AIデータセンターの急拡大に伴い、ニアラインHDD(大容量ストレージ向けHDD)の需要は爆発的に伸びている。そして、その心臓部である「流体動圧軸受(FDB)スピンルモータ*」(日本電産=ニデック、ミネベアミツミなど)や、データを記録する磁気ディスク基板(昭和電工=レゾナックなど)といった超精密コンポーネントは、日本企業が世界シェアの大部分を独占、あるいは市場を完全に支配しているのが現実だ。
*流体動圧軸受(FDB)スピンルモータ:軸と軸受の隙間にオイルなどの流体を満たし、回転によって生じる流体の圧力(動圧)を利用して軸を浮揚させて回転させる軸受け機構

この実情に対して、経済安全保障や「テクノロジーの自立(国産化)」を国策として掲げる中国が、この極めて高い障壁(チョークポイント)にどう対応しているのか、その戦略と現状は以下の3つのアプローチをおこなっている。
1.「半導体」の二の舞を避けるための国家プロジェクト化
中国政府は、米国による先端半導体規制(輸出制限)でサプライチェーンを断たれた手痛い経験から、HDDコンポーネントにおける「日本依存」も将来的な地政学的リスク(制裁など)の急所になると強く警戒している。
• 「信創(しんそう)政策」の適用:中国は政府機関や金融、インフラ、そして国有企業のデータセンターに対し、外国産(日米など)のハードウェア・ソフトウェアを排除し、安全性が担保された国産製品に置き換える「信創(情報技術アプリケーションイノベーション)」政策を強烈に推し進めている。
• 「ホワイトリスト」による誘導:中国製のHDDやストレージシステムのみを重要インフラに採用させることで、間接的に「部品の国産化」を達成した企業に巨額の政府補助金や調達を約束し、国内の部品メーカーの育成を急がせている。
2.寡占市場への「力技」の食い込み
HDDの完成品市場は米国のウエスタンデジタル(WD)、シーゲイト、そして東芝の3社で占められており、部品も日本企業が独占しているため、中国は「買収」「技術引き抜き」「自国生産の強要」という得意のパターンで対抗している。
• 現地生産の「人質」化:ニデックやミネベアミツミなどは、中国国内(浙江省や東莞市など)に大規模な精密モーターの生産拠点を置いている。中国政府は、これらの企業が中国市場でビジネスを継続する条件として、現地サプライチェーンの構築や、現地技術者の登用、さらには間接的な技術移転を迫る圧力をかけ続けている。
• ベアリング・モーターの基礎研究への巨額投資:中国は「新幹線(高鉄)」の車軸用ベアリングなど、大型の精密軸受の国産化には一部成功しつつあるが、HDD用のような「ナノメートル単位の油膜を制御する流体軸受」や「超低振動(NRRO)モータ」の壁は極めて高い状態で、これに対し国家主導の研究機関や、強大な資金力を持つ国内モーターメーカー(HQDやHOLRYなど工業用スピンドル大手)に研究開発予算を重点配分し、日本企業の技術者を引き抜くことでキャッチアップを狙っている。
3.「アンダーザテーブル(迂回ルート)」と「次世代技術」へのシフト
現実問題として、現行の磁気ディスクや超精密ベアリングを中国単独で100%内製化するには及ばないのが現状で、そのため中国は以下の「現実的なプランB」を並行して進めている。
• 東南アジア経由のサプライチェーン確保:日本の精密部品メーカーの多くは、中国だけでなくタイやベトナム、フィリピンに主要な製造・組み立て拠点を分散させている。中国は、マレーシアやタイなどの東南アジア拠点からの輸入ルートを強固に保つことで、地政学的な対立が先鋭化しても部品供給が途絶えないよう、迂回(マルチハブ)戦略を取っている。
• SSD(フラッシュメモリ)への急速なシフトと国産化 :
「追いつけないHDDの精密機械技術」に見切りをつけ、AIデータセンターの記憶装置をSSD(半導体ストレージ)へシフトさせる動きを加速している。 半導体であれば、中国には国家の威信をかけて育成したフラッシュメモリ(NAND)大手であるYMTC(長江ストレージ)が存在する。米国からの制裁を受けながらも、YMTCは世界最先端レベルの積層技術(Xtacking)を確立しており、可動部(ベアリング)のないSSDであれば、中国は「自国製半導体+自国製コントローラー」でかなりの部分を自給自足できるようになっている。
まとめ
中国にとって、日本企業が握る「超精密ベアリング」や「磁気ディスク基板」の技術は、一朝一夕にはコピーできない「機械工学・材料科学の結晶」であり、現在も最大の弱点(アキレス腱)の一つとなっている。
中国は現在、「日本企業の現地工場を国内に抱え込んでサプライチェーンを実質的に人質にしつつ、裏ではSSD(半導体)による代替と、国策による超精密モーターの内製化を執念深く進めている」というのが、データセンターの裏側で起きているリアルな攻防だった。
ところが、中国がHDDの製造技術が無い事でSSDにシフトするとうのは、エンジンが作れないのでEVにシフトしで、今まさに大失敗しているのと同じという事実がある。