中国の銀行業界では支給済みの業績連動給やボーナスを後から返還・回収する制度が常態的に定着


中国の銀行業界では、支給済みの業績連動給やボーナスを後から返還・回収する「業績報酬追索・返還(績效薪酬追索扣回)」制度(通称:反向討薪=給与の逆回収)が、単なる例外的な処分から業界標準の常態的な仕組みへと定着している。

1. 制度の概要と仕組み

本制度は、金融機関の行員や幹部が関与した融資や事業で後に不良債権や重大なリスクが発生した場合、過去に支払われた業績給・ボーナスの一部または全額を遡及して返還させ、未支給の繰り延べ報酬を取り消す仕組みだ。

• 対象者:役員だけでなく、融資審査・リスク管理・営業などを担当する一般行員まで幅広く適用される。

• 繰り延べ支払いと連動:金融当局の指針に基づき、幹部や重要ポストの行員は業績報酬の40%以上を3年以上の期間で繰り延べ支給することが義務付けられており、この期間内にリスクが発覚すると支給停止や回収が行われる。

• 「退職=免責」の撤廃:すでに退職・転職した元従業員に対しても返還請求が行われる。

2. 常態化の背景

制度が急速に拡大・定着した背景には、規制上の要請と経済環境の変化という2つの側面がある。
• 金融監督当局によるリスク管理強化
国家金融監督管理総局(旧・銀保監会)が定めた指導意見により、短期的成果のみを追っ過度なリスクをとる過剰インセンティブを防ぐことが求められた。

• 「共同富裕」政策と高給抑制圧力
金融業界における過度な高給や浪費(いわゆる「享楽主義」)に対する世論や政権からの批判を受け、業界全体で総人件費の削減と格差是正が推し進められた。

• 不動産不況と利ざや縮小による業績悪化
不動産市場の低迷に伴う貸し倒れリスクの急増や純利ざやの縮小により、銀行側が過去の過剰なインセンティブを回収して自社の貸倒引当金や財務基盤を維持する必要性が生じた。

3. 実態と回収規模(直近データ)

主要上場銀行の決算公表(年次報告書)では回収状況の定量的開示が定着しており、その規模は年々拡大している。

直近の実施状況・回収規模
・中国銀行:
直近3年間で累計1億人民元(約25億円)超を回収(延べ9,000人以上が対象)。単年でも約4,700万人民元(約10億円・延べ4,630人)を追索・回収し、規模は年々拡大。

・大手股份制銀行、(浙商銀行、渤海銀行、招商銀行など)
各行で年間数千万元(数億円〜数十億円)規模の回収を実施。対象人数は1行あたり数百〜数千人規模。

地方農商銀行・香港子会社:
地方の農村商業銀行での回収額倍増や、香港に置かれた国有金融機関の拠点においても一部の過渡的な手当やボーナスの返還が求められる事例へと拡大。

※大手銀行全体の公開分だけでも毎年数十億円規模の返還が確認されているが、非開示の銀行も含めた実際の業界全体での回収規模はさらに巨大であるとみられている。

4. 業界および社会への影響と課題

① 融資現場の過度な保守化(貸し渋り)
行員が「将来の給与返還リスク」を極度に恐れるようになり、新規融資や挑戦的な案件に対してきわめて消極的になるという弊害が指摘されている。

2. モチベーション低下と人材流出
給与カットと給与逆回収の二重の圧力を受けることで、現場の不満が高まり、優秀な金融人材の離職や業界全体の意欲低下につながっている。

3. 法的トラブルの増加
「責任の所在や過失の定義が不明確」「個人的過失ではない市場環境悪化による損失まで自己負担させられる」といった不服から、行員と銀行間での労働紛争や裁判に発展するケースが増加している。

それにしても、まるで漫画にもならないくらいの常識外れの実態だが、国民監視システムのおかげで暴動を何とか食い止めているようだが、何時まで持ちこたえるのだろうか?