中国による猛烈な技術スパイ活動や知的財産の窃盗に対抗するため、米国主導で同盟国・パートナー国を巻き込んで構築しようとしている「要塞化されたAI・半導体共同開発ネットワーク」の構想がウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙への寄稿などを通じて提唱され注目を集めている 。
直近では、その具体的な第一弾(プロトタイプ)として、米国とイスラエルの間で極秘裏に協議が進められている「プロジェクト・スパイア(Project Spire)」の存在が報じられ、これが米国主導の次世代AI同盟のひな型になるとされている。
1.構想の核心:「軍事基地並みのセキュリティ」を持つAI拠点の新設
従来のシリコンバレーのようなオープンな技術開発環境は、中国の産業スパイやサイバー攻撃に対してあまりに脆弱であるという強い危機感が背景にある。
そこで提唱されているのが、「米国軍事基地と同等の厳重な物理的・サイバー的防御に守られた、閉鎖的な先端AI・半導体開発ハブ(要塞化された拠点)」を同盟国内に建設するアプローチで、「プロジェクト・スパイア」では、イスラエルのネゲブ砂漠の拠点が最初の候補地として挙げられている。
2.中国のスパイ活動に対抗するための3つのアプローチ
• 完全なデータの囲い込みと「米国籍」の維持:先端AIのモデル訓練、チップ設計、サーバーインフラ、さらには先端半導体の製造までを、一つの強固なセキュリティ外縁(ペリメーター)の中に集約する。ここで開発された知的財産や技術の所有権は「米国」に帰属させ、他国への流出を制度的・物理的に遮断する。
• サプライチェーンの急所(台湾など)への依存脱却:現在、最先端半導体の製造は台湾(TSMC)に極度に依存しており、これが中国の地政学的・サイバー的圧力に晒されている。同盟国内の安全な「要塞」の中に自前の半導体設計・生産機能を持たせることで、サプライチェーンそのものをスパイや破壊工作から守る。
• 「信頼できる身内」だけのネットワーク化:このセキュリティ基準をクリアし、米国と強固なインテリジェンス(情報)共有ができる特定のパートナー国(イスラエルのほか、イギリス、日本、インドなど)の技術者・企業のみをこの「要塞」に招き入れ、中国の影響力を完全に排除したクローズドな同盟を形成する。
3.「パックス・シリカ」への布石
この構想は、トランプ政権が推進する「パックス・シリカ(半導体・AIの優位性による国際秩序の維持)」の戦略的枠組みに直結している。
開発や生産の一部を同盟国で行うことで、相手国にも高い経済的利益や雇用をもたらしつつ、中国に対する絶対的な技術的優位(プライマシー)を維持するという、極めて現実的かつ強力な「経済安全保障同盟」の形を目指している。
一言で言えば、「オープンな技術交流の時代は終わり、これからは中国に盗まれないよう、同盟国間で『強固な壁に囲まれた安全地帯』を作り、そこで最先端のAIと半導体を共同開発していく」という、冷戦期さながらの徹底的な防諜・技術囲い込み戦略だ。日本がその強みである高機能素材や製造装置を引っ提げてこのネットワークの主要メンバーとなることは、まさに日米同盟の次世代の基軸となる動きと言える。