警察官の犯罪に厳しい英国で、被害者を誤認逮捕し死亡させた警官への処罰はどうなるのか


英国は警察官の規律や市民に対する義務(特に人道的な救護義務)に対して法的に非常に厳しい厳罰主義を取っている。しかし、今回の事件における現場の警察官に対する法的な処罰や懲戒処分は、現時点(2026年6月)では「まだ確定していない(調査・審理中)」という状況のようだ。

この遅れと現在の対応には、英国独自の警察不祥事における「法的手続きの順序」が関係している。

1.現場にいた警察官の現在の処分
事件に関与したハンプシャー警察の警察官たちの現状は以下の通り。

• パトロール任務からの外され(非実務配置): 現場に対応した4人の警察官は、現在パトロールなどの前線任務から外されている。ただし、法的な身分が剥奪される「正式な停職(Suspension)」にはまだ至っていない。

• 1名はすでに辞職(別件): 4人のうち1名は昨年中に警察を辞職しているが、ハンプシャー警察の発表によると「この事件が原因の辞職ではない(別件)」とされている。残る3名は依然として組織に籍が残っている。

2.なぜ処分に時間がかかっているのか?
英国では、警察官の行動によって市民が死亡または重傷を負った場合、非常に厳格なステップを踏むルール(二段階の壁)がある。

① 加害者の刑事裁判が最優先された
英国の司法制度では、事件の核心である「殺人犯(ディグワ)の刑事裁判」がすべてに最優先される。警察官の過失や罪を裁くための証拠(ボディカメラ映像など)も、殺人事件の公判が終わるまでは、捜査への影響を防ぐため公に精査・処分を下すことが法的に制限されていた。

026年6月1日にようやくディグワへの終身刑が確定したため、ここから本格的な警察官への責任追及がスタートする。

② 独立機関(IOPC)による国家レベルの調査
事件翌日の段階で、ハンプシャー警察は自らこの問題を警察苦情処理独立機関(IOPC:Independent Office for Police Conduct)に付託している。IOPCは警察から完全に独立した政府機関であり、身内の甘い処分を許さないための組織で、現在IOPCは以下の2点を中心に、警察官の行動が「犯罪(非自発的過失致死罪など)」にあたるか、あるいは「重大な職務怠慢」にあたるかを調査している。

• ヘンリーさんが「刺された」「息ができない」と訴えた際、なぜすぐに手錠を外し、最優先でファーストエイド(応急処置)を行わなかったのか

• 警察官たちの行動に「人種的な偏見やバイアス」が働いていたかどうか

現在の進捗:
IOPCは、刑事裁判の終了を受けて「現在は警察官らを(刑事訴追の対象ではなく)参考人・証人として扱っているが、今後の証拠精査次第で随時見直す」としており、調査結果を待ってから刑事訴追や懲戒解雇の判断が下される

3.今後の見通しと「厳罰」の可能性
英国の法律では、警察官が救護義務を怠って人を死亡させた場合、単なる懲戒解雇(クビ)に留まらず、以下の極めて厳しい刑事罰が科される仕組みが整っている。

• 公職にある者の不正行為(Misconduct in Public Office): 最高刑が終身刑となる、英国の非常に重い一般的な判例法上の罪で、警察官がその職権を乱用したり、明白な義務を怠ったりして最悪の結果を招いた場合に適用される。

• 業務上過失致死罪(Gross Negligence Manslaughter): 生存のための絶対的な注意義務があるにもかかわらず、それを怠った(ヘンリーさんの命乞いを無視した)と認定されれば刑務所に服役することになる。

さらに、2026年9月には「死因究明審問(インクエスト)」と呼ばれる、警察の対応がヘンリーさんの死にどれほど直接的な影響を与えたかを法的に確定させる審判も予定されている。

現在、イギリス国内では「なぜ身柄を拘束するだけで、命を救う義務を放棄したのか」という世論の怒りが頂点に達しており、国家警察長官会合(NPCC)や政府も、警察の「人種差別対応ガイドライン」のあり方を含めて大改革を迫られている。

今後、IOPCの調査結果が出次第、関与した警察官たちには法に基づく厳しい処分が下される見込みだ。