一般選抜の割合が半数を切り、年内入試(推薦・総合型)が主流になった現在の大学受験において、「指定校推薦の買い得感」は、費用対効果や確実性の面で極めて高くなっている。
では、実際に高校受験を控えた中学生やその親、そして中学校や塾の教師がそこまで見据えて高校を選んでいるかというと、「徐々に意識は高まっているものの、全体としてはまだ『偏差値信仰』や『一般受験前提のイメージ』に引っ張られ、完全には割り切り切れていない」というのが実情だ。
それぞれの立場ごとに、この現状をどう捉えているのかを紐解くと、いくつかの壁やジレンマが見えてくる。
1.親と受験生(生徒):二極化する意識と心理的ブレーキ
高校を選ぶ段階での親子は、大きく3つの層に分かれている。
① 「戦略的・現実的」に指定校を狙う層(急増中)
中学時代の内申点はそこそこ取れるけれど、一発勝負の入試(一般選抜)では学力上位層に敵わないかもしれない、と冷静に自己分析している親子だ。 彼らはあえて、「自分の実力より偏差値をワンランク落とした高校(特に私立)」に進学する。その学校のトップ層を維持して、GARCHや日東駒専といった人気私大の指定校推薦枠をスマートにさらう戦略で、近年このパターンを推奨する塾やWeb情報が増えたため、特に都市部でこの動きが目立っている。
② 「高望み・偏差値至上主義」から抜け出せない層(多数派)
一方で、多くの親子にとって、高校受験はまだ「少しでも偏差値の高い伝統的な進学公立校」を目指すものという固定観念が根強くある。
「まずは一般受験で戦える学力をつけるべき」「指定校推薦は、一般で受からない子が使うもの」という古いイメージやプライドが邪魔をして、高校選びの段階から「指定校の枠の多さ」を最優先にする親子は、まだ全体で見れば一部だ。
③ 入学後の「評定キープ」の過酷さを知らない層
「指定校が楽そうだから、ランクを下げた高校に行こう」と安易に考えるケースもあるが、これは落とし穴になりがちで、指定校推薦の評定平均(内申点)は、「高1の1学期から高3の1学期まで」のすべての定期テストと提出物、出席日数の積み重ねだ。3年間、1回もサボらずに定期テストで上位をキープし続けるのは、ある意味で一般受験の猛勉強よりも強靭な精神力(いわゆる「真面目さ」の持続)が求められる。そこまで覚悟して高校を選んでいる中学生は稀だ。
2.中学校・塾の教師:システム上「勧めにくい」ジレンマ
情報を持っているはずの教師や塾講師が、なぜもっと「指定校推薦狙いの高校選び」を大々的にナビゲートしないのか。そこには構造的な理由がある。
中学校の教師:「先のことはわからない」が本音
中学校の進路指導の基本は「本人の学力に見合った、確実に合格できる高校(特に公立)」を勧めることで、3年後の大学入試システムの話は一応するが、「高校でどれだけ頑張れるか(評定が取れるか)は本人次第」であるため、3年後の指定校枠をアテにした高校選びを積極的にアドバイスすることは、責任問題にもなりかねず避ける傾向にある。
高校受験塾:「上位校への合格実績」がビジネスモデル
塾のビジネスは「偏差値の高い有名高校に何人合格させたか」で成り立っている。「大学受験で指定校を取りやすいから、あえてランクを下げて〇〇高校に行きましょう」という提案は、塾の合格実績(ひいては集客)に直結しないため、塾側から積極的に仕掛けることは滅多にない。
3.「指定校推薦」というパイの不都合な真実
さらに、高校選びの段階で「指定校推薦の枠」を基準にしようとしても、以下のような情報のブラックボックスや構造の違いが存在する。
• 公立と私立の圧倒的な「枠」の格差:伝統的な私立高校やミッション系の高校は、大学との長年の信頼関係(過去の卒業生が中退せず活躍している実績)から、驚くほど手厚い上位私大の枠を持っている。一方、公立高校は「一般選抜で自力で受かること」を求められる風土が強く、そもそも指定校の枠自体が私立に比べて少ない傾向がある。
• 「枠」は毎年変動する:指定校推薦は大学と高校の「単年度の信頼契約」であり、前年にその高校から進学した生徒が大学で不祥事を起こしたり、留年・中退したりすると、翌年は枠が消滅する。そのため「この高校に行けばあの大学の枠がある」という保証は100%ではない。
• 上位校ほど「枠を隠す・使わせない:偏差値70を超えるような国公立至上主義のトップ高校にも有名私大の指定校枠はたくさん届いているが、学校側は「一般入試で旧帝大を目指せ」という方針のため、生徒に枠を積極的に開示しなかったり、使おうとすると「もったいない」と引き止めたりする文化が今でも根強く残っている。
まとめ:これからの「賢い」高校選び
現在、大学の定員の厳格化や一般選抜の難化を受けて、「一般選抜は、本当に学力が突出した層か、国公立・早慶をガチで狙う層だけの戦場」になりつつある。
このトレンドに気づいている一部の聡明な親や、情報収集力の高い家庭は、すでに以下のような基準で「高校の出口(大学進学)」を逆算して高校を選び始めている。
• 「実力より少し下の私立高校で、特待生として学費免除してもらいつつ、評定4.8をキープして指定校でMARCHに抜ける」
• 「大学の付属校・系列校、あるいは『高大連携』を強化している高校を選び、最初から一般受験をパスするルートを確保する」
高校受験の偏差値だけで一喜一憂する時代は終わり、「3年の生活習慣と、その高校が持つ大学とのコネクション(信用預金)」を値踏みして高校を選ぶ。そんな「超現実主義的な戦略」を持てるかどうかが、今の二極化する受験戦線を生き抜く格差の境界線になっている。