ナフサ問題の発端となった「一人親方のコンサルタント」は一体どんなクライアントがついていたのか





ナフサ問題でこれほど世間を騒がせ、政府トップから即座にファクトチェック(事実誤認の指摘)が入るほどの騒動を起こした人物が、いわゆる「一人親方」の個人コンサルタント(合同会社CEOなど)であったことに、驚きと不信感を抱くのは当然だ。

「なぜこんな実力で今まで商売が成り立っていたのか」「一体どんなクライアントがついていたのか」という疑問、そして「今後はもうビジネスができないのではないか」という見通は‥‥

1.なぜ今まで「商売」になっていたのか?
こうした「専門家」がこれまでビジネスを成立させられていた背景には、エネルギー・商品取引業界特有の「隙間(ニッチ)需要」がある。

• かつての「まともな実績」の切り崩し: こうした独立系コンサルタントの多くは、過去に大手総合商社、石油元売り、あるいは外資系証券会社のコモディティ(商品)部門などで、実際にナフサや原油のトレーダーやアナリストとして前線にいた経歴を持っている。 独立直後は、その当時の「元〇〇の~」という肩書きや人脈、過去の知識を切り崩すことで、最初の数年は十分に商売が成り立つ。

• 経済メディアや専門誌の「コメンテーター枠」: ナフサという極めてニッチな石油化学原料は、マクロ経済の専門家でも詳しく語れる人が非常に少ない分野であり、そのため、日経系の専門誌や商品取引の業界紙、あるいは新興のビジネスメディアなどで「定期的にコメントをくれる都合のいい専門家」として重宝され、そこから露出を増やしてハクをつけていくルートが存在する。

• 役所の「有識者委員」という肩書きマジック: 今回問題になった人物も「資源エネルギー庁の有識者委員」といった肩書きが報道されていた。 こうした委員会のメンバーは、実力や最新の分析力だけで選ばれるとは限らず、「業界のバランス」「元商社マンなどの経歴」「事務局(官僚)にとって扱いやすい(耳障りのいい極端な意見を言ってくれる、あるいは波風を立てない)」といった理由で選ばれるケースが多々ある。そして、一度その肩書きを手に入れると、それが民間への最大の営業ツール(信頼の証明)になっていたわけだ。

2.一体どんな「クライアント」がついていたのか?
一人親方のエネルギーコンサルタントにつくクライアントは、主に以下のような層と推測できる。

• 中堅・中小の石油化学・プラスチック加工メーカー: 大企業であれば自社内に優秀な調査部門や商社との太いパイプがあるが、予算の限られた中堅・中小企業は、安価に世界のエネルギー情勢やナフサ価格の見通しをレクチャーしてくれる「外部の耳」を必要とする。

• 商品先物取引会社や投資家向けのレポート執筆: 原油やナフサの値動きで勝負する個人投資家や、彼らを顧客に持つ先物会社向けに、毎週・毎月の「市場予測レポート」を外注されて書く仕事がある。

• テレビなどの「メディア」そのもの: 実は最大のクライアント(あるいはリピーター)が、今回のTBSのようなテレビ局の制作会社で、「今回のイラン情勢で日本はどうなる?」というシナリオ(番組のオチ)をあらかじめ決めている制作陣にとって、「データを出して冷静に『大丈夫です』と言う本物の専門家」よりも、「カメラの前で『このままだと日本は詰む』とセンセーショナルに言ってくれる専門家」の方が、番組作りの上ではるかに「使い勝手が良い」のだ。

3.これ程「名が売れた」今後、商売はできるのか?
普通に考えれば、これだけ政府から名指しで否定され、ネットで炎上し、信頼性が失墜した以上、ビジネスパーソンとしての寿命は尽きたように見える。

しかし、この業界の「タフさ(あるいは悪質さ)」を考えると、形を変えて生き残る、あるいは別の市場へスライドしていく可能性が十分にある。

① テレビからは消えるが、別のメディアへ
NHKや民放キー局の硬派な報道番組からは、さすがに「リスクが高すぎる」として出禁(一発アウト)になる可能性が極めて高い。 しかし、世の中には「政府の発表はすべて嘘だ」「日本はもうすぐ崩壊する」といった陰謀論や過激な終末論を好むニッチな週刊誌、ネットメディア、あるいはYouTubeチャンネルが多数存在する。そうした界隈からは、むしろ「政府(高政権)に弾圧された、真実を語る悲劇の専門家」として、逆張りで重宝される席が用意されてしまうことがある。

② 「名義」を変えたコンサルティング
法人の登記名や、活動する際の名義・ブランドをマイナーチェンジし、炎上の記憶が薄れた頃に、SNSや表舞台から隠れて「完全クローズドな顧問契約」として中小企業の相談に乗る泥臭い営業方法もある。

石油化学の現場では、情勢が緊迫している時ほど「藁にもすがりたい」経営者がいるため、水面下の需要はゼロにはならない。

今回の件で最も罪深いのは、実力不足、あるいはウケを狙って極端な言葉を使った「自称専門家」個人もさることながら、その発言をファクトチェックもせず、机の上のシミュレーションだけで「日本は6月に詰む」というテロップにしてゴールデンタイムに流したメディアの姿勢だ。

専門家の質を見極める目を、メディア側が完全に失っていることこそが、日本の経済リテラシーを足止めしている最大の原因と言えるかもしれない。