韓国の防衛大手ハンファグループが、オーストラリアの造船大手オースタル(Austal)社の株式を19.9%まで買い増し、筆頭株主となった件は、日豪の防衛協力(特に「もがみ型」フリゲート艦の現地生産推進)において安全保障上の大きな関心事となっている。

日本が誇るステルス技術や高度な艦載システムといった機密が、競合である韓国側に漏洩しないかという懸念に対し、日豪両政府およびオースタル社は主に「制度的・物理的なアクセス制限」と「国家間協定の厳格化」によって対策を講じている。
1.豪政府による「条件付き」の株式取得承認
オーストラリア政府(外国投資審査委員会:FIRB)は、ハンファによる19.9%への出資比率引き上げを承認する際、防衛機密を守るための厳格な法的条件を付帯させた。
• 機密情報へのアクセス遮断:ハンファ側(出資者)がオースタル社の保有する機密防衛情報や技術データへアクセスすることを法的に厳しく制限・禁止している。
• 取締役会での制限:オースタル社は、ハンファが取締役(役員)の派遣を求めてきた場合でも、国家安全保障に関わる重要テーマを議論する場からはハンファ系取締役を排除する、あるいは議事録などの閲覧を制限する独自のガバナンス措置を検討している。
2.日豪「防衛装備品・技術移転協定」に基づく情報保護
日本とオーストラリアの間には、防衛装備品や技術を融通する際の基本ルールを定めた協定がある。
• 第三国への移転制限:もがみ型フリゲートの技術は、日本政府の事前同意なしに第三国(韓国やハンファ社を含む)に開示・移転することは国際法上許されない。
• セキュリティ・クリアランスの適用:実際の製造現場(オースタルのヘンダーソン造船所など)では、日本の機密技術に触れる労働者やエンジニアに対して、オーストラリア政府が厳格な身辺調査(セキュリティ・クリアランス)を行う。大株主だからといって、資格のない人間が現場や設計データに近づくことは物理的・システム的に遮断される。
3.「段階的」な技術移転プロセスの採用
もがみ型フリゲート11隻の調達において、日豪は一気に現地生産を行うわけではない。
• 最初の3隻は日本国内(三菱重工など)で建造:2029年までに引き渡される初期の3隻は日本国内で建造し、オーストラリア側への技術移転の度合いをコントロールする。
• 残り8隻の現地建造への移行期における検証:残りの8隻をオーストラリアで建造する「オンショア・ビルド(現地生産)」へ移行するまでの間に、オースタル社の情報管理体制が機能しているかを日本・オーストラリアの双方が検証する猶予期間が設けられている。
4.米国政府(CFIUS)による監視の目
オースタル社はオーストラリアの企業だが、実は売上の多くをアメリカ国籍の船舶建造(米海軍向けの沿海域戦闘艦など)から得ている。そのため、米国の外国投資委員会(CFIUS)や国防対情報・安全保障局(DCSA)も同様に監視の目を光らせており、ハンファが「19.9%を超えて経営権を握る(買収する)」ような動きに対しては、米・豪・日の共同網でブロックする体制が敷かれている。
まとめ
ハンファは19.9%の「筆頭株主」にはなったが、過半数の株式や経営権(支配権)を握ったわけではない。日豪両政府は、彼らをあくまで「財務的な投資家」の枠内に留め、防衛機密の現場からは法制度と物理的セキュリティによって完全に分離するという方針で一致している。