米国は量子コンピュータを「21世紀のマンハッタン計画」級の最重要国防・経済技術と位置づけており、中国の猛追を絶対に阻止する構えだ。
現在の米国は、かつての半導体規制(モノの輸出を止める)で得た教訓をもとに、「サプライチェーン、資金、人材、クラウド」の全方位から中国を窒息させる「あの手この手」をすでに展開、あるいは強化しつつある。具体的には以下のようなシナリオと実策が進められている。
1.チョークポイント(急所)部品の「輸出禁止」
量子コンピュータ本体だけでなく、それを製造・稼働させるために不可欠な「周辺装置や素材」をピンポイントで止める作戦だ。
• 希釈冷凍機の禁輸:超伝導方式などの量子コンピュータは、宇宙空間よりも寒い「絶対零度近く(マイナス273.15℃)」まで冷やす必要がある。この超低温を作り出す「希釈冷凍機」のコア技術は、米国、英国、フィンランド、日本など西側諸国が握っており、中国への輸出が厳しく制限されている。

• 専用計測器・配線の遮断:微弱な量子信号を制御するための超高性能な同軸ケーブルや高周波測定器など、西側が優位に立つ部材のアクセスを断つことで、中国製システムの大型化(高量子ビット化)のペースを物理的に遅らせようとしている。
2.投資制限による「資金と知見の遮断」
米国財務省はすでに、米国の個人やベンチャーキャピタル、投資ファンドが中国の量子技術、AI、先端半導体セクターへ投資することを原則禁止する措置を導入している。
狙いは「お金」ではなく「ノウハウ」:
中国はお金(国家予算)は持っているが、それ以上に重要なのは、米国の投資家が持ち込む「経営ノウハウ」「グローバルな技術ネットワーク」「スタートアップ育成の知見」が中国へ流入するのを防ぐのが本当の狙いだ。
3.「クラウドの抜け穴」を塞ぐ規制
ハードウェアの現物を中国に渡さなくても、中国の技術者がインターネット経由で米国の高性能な量子コンピュータ(IBMやGoogleなど)にアクセスして計算を行えば、実質的に技術を利用できてしまう。
• 米議会や政府は、中国をはじめとする懸念国が、米国内のデータセンターにある先端AIや量子システムをリモート利用することを防ぐ「クラウド規制(Remote Access Security Actなど)」の法制化や厳格化を進めている。アクセスするユーザーの厳格な本人確認(KYC)が義務付けられつつある。
4.同盟国を巻き込んだ「包囲網(多国間規制)」
米国一国で規制しても、日本や欧州から技術が漏れては意味がない。米国は日本、オランダ、英国、カナダといった量子強国に対し、共同で足並みを揃えて輸出管理を行うよう強い圧力をかけている。
• 実際に、米国商務省産業安全保障局(BIS)は国際パートナーと連携し、量子コンピューティング関連製品やソフトウェアを対象とした国際的な輸出コントロール枠組みの整備を急ピッチで進めている。
5. 「エンティティ・リスト(禁輸ブラックリスト)」の大規模適用
中国の主要な量子研究機関(中国科学技術大学関連など)や、Origin Quantum(本源量子)などの代表的なスタートアップ、さらにはそれらを支援するサーバー大手などを次々と「エンティティ・リスト(取引禁止リスト)」に指定している。これにより、米国の技術が1滴もそれらの組織に流れないよう法的障壁を築いている。
中国側の「対抗策」と今後の展開
これに対し、中国もただ手をこまねいているわけではない。 米国の締め付けに対抗し、中国は「西側の部品(冷凍機など)を必要としない技術方式」へのシフトを強めている。具体的には、室温で動作しやすい「光量子方式」や「中性原子方式」に莫大な国家予算を投じ、米国の裏をかく独自のサプライチェーン構築を急いでいる。
米国の「徹底的な封じ込め」と、中国の「意地の内製化・スピード勝負」。このハイテク冷戦は、今後さらに激化していくことは確実だが、まあ例によって「絵に描いた餅」となるような気もするが‥‥。