原油産油国のイランでガソリン不足 あと2か月でガソリンが無くなる


世界有数の原油埋蔵量を誇るイランでガソリン不足が深刻化し、「あと2か月で在庫が枯渇する」と報じられる背景には、「原油の産出能力」と「ガソリンの精製・供給能力」の決定的な乖離がある。

1. 産油国イランで「ガソリン不足」が起きる3つの理由

地中に大量の石油があるにもかかわらず、スタンドにガソリンがないのには明確な理由がある。

①「原油」はあるが「ガソリンを作る設備(精製能力)」がない
原油はそのままでは自動車の燃料になりません。製油所で精製・加工する必要がある。
イランは長年の欧米による経済制裁の影響で、製油所の最新部品や精製技術を調達できず、設備の老朽化が深刻化している。国内のガソリン需要(日量約1.3億リットル)に対し、国内の精製能力(日量約1.1億リットル)が大幅に下回っており、毎日1,500万〜2,000万リットル以上の慢性的な不足が生じている。

② 世界一安い「ガソリン補助金」による爆発的な消費と密輸
イラン政府は国民不満を抑えるため、世界で最も安いレベルの価格(1リットル数円程度)でガソリンに多額の補助金を出している。

• 過剰消費:燃費の悪い旧型車が街にあふれ、無駄遣いが常態化している。

• 大量の密輸:隣国(パキスタンやイラクなど)で売れば数十倍の価格になるため、安く買ったガソリンが組織的に国外へ密輸され、国内供給をさらに圧迫している。

③ 戦火・軍事衝突によるインフラ損傷と輸入ルートの途絶
不足分を外国からの輸入で補っていたが、近年の米・イスラエル等との軍事衝突や海上封鎖、製油所・エネルギー関連インフラへの直接的攻撃・損傷によってガソリンの輸入ルートや精製ラインが途絶した

2. 「あと2か月でガソリンが無くなる」情報の背景

ロイター通信などの報道によると、米国による金融・海上圧力の強化や供給網の断絶により、イラン高官の証言として「現在のペースで備蓄を取り崩せば、約2か月分しかガソリン在庫が残っていない」という内部試算が浮き彫りになった。

政府は急遽、個人への割り当て(給油制限)を厳格化しているが、ガソリンスタンドには長蛇の列ができ、社会不安が急増している。

3. 「これで戦争なんてやってられるのか?」という問いの現実

結論から言えば、「国家としての総力戦や長期戦をやれるような状態ではない」のが現実的な見立てだ。

それにもかかわらず、軍事行動や強硬姿勢が続いている背景には、以下のような事情がある。

① 軍事用燃料と「民生用ガソリン」の分離
軍事作戦で使われる燃料(航空燃料、ディーゼル、特殊燃料など)は、国民が普段使う乗用車用ガソリンとは別枠で最高優先度として備蓄・管理されている。国民生活が立ち行かなくなっても、軍や革命防衛隊(IRGC)の装備を動かす燃料だけは死守される。

② 非対称戦(ミサイル・ドローン)主体の作戦
イランの主な脅威・反撃手段は、大量のガソリンを消費する大規模な陸上部隊を展開する戦いではなく、弾道ミサイルや自爆型ドローン、代理勢力(プロキシ)を使った遠距離攻撃だ。そのため、国内のガソリン不足が直ちにミサイル発射能力の全廃を意味するわけではない。

③ 最大の敵は相手国ではなく「国内の暴動」
しかし、市民の生活インフラであるガソリンが途絶することは、政権にとって致命的となる。

イラン指導部の厳しい綱渡り:対外的緊張 vs 国内崩壊

過去(2019年など)にもガソリン値上げや供給不足をきっかけに政権を揺るがす大規模な抗議デモや暴動が発生した。ガソリンの枯渇は、外敵との戦争以前に「国内の経済崩壊と反政府デモによる内政崩壊」を招く最大のアキレス腱となっている。

イラン指導部は、「外との軍事的な緊張状態を維持して政権の求心力を保ちたい」一方で、「国内のエネルギー・食料供給がパンクして足元から崩壊する」という、極めて厳しい綱渡りを強いられている。