ニッサン ティーダ 15M (2005/2/12)

 

 


マツダ アクセラ


フロントはプリメーラ以下、軽のモコまで共通の顔だから、一目でニッサンのコンパクトカーと判る。


ニッサンのアイデンティティを表すフロントに比べて、リアは何となく何かに似てるような?

発売以来、常に販売台数の上位に顔を出し、1月の登録台数では1位の王者カローラに35台差まで迫ったティーダの人気は一体何処にあるのか?

試乗車は15Mという中間グレードで、価格は157.5万円(消費税含む)。実際に一番売れているグレードらしい。この下は装備を簡略しミッションをCVTから4ATとした15S(142.8万円)と、レザーシートやレザーステアリングなどを装備した15G(172.2万円)、さらにエンジンが1.8ℓの18G(184.8万円)というラインナップだ。

外観はフロントから見れば、これは明らかにニッサンの顔をしている。プリメーラを筆頭に下は軽のモコまで共通だから、誰が見ても一目でニッサン車と判る。それに比べてリヤは何となく何かに似ているような気がするが。


リアシートは前後にスライドするので、最後端にセットすれば足元は非常に広い。
さらにバックレストはリクライニングする。写真は左のシートを一杯に立てたところ。

コンパクトハッチとしては異例に豪華というか、上級車的な内装。旧型ローレルあたりのオーナーでも違和感はないだろう。
シート幅をドアギリギリまで広げたために、普通のクルマにある筈のシート調整用のレバー類が中央側(ドライバーなら左)にある。

今回は乗り込む前にリアシートを見ると、なんとシート自体が前後にスライドするだけではなく、リクライニング機構も付いている。シートを一番後方へスライドさせると、前席との隙間はコンパクトカーどころかLサイズセダン並となる。さらにリアシートにはセンターにアームレストを備えているから、まさに上級セダンなみの居住性という宣伝にはウソは無い。

運転席に座りドアを閉めて、シートの調整をしようとシート右側面に右手をやるが、シートとドアとの隙間は狭く、手を入れる余地は無い。一瞬悩んでいる時にセールス氏から左にある事を教わる。ところが、人間の慣れとは恐ろしいもので、今まで左手でこのような動作をするという習性がないので、上手く力が入らなかったりして、実に使いづらい。車幅(車格とも言える)に対して、より幅広座面のシートを付けたための苦肉の策のようだが、その恩恵もあり座り心地はコンパクトカーの常識を超えて、ひじょうに良い。ただし、柔らかめの座り心地は、果して長時間の運転ではどんなものだろうか?
試乗した15Mというグレードのシート表皮はサイドが人工皮革で、フーガの250あたりに使っているとやけに安っぽく感じたが、ティーダなら結構違和感がない。

内装も国産の上級車と変らない出来で、ダッシュボートやドア内張りは弾性樹脂で覆われていて、大衆車によくある皮のような模様が付いていて、如何にも衝撃を吸収してくれそうな外観なのに、手で叩いて見たらコチコチと硬い樹脂だった、なんていうことは無い。
このコンパクトハッチとしては異例に豪華な内装は、しかし、よく見れば如何にも国産車的な豪華さで、欧州のプレミアムカーの雰囲気とは異なるから、この点ではセド/グロとかローレル/セフィーロ等からの乗り換えユーザーが一番自然に受け入れられるだろう。


国産コンパクトハッチとしては異例に豪華な内装。上級車からの乗り換えユーザーにも違和感はないだろうが、如何にも国産車的豪華さだから、欧州プレミアム車のユーザーの感性にはどう写るのだろうか?

走り出すと、1.5ℓの新エンジンは低速から十分なトルクを発生し、通常の交通の流れに乗るには十分だ。フルスロットルを試してみれば、当然ながら大した加速はしないが、CVTとは言え5000rpmくらいまでは回り、その時のエンジンの音や振動は大衆車のレベルとしては中々良く、すくなくとも回りを気にするほどの酷い騒音や振動は出さない。しかし、2.5ℓクラス以上から乗り換えるような場合は、最近追加された1.8ℓを選んだ方が良いだろう。この1.8については、近いうちに試乗してみたいと思っている。
最近のCVTは、以前に比べて違和感が随分少なくなった。試乗車も普通に走っている分には、ATに乗りなれている人でも特に何も気にしなくてよい。

乗り心地は、非常に良い部類に入る。言い換えればサスは柔らかめだ。だからと言って、フワフワする事はないから、フラットとは言わないが決して安定性は悪くない。
実はこのティーダと言う車は、大きさから見れば、欧州式で言うところのCセグメントになるのだが、何を隠そうプラットフォームはマーチと共用・・・すなわちBセグメントなのだ。したがって、最大の興味は格下のプラットフォームによる走りに問題はないのか?チャンと走るのか、という点にある。

ステアリングは軽い操舵力で、結構クイックだ。カローラのように停車した状態でグニャグニャと30°あまりも回ってしまうと言うこともないし、舗装の継ぎ目でクルマが30センチも横に持っていかれることもない。ただし、パワーアシストのフィーリングは何となく不自然だ。後で調べて見たら電動パワステだった。これも特に気にしなければ問題ない程度だから、欧州車のオーナーがセカンドカーとして購入する場合でも、十分我慢が出来る範囲にある。

では一番興味のあるコーナリングは?という事で、いつも走りなれている旧道を取り合えず最初のコーナーは一般的な速度で回ってみると、これは特に問題なし。そこで、徐々に速度を上げていって、このクルマの一般的オーナーならまずこれ以上は出さないだろうと思える程度の速度で回ってみたが、特に冷や汗をかくようなことはなかった。しかし、リアは「これ以上速度を上げたら責任もてないぞ!」と言いたげな感じが伝わったような気がして、それ以上速度を上げるのは止めることにした。同じ場所で、1シリーズやフーガはもっとコーナリング速度を上げても、安心して回れるが、この点ではBセグのプラットフォームなんだと自分に言い聞かせるしかない。当たり前だが、このクルマで走ることに喜びを期待するのは無理だ。

最近のニッサン車のブレーキは、どれも踏力が軽く結構食いつき感もあるし、ストロークも適度でべダルに剛性感があるという、中々良い特性になっている。これまた勿論、欧州車のようにチョッと踏めば即座にグイッと減速するまでには至らないが、普通に使うには十分だ。
それに普通の速度なら旋回中に強めのブレーキをかけても、ふらついたりする事もない。


タイヤは全グレードとも185/65R15が標準。スチールホイールにフルホイールキャップも全グレード共通で、レザー系のシートまで奢っているGでさえアルミホイールはオプションとなる。
この事実がティーダの想定するユーザー層の特徴を端的に現している。

特に際立った点もないが、欧州プレミアムカー、いわゆるベンツ・ビーエムのユーザーでも乗った瞬間に、こりゃ駄目だと愕然とすることもない。何より、走り出した瞬間から、まあこんなもんでも十分じゃないかと思う説得力ある走りは以前のニッサンには無かったものだ。ティーダは、だからこそカローラに迫った。いや、フィールダーやランクス、果てはスパシオまでカローラと付くもの全部を足したカローラ軍団に、このティーダと4ドアセダンのティーダラティオだけで、ここまで売ったのだから事実上の勝利と言える。

では、ライバルと思えるマツダアクセラに比べてどうかと言えば、アクセラは真っ当なCセグメントで、ボルボはS40/V50に流用して、他のDセグメント(何とメルセデスCやBMW3!)のライバルと言って売っているくらいのシッカリしたシャーシで、リアサスペンションだってティーダのトーションビームに比べてマルチリンクだし、実際に乗り比べてみれば走行性能は当然アクセラに軍配が上がる。ところがアクセラは内装がチャチだから(内装を高級にしたらボルボになってしまう)、この点ではティーダの勝ちで、どちらを選ぶかはオーナーの考えかた次第だ。どちらも、価格だけの価値はあるので、クルマになんか金をかけたくない(もしくはかけられない)という人には十分に薦められる。

このティーダは年配オーナーによる上級車からのダウンサイジングが結構あるそうだ。今まで長年頑張って、40代の働き盛りに買ったセドリックグランツも大分ガタ来てそろそろ買い替え時期だ。ところが、世の中、若い世代が重要視されて、オトウサンの経験やノウハウなんて全然評価されない時代になってしまった。気が付けば役職定年のオトウサンの今度の上司は、昔自分が育てた部下だった。それもバブル時代に人事がバカ大学に必死で頭を下げて採用した奴らだから、新人の挨拶の時に出身大学を言った途端に皆がプッと吹き出した、なんて過去が脳裏を過ぎる。今だってTOEICやっとこ200点なんていう基礎学力だ。そんなヤツがただ若いと言うだけで上司だと!なんて、怒りながら、プライドの高いオトウサンは本気で早期退職という選択もあると考え始める。そうなれば今後のことを考えて、フーガなんぞに代換えするよりも、もっと小さくて安いクルマにするほうが利巧かとも思いはじめる。でも、コンパクトカーはチャチだし、遅いし。そんなオトウサン達が目を向けるティーダは、ニッサンとしては珍しく時代を読んだ、マーケッティングに長けた名コンセプトのクルマと言えるだろう。

売れて当然!