BYDへの補助金大幅減額に対する中国の反応は?





このBYDへの補助金大幅減額に対して中国政府(商務部など)や中国メディアは、アメリカやEUで見られるような「激しい公式批判やWTO(世界貿易機関)への提訴」といった派手な対抗措置は、今のところ表立って取っていない。

しかし、これは納得しているわけではなく、「日本の巧妙な制度設計」と「BYDの日本市場における戦略」から、あえて反発のトーンを抑えている(あるいは抑えざるを得ない)というのが実態だ。

中国側の本音と、派手に騒げない背景には以下の要因がある。

1.表面化する「不満」とメディアの論調
公式な外交問題にまでは発展させていないが、中国の経済メディアや共産党系の報道では、日本の新制度に対して以下のような冷ややかな視線や警戒感が示されている。

• 「事実上の非関税障壁」という見方:中国メディアは、充電インフラの整備状況や災害対応といった「車両の性能とは関係のない付加価値」を基準にしたことについて、「外国企業(特に中国企業)を排除するための意図的なルール変更(非関税障壁)だ」と批判的に報じている。

• 「保護主義」への警戒:欧米が関税引き上げなどの直接的な手段で中国製EVを締め出す中、日本も手法を変えて「実質的な中国排除」の列に加わった、という見方を強めている。

2.中国側が「猛反発」しにくい3つの理由
アメリカのインフレ抑制法(IRA)や、EUによる中国製EVへの追加関税に対しては、中国政府は即座に「保護主義だ」と猛反発し、WTOへ即刻提訴している。しかし、日本のケースでそれができない(しにくい)のには、日本の制度設計の「巧妙さ」が関係している。

① 「中国狙い撃ち」と言わせないルール設計
日本の新制度は、表向き「中国製を排除する」とは一言も書いていない。「サイバーセキュリティ」「国内の整備網」「災害時の社会貢献度」という、どの国のメーカーにも等しく適用される(建前上は)客観的な基準を設けている。 中国政府がこれで日本を「差別的だ」と国際社会(WTOなど)に訴えようとしても、日本側から「いや、インフラ投資や安保基準を満たせばどの国でも満額出しますよ。現にアメリカのテスラは満額に近いですよね?」と言い返されてしまうため、国際法違反として突きにくいのだった。

② 自国の「巨額補助金」というアキレス腱
そもそも中国は、自国のEV産業(BYDなど)に対して政府が巨額の補助金を投入し、圧倒的な価格競争力を生み出してきた。これが欧米から「不当な市場歪曲だ」と叩かれている最中であるため、日本に対して「補助金の出し方が不公平だ」と強く主張すると、逆に自国の不透明な補助金体質に再びスポットライトが当たってしまうというジレンマがある。

③ BYD自身の「日本市場での戦略」
BYD自身は、日本市場を「今すぐ大量に売って利益を出す市場」というよりは、「世界で最も品質に厳しい日本市場で認められた」というブランドステータス(箔)をつけるための市場と位置づけている。 そのため、ここで日本政府や日本の世論と全面戦争をして「やっぱり中国車は安全保障上危険だ」「ごり押ししてくる」というネガティブなイメージが定着することを一番嫌がる。販売が低迷し、ヤナセを巻き込んだディーラー網構築が破綻しかけている苦しい状況だからこそ、これ以上日本国内の保守層や世論を刺激したくないという計算が働いている。

総 括
中国側の反応を一言で言えば、「日本の『高水準な安全保障・インフラ基準』という大義名分を前に、内心は苦々しく思いつつも、下手に騒ぐと逆効果になるため沈黙(あるいは静観)を保っている」というのが現状だ。

欧米のような派手な関税合戦にはなっていないが、高市政権による「インフラ・安全保障の網」を使ったピンポイントの締め出し戦略は、中国側に決定打を与えつつも反論の手を縛るという点で、非常に冷徹かつ効果的に機能していると言える。