事だが、そもそもボルボの乗用車用エンジン技術は二流だ。⇒VOLVO V70 NORDIC 試乗記 (2010/11)
メルセデスが一部モデルで採用したというのは本当だろいうか。そしてどんな車種に使っているのだろうか。
ボルボのエンジン技術(特にフォード傘下時代や、吉利による買収直後の4気筒縛りのVEAエンジンなど)に対しては、歴史的に「一級品とは言えない」という手厳しい評価をくだす専門家やファンが少なくない。
それにもかかわらず、なぜメルセデスが吉利製エンジンを採用するに至ったのか、その採用車種と欧州プレミアムブランドの台所事情は以下のとおりだ。
🔷採用されている具体的な車種
この吉利製エンジンが搭載されているのは、新型「CLA」(2025年発表、2026年モデルとして展開)のハイブリッド仕様車(CLA 220など)だ。
• 搭載エンジン: 新開発の1.5L 直列4気筒ターボエンジン(型式名:M252)、および一部地域向けの2.0L ターボエンジン。
• システムの仕組み: 48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせ、トランスミッション内に小型モーターを内蔵した効率特化型(ミラーサイクル採用)。
• 生産体制: 基本的なアーキテクチャや設計基準はメルセデス側が監修・関与しているが、製造は中国にある吉利のパワートレイン部門(旧ボルボのエンジン部門であるAurobay、現在はルノーと吉利の合弁会社「HORSE Powertrain」の傘下)が担当し、ヨーロッパへ輸出されている。なお、欧州の厳しい排ガス規制(Euro 7)をクリアするため、触媒(キャタライザー)などの最終組み付けはドイツ国内で行われている。
また、メルセデスと吉利が50%ずつ出資する共同ブランド「スマート(Smart)」の新型SUV(スマート #5など)のハイブリッド(PHEV/レンジエクステンダー)モデルにも、吉利(HORSE)のパワートレインプラットフォームがそのまま活用されている。
🔷 なぜメルセデスは「二流」とも評された系譜のエンジンを選んだのか?
名門メルセデスがこの選択をした理由は、技術的な崇高さを求めたからではなく、「EVシフトの過渡期における徹底的なコスト削減」という極めて現実的な経営戦略によるものだ。
• 内燃機関(ICE)への投資停止と資金集中 :メルセデスをはじめとする欧州メーカーは、開発資金の大部分をEV(次世代バッテリーやソフトウェア)に投じている。もはや「自社で巨額の予算をかけて新しいガソリンエンジンをイチから開発する」余裕はなく、かといって市場のEV需要が鈍化する中でガソリン車・ハイブリッド車を廃止するわけにもいかないというジレンマに直面した。
• 吉利(HORSE)が持つ「圧倒的な生産規模」:吉利はボルボのエンジン部門を切り離して集約し、さらにフランスのルノーの内燃機関部門とも統合させて、年間500万基以上の生産能力を持つ巨大エンジン企業「HORSE Powertrain」を設立した。メルセデスにとっては、「設計だけ自社基準で行い、世界一安く大量にエンジンを作れる中国の巨人(吉利)に生産を丸投げする」のが最も合理的だっただった。
• 資本関係(大株主)の影響 :吉利汽車の創業者である李書福氏は、個人およびグループを通じてメルセデス・ベンツ(旧ダイムラー)の筆頭株主(約10%保有)の一人であり、この強力な資本パイプがあったからこそ、この大胆なエンジン供給・共同開発ディールがスムーズに進んだという側面も多分にある。
まとめ
「ボルボの系譜だから」という理由で選ばれたわけではなく、「メルセデスがEVに資金を集中させるため、ガソリンエンジンの製造コストを極限まで下げるパートナーとして吉利の工場を選んだ」というのが、この「中国製の心臓を持つベンツ」が誕生した舞台裏だった。