レクサス GS350 & 430 (2005/9/16)

 

 
クラウン
アスリート 2.5


マジェスタ


フーガ250GT


フーガ350XV

 

※この試乗記は2005年9月現在の内容です。従って、文中の車種や価格は現在と多少異なる場合があります。
 内容は思った事を隠さずに書いてあります。従って、人によっては不愉快な感情を抱く事が予想されます。
 特に巨大掲示板のリンクからたどり着いた「人生の負け組」諸君は即刻退場のこと。


右から、今回試乗したGS350とGS430。左端はソアラ改めSC430。
こうして見ると、一応はレクサスの顔というのがあるのが判る。
試乗車のナンバーにまで気を使うのは、流石に富裕層向け!

8月29日、日本でもレクサス店が開店した。国内には今まで全く存在しなかったブランドが、しかもメルセデスやBMWなどと競合するプレミアムブランドとして、富裕層を相手に新規展開したそうだ。

レクサスの北米における地位は、日本人に伝わっているところによれば、すでにメルセデスやBMWを追い越し、今や北米高級車のナンバーワンだという事を度々耳にする。そこで、北米での販売台数を調べて見れば以下のようだった。

ブランド名  2004年販売台数
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レクサス    287.9千台
メルセデス   219.5千台
BMW     262.0千台(ミニを除く)
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なるほど、今やメルセデスとBMWを抑えての堂々1位!と、言う事は日本で高い金を出してEクラスや3シリーズなんて買うのは、ボッタクられているのも知らないで無駄金を払っている、無知なブランド信望者?賢い奴は国産車を買う?という、ネットのBBSで御馴染みの国産派の主張は正しいのか?
そこで、北米での高級セダンの車種別売り上げを調べてみれば

車種名       2004年販売台数 2003年販売台数
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レクサスIS      10.0千台    13.6千台
メルセデスCクラス    69.3千台    66.0千台
BMW3シリーズ   106.5千台    111.9千台
アウディA4         47.2千台    51.0千台
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レクサスGS       8.2千台    13.3千台
メルセデスEクラス   59.0千台    55.7千台
BMW5シリーズ    45.6千台    47.0千台
アウディA6         14.9千台    17.6千台
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レクサスLS      32.3千台    23.9千台
メルセデスSクラス   20.6千台    22.9千台
BMW7シリーズ    16.2千台    20.5千台
アウディA8          5.9千台     4.1千台
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なんと、Dセグメントの王者はダントツの3シリーズと、それを追うCクラスとアウディA4。Eセグメントは定番のEクラスと、それを追って近づきつつある5シリーズに対して、ISとGSはと言えば、ハッキリ言って問題外。唯一勝っているのはLS(セルシオ)で、Sクラスの5割増しの売れ行きだ(2004年の場合)。しかし、上はV12気筒や高性能版のAMGなどと価格帯($64,900-169,000)の異なるSクラスや、ほぼ同価格帯でガチンコ勝負の7シリーズに比べれば、LSは廉価版Lサイズ($56,525)だから、同じセグメントとするのに無理があるし、買う階層が違うことは間違いない。ISとGSは2004年がモデル末期のため、最盛期はもう少し売れていたが、それでもメルセデスやBMWの敵ではない。
なぁ〜んだ、この結果は日本における高級車市場と殆ど同じではないか!

それでは、レクサスの販売構成はどうなっているのか、と言えば、SUVのRX(ハリアー)が106.5千台。米国人の大好きなデカいドンガラのFFセダンであるカムリを豪華に仕立て上げたES(ウィンダム)が75.9千台。それにGX470(プラド)が35.4千台と、SUVとウィンダムで殆どを稼いでいる事になる。

確かに北米の売上げでレクサスブランドのクルマがメルセデスやBMWを上回っているのは事実だけれど、それは隙間商品の話で、王道の高級セダンでは全く歯が立たない。北米でさえ、こんな状況だから、欧州ではさらに悲惨な状態であることは容易に想像がつくだろう。
ところが、日本の低所得者層は、これを勝手に拡大解釈して、米国どころか欧米を含む世界中でISやGSが3シリーズやEクラス以上に評価されていて、ベンツ・ビーエムをありがたがっているのは日本だけだと信じている!
この世論の誘導は流石はトヨタ、頭が良い奴が揃っているんだなぁ。

本題から外れてしまうが、ここで北米に於ける他車の販売台数も見てみよう。

車種名       2004年販売台数 2003年販売台数 備考
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インフィニティG35   71.2千台    64.7千台  スカイライン 
インフィニティM45    2.1千台     4.8千台  セドリック
インフィニティQ45    2.0千台     2.4千台  シーマ
アキュラTL          21.9千台    24.3千台  (インスパイア)
アキュラRL           8.8千台     6.8千台  レジェンド
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レクサスSC       10.33千台    9.7千台  ソアラ
ニッサン350Z    30.7千台    36.7千台  フェアレディZ
アキュラNSX        0.2千台     0.2千台
ホンダS2000      7.3千台     7.9千台
メルセデスSL       12.9千台     13.3千台
メルセデスSLK      7.4千台     6.0千台
BMWZ4          13.7千台    20.2千台
アウディTT           5.3千台     7.9千台
ポルシェ911         9.7千台     9.4千台
ポルシェボクスター      3.5千台     6.1千台
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特にコメントはしないので、皆さんよ〜く考えて下さい。


初代アリスト140系(1991〜1997)
直6-3ℓでNA版が230ps、ターボは280ps。
当時のサルーとしては(直線だけは)最速だった。米国ではレクサスGSとして販売された。
途中から北米向けと同じV8版も追加された。


2代目アリスト160系(1997〜2004)
エンジンのバリエーションは旧型と同じ直6-3ℓ、230/280ps。勿論米国ではレクサスGSとして販売されていたが、ターボは米国では危険なハイパワー車との認識があり、保険料率も高いので、高性能モデルはV8版が販売されていた。

前述のように日本中のクルマ関係の話題を独占中のLEXUSブランドの販売車種はGSとSCの2車種のみ。しかもSCは、この間までソアラと言っていたクルマそのものだから、事実上のレクサスというのは現段階ではGSのみとなる。このGSにはV6 3.5ℓのGS350とV8 4.3ℓのGS430がある。そして、このGSはブッチャケて言えばアリストそのものだ。トヨタが何と言おうと、去年までネッツ店で売っていたアリストは、北米ではGSと言っていた事実は隠しようが無い。そのアリストの歴史を振り返ってみよう。

1991年10月に発売された9代目クラウン(140系)は従来のロイヤル系とともに、より上級のマジャスタ(V8搭載)、さらにマジェスタのプラットフォームを使ったスポーツセダンのアリストという新たなモデルも新設された。このアリストこそ、1989年から米国で新たに展開された、トヨタの高級車販売網であるレクサスのEセグメントモデルであるGSとして投入される新規モデルの国内販売用の名称だったのだ。アリストは3ℓの自然吸気(230ps)モデルが”3.0Q”、ターボモデル(280ps)が”3.0V”と呼ばれ価格は3.0Qが350万円からと、マジェスタ3000Aタイプの434万円に対して大いに買い得だった。対米輸出車の場合は、日本国内価格より米国価格が安いと、ダンピングと判断されるために、国内価格が割安に設定される傾向がある。1年後にはマジェスタと同じ(というよりは米国レクサスGS400と同じ)4ℓV8モデルも追加された。
この初代アリストは6年間という国産車としてはロングセラーとなり、1997年に2代目160系にバトンタッチした。この間クラウンはキッチリと4年でモデルチェンジしたために10代目が1995年150系で、1999年の11代目が170系となる。ここで、お分かりだろが、クラウンに160系が欠けているのは米国クラウンとも言えるアリストに使ったからだ。ナンだ、カンだ言ってもアリストはクラウンだのだ。

この2代目も7年間のロングセラーだが、4年でフルチェンジして話題を盛り上げないとシェアを確保できない国内販売と違い、欧州車並みのライフスパンが可能な北米向けだからこそ成立するのだろうか。それとも、売り上げ台数が少ないので4年でフルチェンジする予算がないのか?
国内でのアリストはといえば、決して売れている車ではなかった。確かに、エンジンのパワーは自然吸気モデルでも十分で、これがターボ付きとなれば、280psエンジンの発生するパワーによる加速は絶大で、これに敵うクルマはセダンは当然として、スポーツカーまでを含めて内外を見渡しても、滅多にお目にかかれない程だ。

だから、ユーザーとしては当然クルマ好きなヤングアットハートな紳士も居るだろうが、街で目立つのは、ハッキリ言って、ヤンキーの手合いだ。特に、大径のクロームメッキホイールやエアロパーツ、大げさなリアスポイラーを標準で付けたベルテックエディションは、この手のアンちゃんの憧れだった。新車は無理としても、中古車ならということもあり、アリストの中古車は可也な人気で、特に3代目からは正式にレクサスブランドになる事から、更に中古車価格が上昇中だそうだ。


遠くからでも、一目でそれと判るMBやBMWに比べて、これがレクサスだと判る人は何人いるか?写真はGS430。


マークXやマジェスタのように露骨にBMW5シリーズをパクッたりはしていないリアビュー。流石に海外で勝負するには、ある程度の独自デザインが必要か。その結果は何とも特徴のないものとなってしまった。

その3代目アリスト、モトイ、初代国内GS(北米3代目GS、アレッ!)のフロントからの眺めは、明らかに2代目のイメージを追っている。
それは、そうだろう。何しろ北米では2代目GSのフロントイメージが出来上がっているのだから、国内向けの為に全くイメージを変えて、「ハイッ、アリストとGSは全く別物ですよ」という技は使えない。

レクサスによれば、このクルマのライバルはメルセデスEクラス、BMW5シリーズ、ジャガーSなどらしい。しかし、これらのライバルは、それこそ強烈な個性と主張を持っている。それに対して、GSはスタイルも内容も、果してライバルと戦うだけの物があるのだろうか。少なくとも外観は国際感覚を少し身に着けたトヨタ車というところか。

宣伝では塗色によっては6層コートの塗装を採用し、トヨタの誇る塗装技術の粋を集めた仕上げとのイメージがあるが、ボディの表面を光にかざして見れば、何の事は無い、エアガンで吹いた表面の細かい波というか凸凹が見える。この点、欧州のプレミアムブランドは、国産車とは全くことなり、光に当てて良く見ても、実にマッ平らのピッカピカだ。こういう事の積み重ねが、何となくチャチな外観に繋がるのだから、もっと頑張って欲しい。ニューMINIは輸入車で200万円程度のクルマなのに、塗装表面の滑らかな事は、本物のBMWと変わらない。だから、500万円というプライスと掲げるのなら、まず塗装面からの再考が必要ではないか。


写真では判らないが、トランクの奥行きは実に深い。国産オヤジ車必須のゴルフバック4個搭載可能の為か。


欧州製のライバルに比べて明らかに細くて華奢なドアハンドル。これでは欧州車といってもVWパサートクラスだ。


この写真では判らないが、身長170cm級のリアパッセンジャーでは、頭上はスレスレとなる。
某雑誌では、小柄な女性が乗った写真でヘッドクリアランスは十分と説明していたが・・・・。


こうして見ると、トヨタ車であることは一目瞭然!
シートは昔のクラウンよりはマシだが、平坦でサポートも悪く、乗っていると疲れる。

試乗車はGS350(520万円)が、オプションとして本皮シート&トリム(27.3万円)とマークレビンソンサラウンドシステム(約34万円)という性能とは関係のない、如何でも良いオプションを装着していたから、同じものが欲しいとなれば580万円超となる。
もう1台の試乗車であるGS430(630万円)は、何故か標準ファブリックシートだった。

GS350とGS430の外観上の差はホイールとリアのエンブレムくらいか。ニッサンのフーガがヤケに背が高いのに比べればGSは真っ当な4ドアセダンと言って良いのか迷う程に背が低い。実際にリアシートに座ってみれば、身長170センチ級では頭の先は天井スレスレという具合だ。

フロントシートに座ろうとしてドアに手を掛ければ、最近流行のグリップ式のドアハンドルは、握った感じが何となく細身で高級感がない。よき時代のメルセデスはこれでもかというガッシリした取っ手を握り締めると、内側に隠されたレバーがガシャっと引っ込んでドアが開いた。そして、そのフィーリングは、まるで豪邸の玄関扉のようだった。当時に比べれば、最近はメルセデスもチャチになったが、そうは言ってもGSよりは各段に高級感があり、この頑強な取っ手をガシッと引いてドアを開けるフィーリグこそが高級車に乗り込む満足感なのだ。そういえばマークXもショボいグリップ式のドアハンドルだけれど、あちらは見かけさえグリップ式ならば目的は達成される訳で、メルセデスやBMWと同じ、いやそれ以上のクルマが適正価格で買えると信じている庶民(の中のさらに中クラス以下)が相手だから、いつもの生活環境と同じ、土地30坪付ミニ開発建売住宅的フィーリングで良いとしても、”富裕層”を相手とするレスサスは此れではマズイんじゃないかな。


ダッシュボードやドアの内張りなどの樹脂は硬く、良く見れば質感もイマイチだ。
幅の広いセンターコンソールの右半分がATセレクトレバーで左が蓋付きの小物いれなど、クラウン
と同じ構成だ。
ライバルのEクラスや5シリーズも最近はチャチになったと言われているが、この内装では
欧州製プレミアムブランドのオーナーがGSに乗り換えようとは思わないのではないか?

運転席に座ってみれば、ダッシュボードの材質がチョッと目には上手く革目のシボを出しているが良く見ればトヨタにしては安っぽく、更に指で触ってみれば多少は凹むが、かなり硬い。欧州車のように弾力がありパッドとしても十分な目的を達している弾性樹脂を使ったダッシュボードに慣れていると、とても買う気にはなれないと思うが。ただし、組み立て精度などは良く、初期の現行Eクラス(W211)のように、パネルの継ぎ目の隙間がずれていたりということはない。

シートの座面はフラットで硬めだが、硬い中にもピシッと密度の高いウレタンが体を支える欧州のライバルに比べると、ただ平らなだけで、これでは長距離の運転では疲れるだろう。残念な事に、椅子に関しては日本は何時まで経っても欧米には敵わないようだ。
標準のファブリックシートの表皮は、従来のトヨタ製高級車の定番だった毛足の長い、チョッと見には豪華な、しかし良く見れば安物の化繊モケットモドキとは違い、欧州車的な荒く織ったものだ。しかし、座面が多少滑るのが気に食わない。
オプションのレザーシートは座面に細かい穴があり、ベンチレーション機構がついているらしいが、そんな事よりも肝心の座り心地は、ファブリックの標準シートと同様に見かけの割には良くない。レザーの質も良く見れば、これまたイマイチ。BMW5シリーズのレザーシートとは言わず、1シリーズでさえも独特のシボとシワがあり、GSより高級感も座り心地も上だ。なんて言うと、シワを付けたシートが嫌いな人からは、返ってGSのように表面が平らな革のほうが良いと言われそうだが、確かにジャガーのシートはシワはなく、ピンっと貼られているが、GSに比べて質感・乗り味は各段に優れているし、コットンパンツで座っても滑らない。同じ服装でボルボV70のレザーシートに座ったら、ツルツル滑って使い物にならなかった。ボルボに乗る階層はチノパンなんて穿かないのかな?それに比べればGSはマアマアだが・・・・


普段は使わないスイッチ類は上部のボタンを押すと出てくるスイッチボックスに配されるが、そのフィーリングや発想は2流のオーディオ機器のようだ。ミラーを畳む人は、駐車の度にこのスイッチボックルを開く必要がある。


肘掛を後方へ引くとシートの温度調整とダンパーの切り替えなどのスイッチが出てくる。

ステアリングは電動で上下・前後に調整できるし調整範囲も十分だから、一部の国産高級車のように調整範囲一杯に動かしても、ベストポジションがとれないなどという事はない。
ただし、ペダル配置は個人的には違和感がある。アクセルとブレーキの距離が離れているので、走行中にブレーキを踏みかえる際に、踵を中心につま先だけ左に動かしてブレーキを踏むという事ができない。どちらかといえば米国式の左足ブレーキにも適用する配置のような気がする。

今度は、サイドミラーの調整をしようとしてスイッチを探すが、あれっ、無い?実は、これらは普段は蓋の中のスイッチボックスに配置されていて、プッシュボタンを押すと、ムニューっと出てくる。そのフィーリングは一昔前の2流のオーディオ機器、例えばカセットデッキやVHS-HiFiビデオのようだ。何より使いにくいのは、駐車したときにミラーを閉じる人は、その度に蓋を開けなければ操作できない。富裕層はスイッチが一杯見えるのを好まないとの調査結果でもあるのだろうか?

と、まあ悪口を並べてしまったが、これらは世界の定番EセグメントであるEクラスや5シリーズ、そしてA6の御三家と比較した場合で、国産車としては良いところまで迫ってはいる。が、値段も御三家に迫ってしまった。


ATのセレクターは上からP-R-N-DでDから右に引いてS、上で+、下で-のMTモードとなる。欧州のティプトロニックと同じ。


メーターは目盛板に同心円状のヘアラインが入っているので、光の具合によっては指針と同方向に放射状の光の帯が出来て、しかもクルクルと回る。これを高級と感じるか、邪魔クサイと感じるかによって評価は異なる。

まずはGS350から走ってみる。クラウンの3ℓでも十分な速さだったから、3.5ℓのGS350は更に速いであろう事は乗る前から想像できるが、適度な重さのスロットルペダルは初期ストロークで飛び出す事も無く、それでいて深く踏めば勢いよく発進する。普通の人が普通に使うセダンとしては十分過ぎるほどの動力性能だから、土建屋の社長が買ってもクレームにはならないだろう。6ATのレスポンスも良く、踏めば短いタイムラグで即座にしかもスムースにシフトダウンして加速する。V6としては3.5ℓと大き目の排気量であることから、高回転までスムースとはいかないが、4000rpmを過ぎてからも振動や騒音も我慢できる範囲で、同じV6 3.5ℓのフーガ350GTと比べても、むしろスムースなくらいだ。(ニッサンのVQ35エンジンの出来が悪いとも言えるが)

ところが、GS430に乗り換えてみれば、流石にV8は伊達ではない。低速からトルクフルで、滑らかに余裕で回る高級感は350とは違うクルマと思ったほうが良い。通常の市街地を流すような走行では、回転計の針は1100rpmとアイドリングに毛の生えたような低回転で回っているから、静かなのも当たり前だ。ただし、以前乗ったマジェスタは基本的に同型のエンジンでも、さらに静かな印象だったが、GS430は多少スポーティにチューニングされているようだ。
4.3ℓのフルスロットルは想像通りに速い!350でも十分すぎる程に速いが、更に速いし、意外と高回転域でもスムースに回る。と、言うよりも、あっという間にシフトアップポイントに達するので、振動が如何の、音が如何のと言っている前に終ってしまう。カタログ上の最高出力はGS350の315psに対してGS430は280psと寧ろパワーが少ないように思えるが、発生回転数がGS350の6400rpmに対して5600rpmと低く、最大トルクは38.4kg-m/4800rpmに対して43.8kg-m/3400rpmと、圧倒的な低速トルクがパワフル感をもたらしている。

それどころか、GS350はフーガ350に比べても低速からのトルク感では負けているように感じる。GS350は見かけのパワーよりも、実用的なトルクを重視して最高出力を落とした方が、より使い易いし、レクサスというブラントに合っているような気がするが、世間の無知な連中にレジェンドよりパワーが無いなんて言われるのが悔しいので、スペック上でそれ以上を狙ったのか?その結果は特性までホンダ的に高級車に似合わない低速トルクの細いクルマとなってしまった。

GS350のステアリングは適度な操舵力と、これまた適度なレスポンスで、面白くは無いが不満もない。クルマ好きが楽しもうと思えば結構振り回せるし、運転なんて如何でもよいオッサンやオバはんでも危険なく運転できる。BMW5シリーズの楽しさは無いが、ド素人には返って危険が無いし、直進性だって普通のドライバーから見ればGSの方が良いと感じるだろう。かと言って、メルセデスEクラスのように鬼のような直進安定性という程でもない。要するに、これと言って特徴は無い代わりに、減点も殆どない、実にトヨタ的優等生のクルマに仕上がっている。
コーナーリングも弱いアンダーで安定して旋回するから、これまたマニアからド下手ドライバーまで、誰が乗っても不満は出ないだろう。それに、結構軽快で、ステアリングを切った時のレスポンスだって決して悪くない。

それに比べて、GS430の操舵力は軽い。と、言ってもマジュエスタ程軽くはないが、GS350に比べれば操舵性は大人しく、より大きな排気量は余裕と高級感のためで、決して峠をかっ飛ばすためではない。スポーツ性ではGS350>クラウンアスリート>GS430>>クラウンロイヤル>>>マジェスタというところだ。

乗り心地は双方ともフラットで、低速から路面の突き上げもなく、マンホールなどの段差も上手く吸収する。ただし、よーく耳を澄ましていると、路面の凸凹を吸収するたびにリヤの当たりから極僅かではあるけれど、ギシギシという音というかフィーリングが伝わって来たから、5シリーズ程にはガチガチのボディではないのだろう。この乗り味は以前乗ったクラウンアスリートに似ている。
乗り心地に関しては、V6のクラウン(特にアスリート)とV8のマジェスタでは相当に異なったから、GS350とGS430も味付けが異なるかと想像していたが、強いて言えばSG430の方が重量からくるマイルドさはあるが、クラウンのように大きく味付けが違うことは無い。


GS350のV6 3.5ℓエンジン
315ps/6400rpm、377N-m/4800rpmを発生する。もう少しパワーを下げて低速とるくを充実したほうが高級車らしくなると思うのだが・・・。


GS430のV8 4.3ℓエンジン
280ps/5600rpm、430N-m/3400rpmと3.5ℓよりパワーは低いが、低速トルクの大きいことから、遥かにパワフルに感じる。

ブレーキはGS350、430とも共通で、特にフロントはアルミ製対向4ピストン(オポーズド)のキャリパーを装着している。オポーズドと言えばブレンボーが有名だが、トヨタ系のブレーキシステムメーカーであるアドヴィックスは既にセルシオ用としてアルミオポーズドを量産しているから、GS用もセルシオ用からの展開だろう。
このクラスのサルーンでオポーズドを装着している例は内外共に例がない。まあ、オポーズドを付ければ良いというものでもないが・・・・。
実はブレーキフィーリングについては、走行距離が250km程のGS350と120km程のGS430では大きな違いがあり、GS430は十分なμ(摩擦係数)が出ていない感じで、これはおそらく初期の当たり(慣らし)不足だろう。同じような状況は走行25kmと降ろしたてのボクスター(987、標準でブレンボー製を装着)でも経験している。だが、確証はないので、もしかするとGS350とGS430では、システム的に異なるのが原因でフィーリングに違いがあるのか?とにかく、以下の記述はGS350を主としている。

ブレーキペダルに足を乗せると、短い遊びの後にグッと制動力が立ち上がるのは、それこそBMWに似ている。特に驚いたのが、ソコからのストロークの短さで、この点では最近ストロークが多少長めになったBMWを完全に上回っている。今まで経験したブレーキでこれよりストロークの短いのはポルシェ911カレラSとボクスター986のポルシェ一族のみだ。(新型ボクスター987も当たりが付けばカレラに迫っただろう)
まあ、ストロークが短かければ良いというものでもないし、最近の欧州各社のブレーキは以前よりストロークが長くなる傾向にあるから、一概にGSが最高とも言えないが。
同じオポーズド(しかも4輪)を装着しているセルシオは、ブレーキフィーリングが難点だったが、このGSは大きく進歩している。効き始めから踏力に比例して立ち上がる制動力は実にコントロールし易い。実はフロントのパッドには独テキスター社のT4146という材質を使っている。これは、BMWなどが使用している材質そのものだ。国産車では他にフェアレディZも採用している。
ただし、何事にもデメリットというものがある。T4146の最大の欠点は磨耗が速く、ローター攻撃性も強く(パッド交換2回に1回はローター交換要、最悪毎回交換)更に、フロントホイールはあっという間にブレーキダストで真っ黒になり、しかも放って置くと取れなくなってしまう。欧州車のユーザーなら当たり前の、この問題にレクサスユーザーがどういう判断をするか楽しみだ。

ブレーキフィーリングの良いのは判ったが、それでは急制動時の車両の安定性は如何だろうか?これを調べるためにGS430で、2車線のバイパスで、前後にクルマがいないのを確認してから、一度加速して、即座にブレーキペダルに足を乗せると、完全に踏力が立ちあがる前に行き成り減速度を感じて、リアは一瞬ロックに向かう音と感覚を感じて驚く。ABS作動には至らなかったが、これからロック寸前まで力を入れようという一瞬前に、勝手にブレーキ力が立ち上がったのは、GS430のみ装着されているEBC(電子制御ブレーキ)の仕業らしいが、なんとなく余計なお世話のような気がするが・・・・。
お蔭で、高減速度の時の踏力とブレーキ力がどのくらいリニアか試そうという目論見は失敗に終ってしまった。


GS430に標準の5スポーク、8J18ホイールと245/40R18タイヤ。


GS350に標準の10スポーク、7.5J17ホイールと225/50R17タイヤ。
ブレーキはGS430と共通で、350だからといって差を付けていないのは立派!


リアブレーキはフローティングキャリパーと外形φ310mmのローター。


フロントブレーキは17インチのアルミ対向4ピストンキャリパーと外形φ334mmのローター。

以上がGSに試乗した結果だが、さて、こうして振り返って見ると、確かに良いクルマなのだが、これといった特徴はないし、乗っていて楽しいというものでも無い。この感覚は10ヶ月程前に乗ったマークXとソックリではないか!勿論、マークXよりレベルは遥かに高いが。
その中でも、GS350の520万円というのは、まあ許されるか?しかし、BMW525iだって価格的には570万円と50万円しか違わないし、今のところ値引き無し、ワンプライスのGSに比べれば決算時期やイヤーモデル遅れの大幅値引きなどで実質価格は逆転するかもしれないとなれば、はて、どちらを選ぶか?GS350が525iに確実の勝てるのはヨーイドンのゼロヨン加速くらいだから。
と言っても、525万円のレジェンドに比べたらGS350が圧倒的にお勧めだ。なんて言うと、またホンダオタクが怒りそうだが、100人中99人以上はGSを選ぶと思うのだけれど。

実はGS試乗の後、その足でBMWデーラーに寄って展示してあった525i-Mspの運転席に座った瞬間に、あれっ!GSは一体何だったんだ?と思うほどに、シートは体にフィットするし、ダッシュボードからの風景といい、自然なステアリングやペダルの配置等・等、実に良く出来ている。それにドアを閉めた瞬間の、あのズシンッとくる重厚感や、インテリアの質感、いや、そんな一つ一つが如何したといううよりも、室内全体、クルマ全体から発せられる雰囲気がまるで違うのを目の辺りにして、何とも表現出来ない虚脱間を感じてしまった。レクサスGSを運転しながら、ああだ、こうだと考えながら、踏んだり、離したり、回したりしたのは一体何だったんだ!?
この違いが気になる(判る)人は、絶対にGSを、いやレクサスを買うことはないだろう。

性能では勝り、価格でもメリットがある筈のグランドセイコーはロレックスには勝てなかった。レスサスを一言で言えば、クルマ界のグランドセイコーか?