国の理系シフト方針にも関らず機械や電子電気系のガチな工学系が新設されないのは何故か


日本の大学は文科省の方針もあり、一気に理系シフトが起こっているが、ガチの工学系である機械や電子電気系については、新設も増強も見当たらない。しかし製造業の基本は殆どが電機系であり、この分野のエンジニアはこれ以上の増員は出来ない事になる。これで日本の産業には問題ないのだろうか?

1.なぜ「機械・電気電子」の増強が進まないのか
文科省の「大学・高専機能強化支援事業」などで理系転換が進んでいるのは、そのほとんどが「情報系(ソフトウェア・AI・データサイエンス)」だが、これには大学側の切実な事情がある。

• 初期投資と維持コストの圧倒的な差
◦ 情報系の学部・学科は、極論すれば「PCとサーバー、通信環境」があれば新設・増強が可能だ。

◦ 一方で、ガチの工学系(機械・電気電子)は、大型の実験設備、工作機械、高圧電気設備、クリーンルームなど、億単位の初期投資と膨大な維持管理費(技術職員の確保含む)が必要になる。定員割れを恐れる私立大学はもちろん、予算を削られ続ける国立大学にとっても、安易に増強できないのが実情だ。

• 受験生からの「見栄え」と人気の偏り
◦ 近年の受験生や保護者の間では、「スマートで高収入」なイメージのあるIT・AI・アクチュアリー系に人気が集まりがちで、地道で泥臭い実験や「工場」を連想させる機械・電気系は、実需(就職の強さ)の割に敬遠される傾向(いわゆる理工系の3K・地味イメージ)が根強く残っている。

2.日本の産業への具体的な影響と危機
自動運転、ロボティクス、次世代半導体、エネルギー、航空宇宙など、次世代産業のコアは「ソフトウェアとハードウェアの融合」で、ハード(機械・電気)のエンジニアが増えなければ、日本の産業には以下のような深刻な問題が生じる。

① 「動くもの」を作れない国になる(実装力の喪失)
AIやアルゴリズムがどれだけ進化しても、それを現実世界で物理的に機能させるには、モーターを回し、電流を制御し、熱を逃がし、構造の強度を計算する「機械・電気の知見」が不可欠となる。 ソフトウェアファーストを掲げた企業が、最終的にハードウェアの量産(テスト・評価、品質管理、製造技術)で壁にぶつかるケースは世界中で多発している

機械・電気系のエンジニアが枯渇すれば、日本は「アイデアやソフトはあっても、それを高品質な製品として形にできない国」になってしまう。

② 技術の「ブラックボックス化」と継承の断絶
日本の製造業の強みは、長年の「試験と評価」の積み重ねによる暗黙知や、すり合わせ(インテグラル型)の技術にある。これらは教科書やデータだけでは伝承できず、現場での泥臭い開発経験を通じて先輩から後輩へ引き継がれるもので、現在ベテラン層の退職が進む一方で若手が入ってこないため、「過去に作った製品の設計思想がわからない」「トラブルが起きたときに根本的な物理現象(熱・振動・電磁気)から原因究明できる人材がいない」という技術の断絶がすでに始まりつつある。

③ 国内半導体・EV戦略との致命的なミスマッチ
現在、日本は「Rapidus(ラピダス)」をはじめとする国内半導体基盤の再構築や、EV・電池産業への巨額の国費投入を進めている。しかし、半導体工場を動かすのも、EVのモーターやインバーターを開発するのも、すべて機械・電気電子系のエンジニアで、工場や予算はあっても、現場を支える「ガチ工学系」の頭数が足りず、壮大な国家戦略が人材のボトルネックによって足踏みするリスクが極めて高まっている。

3.今後の展望と「生き残り」のシナリオ
この状況に対し、これ以上の増員が望めないのであれば、日本の産業はどのように対応していくべきなのだろうか。

• 「高専(高等専門学校)」の再評価と活用
◦ 大学の工学部が情報系にシフトする中、実践的な機械・電気・電子の教育を維持し続けている「高専」の価値が爆発的に高まっている。主要な製造業では、大卒・院卒だけでなく、高専生をいかに確保し、社内教育で高度エンジニアに育て上げるかが勝負になっている。

とはいえ、高専のが学生数は約6万人で、大学生の約265万人に対して全く足りない状況だ。

• 「情報×ハード」の二刀流人材へのリスキリング
◦ 既存の機械・電気エンジニアに情報技術(AI・データ分析)を掛け合わせる、あるいはその逆を行うことで、1人当たりの生産性を極限まで高めるアプローチです。単なる「頭数」の勝負ではなく、高度な「テスト・評価の自動化」などを進めることで、人員不足をカバーする動きが進んでいる。

• 待遇(給与)の大幅な改善
◦ 現状、IT・コンサル系に比べて製造業のエンジニアの処遇は見劣りするケースが少なくない。しかし機械・電気エンジニアの「希少価値」がここまで高まれば、企業側も従来の一律の賃金体系を崩し、ハード系技術者を高待遇で囲い込まざるを得なくなる。これが市場原理として働けば、結果的に大学での人気復権につながる可能性もある。

まとめ
国(文科省)が進める現在の「理系シフト」は、目先のIT・デジタル人材の不足を埋めるための「部分最適」に偏っており、日本の国力の源泉である製造業・ハードウェアの基盤を揺るがしかねない「全体最適の欠如」という大きな矛盾を抱えている。

「ソフトウェアがハードウェアを飲み込む」と言われる時代だからこそ、そのソフトを現実世界で駆動させる「機械・電気電子」の価値はむしろ高まっている。国や教育機関がこの歪みに気づき、ハードウェア工学への投資や支援の舵を切り直せるかどうかが、今後の日本の産業の命運を分けると言える。

大学の定員という「量」が増えない以上、今いる限られたハード系人材をどう「高度化」し、どう「処遇」していくかが、日本の製造