トヨタ クラウン マジェスタ  (2005/1/28)


 

 ※この試乗記は2005年 1月現在の内容です。
従って、文中の車種や価格は現在と多少異なる場合があります。


外観はどう見てもクラウンで、チョッと見には大きな差が判らない
   

試乗車はCパッケージというグレードで価格は609万円(消費税含む)、この下のAパッケージ(567万円)に対してリアにパワーシートやエアコンなどの快適装備が追加されているが、オーナードライバーには不要なものばかりだから、ショーファードリブンでなければAパッケージで十分だ。
外観はどう見てもクラウンで、よく見れば細部の形状が異なるし、大きさもクラウンより大きいのだけれど、チョッとみてグレードによっては250万円以上の価格差が有るようには見えない。

ドアを開けた瞬間に見えるインテリアも、これまたよく見ればロイヤルあたりより高級な材質を使っているようではあるが、やはり大きな差は見出せず、セルシオのようにドアを開けた瞬間に漂う、これは只者では無いという最高級車のオーラが全く無い。

乗り込んでシートに座りドアを閉めると、V8搭載の高級車としては幅方向に狭く感じる。この手のクルマなら、幅方向の異様な無駄空間みたいな物を感じるのが普通だけれど、マジェスタにはそれが感じられないだけではなく、肘の部分のドア内側を目一杯削って広さを演出しようとしているのが逆に安っぽく感じてしまう。


試乗車のシートは織物でレザーシートはオプションとなる
 
セルシオのようにドアを開けた瞬間に漂う、高級車独特のオーラは感じられない
 

試乗車のシートはオプションのレザーシート(15.75万円)の装着は無く、標準のジャガード織物だが座り心地は決して悪くはなく、90分程度の試乗では特に腰が痛くなるなどということは無かった。それにシート表皮もよく見れは化繊丸出しのロイヤルに比べて金が掛かっている。
シートの位置調整は当然電動で、スイッチは運転席の場合はシートの右側にあり、その配列も一般的で、なんの知識が無くても問題なく操作できる。シート位置を調整してからステアリングが遠いのでコラムの左のある小さなツマミを手前に引いてみたら、ステアリングが電動で手前に動き出した。が、少し動いたところで止まり、どうやら限界まで手前に来ているようだ。しかし、これでは未だ遠すぎるのだが!
このクルマを運転するのが、旧人類といわれる人たちであるのは判るが、これでは相対的に足が長い最近の若者はベストポジションを取れないことになる。

ダッシュボードのデザインはロイヤルやアスリートと多少異なるが、液晶ディスプレイを囲むナビのパネルやその上のエアコン噴出し口などがシルバーに仕上げられていて、これがチョッと見には安っぽく、どうもトヨタらしくない。この点はロイヤルの一見皮張りのような、ご丁寧にも縫い目の糸まで金型で作った偽者の方が高級に見えるし、これぞトヨタと言う感じなのだが・・・・。
カタログを見たら、室内のトリムが本木目と書いてあったから、ロイヤルのようにプラスチックの偽者ではなく、本物なのだろう。しかし、惜しいことに両者の違いは良く判らない。言い換えれば、トヨタの「木目調」のプラスチックパネルはそれだけ出来が良いとも言えるが。

6速ATミッションはクラウン3ℓと基本的に同じで、ジグザクゲートをDに入れると、その右横のゲートにはSと前後に+、-となり、欧州車のティプトロニ ックなどと同じだ。


シルバーのパネルが、何となく高級感に欠ける。よく見ればロイヤルより高級な素材なのだが・・・・。

クルマを渡された時点でエンジンは掛かっているようだったが、それは回転計がアイドリングを示していたから判ったので、もし回転計が無かったら恐らくスターターを押してしまっただろう。それくらいにアイドリングは静かで振動がない。足踏み式パーキングのリリースは、最近よくある再度踏むタイプではなく、リリースレバーで解除する方式で流石に手抜きはしてない。
いよいよ走り始めると、セルシオと共通のV8 4.3ℓによる走りは流石に高級感があるし、これは3ℓクラスには無いフィーリングだ。ところが、走り始めた瞬間から体全体で感じる高級車独特の重量感とスムースさというか、いま自分は只者ではないクルマを運転しているという感覚を味わえないのだ。セルシオにはあったし、勿論BMW7シリーズならタップリ感じることが出来るのだが。

まあ、そうは言ってもマジェスタはあくまでクラウンベースなのだから、そこまでは要求しなければ、トルクフルでスムースなV8はレスポンスも良く、加速をしたい場面では、チョッと踏み込めば6速ATは直ちに、しかもスムースにシフトダウンし、強力な加速を提供する。試乗コースは都内の片側2車線の幹線道路を主としたが、この手の道でよくある、駐車中のクルマを避けたりするために、その都度車線の変更が必要な場面では、この強力な加速に物を言わせて隣を走るクルマを一瞬で引き離して楽に車線を変更できるので実にありがたい。

実はスタート直後に最初に感じたのは、ステアリングの異常な軽さだ。まるで2昔前の高級車と言う感じで、片手どころか小指でも良いくらいだ。この軽さだから、両手を10時10分に置いてシャキっとした運転をしようとすれば物凄く疲れる。そこで左手は使わずに、右腕も肘はドアのアームレストに乗せて、ステアリングの4時位置を指先で持つというオヤジ運転をしたみたら実に具合が良い。
こんなステアリングだから、路面からの情報は無いに等しい。この軽さで中心付近からレスポンスが良かったら危険だが、そこは当然ながら適度にトロイ。と言っても、指先5本分も不感帯がある訳でもない。
こんな特性だから、ハンドリング云々を言うのも無意味だが、2年程前に乗ったロイヤルサルーンのマイルドハイブリッドに比べれば遥かにマシで、2車線の道路が空いたのを見計らって70km/h程度から急な車線変更をしても、大きくフラついたりなど危険な挙動はなかった。とは、言っても極端に軽いステアリングでは、思い通りのラインなどはとれる訳もないが、そんなクルマなんだと言い聞かせれば腹も立たない。最近発表される上級サルーンが判で押したように目標はBMW5シリーズだったと公表しているのに対して、マジェスタはそんな事は一言も言っていないから、欧州車と比べて如何したなんて全く考えていないのだ。

では乗り心地はと言えば当然良い!それでも大きくピッチングをしたり、カーブでユラっと傾いたりはしないから、クルマ自体の基本はシッカリとしているようだ。これもゼロクラウンとして、従来型よりも剛性を増したベース車の恩恵だろうか。しかも、走行中は極めて静かで、この点ではセルシオにも勝るかもしれない。マジェスタのタイヤは全グレードに215/55R17が装着され、これはロイヤルサルーンの215/60R16に比べてホイールがワンサイズ大きく、この点では乗り心地では不利な筈だが、実際にはロイヤルより良いくらいなのは、やはり金のかけ方が違うからか?

一番意外だったのはブレーキが良く効くことだった。最近のトヨタ車は踏めばドンドンとストロークが伸びでしまう剛性感の無さと、チョッとした急減速でも目一杯踏まないと効かない、踏んでもスーと滑って行くような、なんともフィーリングの悪さが気になったが、マジェスタは踏んだ瞬間に効きの良いのが判る。この効きの良さは、欧州系のハイミューパッドのような食いつき感ではないが、それでも少し踏み込めば十分な減速度が得られる。なにより、驚いたのはその剛性感で、初期の遊びを過ぎて効きだしたあとは、相当の踏力でも殆どストロークしない。試しに停車中に思いっきり踏んだみたが、やはりストロークは短く、ガッチガチの欧州車のようだ。

やがてクルマにも慣れてくると、運転席正面のダッシュボートの少し上辺りのボンネット上に、何やら緑の数字が浮いているのに気が付く。これがマジェスタ全車に標準装備されているヘッドアップディスプレイで、速度計へと視線を変更せずに速度が確認できる有りがたい装置のようだが、長年の癖でメーターを見る習性がある一般ドライバーが、これに慣れるまでは時間が必要だろう。


写真では見難いが、ヘッドアップディスプレイによって速度が表示される。今は停車中なのでグリーンで’0’と表示されているところ。
 
マジェスタのタイヤとホイールは全てのグレードで同一の
215/55R17。
 

試乗結果を一言で言えば、マジェスタこそジャパンオリジナルのクラウンの伝統を引き継いだ生粋のオヤジ車と言える。チョコっと踏めば低速から強力な加速が得られる強力なV8エンジンと、片手で軽々と運転できる恐ろしく軽いステアリング。それに極めて静かな室内に、柔らかい乗り心地。いまや少数派になってしまった旧人類の中小企業経営者には正に打って付だが、そういう需要は現在どのくらいあるのだろうか?こんな車でもある面肯定できるようになったのは、自分自身やはり年をとったのか?正直言って、都内を走って見たら結構楽チンだった。

ゼロクラウンで従来のコンセプトを変えてしまったロイヤル系の穴を埋めるが如く、マジェスタは基本コンポーネントを共用しながらも、旧来のコンセプトを維持し、しかもロイヤルより1クラス上級車に仕立てられた。だが、マジェスタにとって一番辛いのは、価格的には現行セルシオのベースグレードとほぼ同じで、そう考えると今現在、マジェスタの価値は無いとも言える。しかし、セルシオは05年の夏からは新展開のレクサスブランドになり、しかもその時点で新型にフルモデルチェンジされるから、値段も相当上昇するだろう。そう考えれば、今すぐにでも現行セルシオを買っておくのも良い選択かもしれない。

マジェスタは本来ロイヤルのバリエーションとすれば、2.5、3.0、4.4リットルの展開となり、これは例えばBMWの525i、530i、545iというラインナップと同じで、なんの違和感もない。ところが、トヨタにとって辛いのはレクサス店の新規参入でセルシオが無くなり(レクサスLSとなる)、トヨタ店には最上級車種が無くなるという問題があることだ。もちろん価格的にはV12を積んだセンチュリーがあるが、あれは別格だろう。そこで、苦しまぎれにクラウンのV8版を別の最上級車種としてデッチ挙げる必要があったのだろう。

こんな経緯があるから、基本的には中々良いところを持っているのに、何か詰めが甘いと言うか、ちぐはぐと言うか、開発そのものに気合が入っていないと言うか。まあ、そうは言っても、自分でマジェスタを買うことは一生ないだろうから、どうでも良いとも言えるが。