佐川急便がEVベンチャーと共同開発の小型EVはその後どうなった?





佐川急便が2021年に大々的に発表した「日本のEVベンチャーASFと共同開発し、保有する軽自動車7,200台をすべてEVに切り替える」という壮大なプロジェクト。

あれから5年、実はこのプロジェクトは計画が破綻・中止したわけではないが、当初の勢いや想定からは大きく減速し、「実証実験レベルの超スロースペースでの導入」に留まっているのが現実だった。

現在のステータス:進まぬ大量導入
共同開発された車両は「ASF2.0」という名称で、2023年春から実際の配送業務への投入が始まった。

• 実際の導入台数: 2021年の発表当時は「2022年9月から順次切り替え」としていたが、実際に納車が始まったのは2023年4月。しかも、初期の納入台数はわずか6台ほどに留まった。その後、順次増車する方針は示されているものの、他の導入企業(マツキヨココカラ&カンパニーなど)が100台規模で動かしているのに比べ、主幹であったはずの佐川急便での大量普及のニュースは途絶えている。

なぜ失速したのか?

このプロジェクトの構図は、ファブレス(工場を持たない)のASFが企画・設計し、製造は中国の自動車大手「広西汽車集団」が担うというものだった。まさに「中国製EVを日本に持ち込む」モデルったが、以下の壁にぶつかったと見られている。

1.BYDの不祥事による「中国製」への逆風
2023年初頭、先行していたBYDの日本向けEVバスに、日本の業界自主規制物質である「六価クロム」が使用されていたことが発覚し、国内のEVバス運行が一時一斉にストップする大騒動(いわゆる万博バス問題の前哨戦)が起きた。 これ以降、企業がコンプライアンス(法令・社会的規範の遵守)の観点から中国製EVを大量導入することに対するハードルや世間の目が急激に厳しくなった。

2.「日本のラストワンマイル」という現場の過酷さ
配送ドライバー7,200人のアンケートを反映した「配送特化型」として開発されたASF2.0だが、日本の過酷な夏・冬のエアコン使用による「実質的な航続距離の低下」や、高低差の激しい地域での登坂性能など、現場のリアルな運用データが集まるにつれ、一気に7,200台を入れ替えるリスクが浮き彫りになったとされている。

2.国内メーカー(日産・三菱・スズキ等)の猛追
佐川が計画を発表した2021年当時は、日本の自動車メーカーに「使える商用軽EV」の選択肢がほぼなかった。だからこそ中国の生産力に頼ったわけだが、その後、状況は一変した。

• 日産「サクラ」の爆発的ヒットによる軽EVインフラの整備

• ホンダの商用軽EV「N-VAN e:」の登場

• スズキ・ダイハツ・トヨタの3社連合による商用軽EVの共同開発

わざわざサポートや信頼性に不安のある新興の中国製造モデルをリスクを冒して大発注しなくても、「日本の道路と整備網を知り尽くした国内メーカーから、信頼性の高い軽EVを調達できる環境」が整ってしまったのだった。

結論:オートバックスのEMTにも通ずる教訓
佐川急便の事例は、まさに「鳴り物入りで中国の製造力を頼ったものの、日本の物流現場の要求水準と、国内メーカーの巻き返しによって、大量導入のハシゴを外されつつある」という典型例と言える。

不幸中の幸いとしては、殆ど車両を購入しない状態でオワコンとなったことで、万博バスのように大損害に加えて膨大な粗大ごみの処理にも金がかかるという、最悪の状態にならずに済んだことだ。