3月上旬にイラクから数千人規模のクルド人戦闘員がイランへ越境し地上攻撃を開始するも、米イランの停戦で活動は収まった。
しかし 米イラン間の停戦が事実上破棄された今、クルド人勢力がイラン国内でのゲリラ活動を再開・活発化させる可能性は極めて高いし、可能性の話にとどまらず、すでに6月末から7月上旬にかけて、イラン国境地帯や自治区周辺で局地的な武力衝突が実際に再開している。
トランプ大統領が7月10日に「停戦は終わった」と明言するに至った背景も含め、クルド勢力が再び活発化する(せざるを得ない)主な要因を4つの視点から整理する。

1.すでに始まっている前哨戦(6月末〜7月の動向)
米イランの外交交渉が停滞し、ホルムズ海峡での応酬が再開したのと歩調を合わせるように、イラン国内のクルド居住地域では再び火の手が上がっている。
• 地上での衝突:7月1日夜、イラン西部のピラーンシャハルやサルダシュト近郊で、イランのクルド系反体制武装組織とイラン革命防衛隊(IRGC)との間で激しい戦闘が発生し、双方に複数の死傷者が出ている。マハーバード付近でもクルド系の「クルディスタン自由生命党(PJAK)」との衝突が報じられた。
• イランによる越境空爆:イラン側はこれに対し、7月2日にもイラク側のクルド自治区(KRG)内にあるクルド民主党(PDKI)のキャンプや、クルディスタン自由党(PAK)の拠点をドローンで先制攻撃している。
2.米国・イスラエルによる「第二の戦線」としての思惑
3月の開戦初期、米国やイスラエルの情報機関がイラン国内を揺さぶるためにクルド人勢力を背後から支援・動員しようとした動きがあった。 今回、せっかく6月に結んだ和平交渉への覚書(MoU)が白紙に戻り、米イランが再び正面衝突の様相を呈したことで、「イランの戦力を分散させるためにクルドのゲリラ活動を再び利用・支援する」という西側諸国の戦略的インセンティブ(組織がビジョンや長期目標を達成するために「絶対に遂行しなければならない最優先事項・不可欠な要素」)が再び跳ね上がっている。
3.クルド統一戦線(CPFIK)の組織化
2026年に入り、それまでバラバラだった主要なイラン系クルド政党が「イラン・クルディスタン政治勢力連合(CPFIK)」として歴史的な一元化を遂げた。 3月時点の越境作戦の際にも、彼らは「我々の部隊はすでにイラン深部や国境沿いに展開し、次のフェーズに備えている」と宣言していた。この統一された司令部と数千人規模の戦闘員(ペシュメルガ)のネットワークは、停戦期間中も解体されたわけではなく、命令一つで再びゲリラ戦へ移行できる戦闘態勢を維持している’。
4.「自衛」という大義名分と国内の反発
イラン政権側は、国内の少数民族であるクルド人が体制転覆の導火線になることを極端に恐れている。そのため、停戦期間中であってもクルド系政治犯の処刑や、国境の密輸業者(コルバル)への銃撃、徹底的な監視の目を緩めなかった。 PJAKなどの武装組織は「我々は関与せず静観していたのに、イラン側から攻撃を仕掛けてきた。ここからの武力行使は正当防衛(自衛権の発動)である」との声明を出しており、過酷な弾圧に対する地元のクルド住民の怒りも相まって、ゲリラ活動を正当化しやすい土壌が完成している。
今後の焦点:
焦点となるのは、彼らが拠点を置く「イラク・クルド自治区(KRG)」の出方で、KRGの指導部はイランからのこれ以上のミサイル・ドローン攻撃(3月にはペシュメルガ本部が直撃され大打撃を受けた)を避けたいため、イラン系クルド部隊を抑え込もうとする政治的圧力をかけている。 しかし、米イランの全面戦争が再点火すれば、KRGの統制を無視して数千人規模のゲリラが再び国境を越えて浸透していくのを止めるのは極めて困難だろう。