ヒュンダイ クーペ(2005/4/15)



 


外観上は中々カッコが良い。赤い試乗車はこのクルマのキャラクターに実に合っている。
このスタイルとV6 2.7ℓ、MTなら6速というスペックからは、とても200万円代前半とは思えない。これで性能がまあまあなら良いのだが・・・。

リアから見ても実に速そうだ。太い左右2本の排気管や立派なウイングなど、高性能車の雰囲気がムンムンとしてくる。
とは言え、このスポーティ感覚は今や日本では懐かしいものとなってしまった。

最近、韓国のヒュンダイ自動車が話題になっている。日本では殆ど無視していた韓国の自動車生産は、2003にヒュンダイが世界第7位(2004 Automotive News)と気が付いて見たらニッサンやホンダを抜いて、今や生産台数ではヒュンダイに勝っている日本のメーカーはトヨタだけとか?米国では結構売れているそうだが、米国人は安くて普通に走りさえすれば、何処製だろうが関係なく購入する層が結構いるらしい。一方日本国内では2001年からXGなどを売り始めたが、何しろ世界一コストパフォーマンスの高い車を作っている国だから、いくらヒュンダイが安いと言っても誰も手を出さないし、おまけに戦前からの両国の関係や日本人の感情から言っても、そう簡単には普及しないだろう。
とろこが、最近は「韓流ブーム」とか言って、今までの日本では考えられないような韓国ブームが巻き起こった。もちろん原因はあの「ヨンさま」と「冬のソナタ」なのだが。
では、世界で売れているヒュンダイ車というのは一体どのモデルかと言えば、日本では売られていないソナタという車種らしい。ソナタは現行最新モデルが昨年8月に発表された、韓国車としては最新鋭のクルマで、韓国国内用には2.0と2.4ℓの直4を搭載するが、米国用としては3.3ℓのV6となるらしい。ただし、今現在、米国で販売されているソナタは旧型ので、新型は米国での現地生産車となるようだ。車格としては、日本車ならカムリやUSアコード(日本で言えばインスパイア)などと同じクラスか。

折角の韓流ブームに、しかも車名が「ソナタ」だから、これこそブームに乗って売れたかも知れないが、このクルマは日本には導入されていない。米国向けのために新型は前幅が1840mmもあり、日本では使い辛いだろう。このクラスの米国主体の車種は天下のトヨタでさえ、カムリを売り喘いでいるのだから。それでも、今年中には日本でも発売する予定とか。さて、どうなる事か?

ソナタ以外では、日本でも売られていて、ヒュンダイ車の中では日本で一番販売台数が多いであろうXGも米国で販売されている。このXGは近日中に新型のTGにフルモデルチェンジされるようだ。現行XGがディアマンテその物なのに対して、TGはヒュンダイのオリジナルだそうだが、基本構成は同じだろう。
他には、RAV-4ソックリといわれるSUVのJMや低価格コンパクトのTBがある。TBは1.3ℓで94.3万円からと確かに安いが、何しろこの分野では世界一のスズキ自動車の母国で勝負するのはチト辛い。

他にエラントラという小型セダンが日本でも売られているが設計が古く、とても日本で売れるとは思えない。また、一時期輸入されていたトラジェというミニバンも、流石にミニバン王国日本で売るのは諦めたらしく、現在は販売中止となった。

そして、今回試乗したクーペは、韓国では若者のあこがれであるスポーツクーペであり、また最大の売れ先は米国でのいわゆるセクレタリーカー(かなり貧乏な)としての用途だ。米国名はTiburonと呼ばれ、価格は15999〜19999ドルで廉価版は2ℓ、4気筒もある。韓国ではTUSCANI(トスカーニ)という名称で2001年9月に発売されたが、その前身はタービュランスという4つ目の旧セリカそっくりのクーペで、これまた対米にはセクレタリーカーとして、韓国国内ではクルマ好きの若者向けとして、また韓国内のツーリングカーレースでも定番だったようだ。韓国車としては一世代前の部類なので、ソナタのように最新の韓国車と言う訳ではない。


TB
欧州市場ではGETS(ゲッツ)、韓国ではクリックと呼ばれる1.3ℓの5ドアコンパクトハッチバック。
日本国内では94.29〜115.29万円で、この分野では世界一のスズキ自動車の母国日本では殆どメリットがない。

JM
2004年2月に発表された最新鋭SUVで2.0(169〜204.75万円)と2.7(231〜255.1万円)がある。スタイルはRAV-4ソックリと囁かれている。

XG
韓国ではグレンジャーXGと呼ばれる、日本でもお馴染みのXGの中身は殆どディアマンテそのもの。05年4月の末に後継車のTGが発表され、年末には日本でもTGに代わるだろう。韓国ではかなりの高級車で、何時かはクラウンではなく、何時かはグレンジャーか?

SONATA
日本では未発売で韓国では昨年8月にフルモデルチェンジされた最新鋭車種で4気筒2.0と2.4ℓ。米国では現在は旧型が販売されているが、今後は米国生産となり3.3ℓV8搭載の予定。USカムリやUSシビックと同じカテゴリーなので、かなりの販売台数を稼げる。今年末には新型が日本でも販売されるらしい。

いよいよ今回の試乗車の説明に入ると、ミッションは4速ATで2.7ℓのV6エンジンで前輪を駆動する。サンルーフ、アルミホイール、本皮巻ステアリングホイール、本皮/メッシュクロススポーツシート、フォグランプ等は全て標準で220.5万円(消費税含む)となる。6速MT仕様も同価格で、こちらは注文生産とか。

外観は中々格好が良く、派手な赤に塗装された試乗車は目立つ事は請け合いだ。ウエストラインの割りにルーフが低いスタイルは最近では珍しく、日本車で言えばスープラやシルビアの時代を思い出す。
フロントフェンダーにある大げさなルーバーはサイドフェンダーガーニッシュと言うそうで、何のことはない只の飾りで、空気抵抗を増すくらいの効果しかないだろう。
リアシートは取り合えず大人二人が乗れる程度のスペースはあり、この点でも何やら昔日本で流行った2ドアクーペ的だ。これに比べると、ポルシェ911やレクサスSC(ソアラ)などは、どうやってリアシートに潜り込むのか悩むほどに狭いが、あれは用途が違うのだろう。


フロントシートの調整は手動式。シート表皮の材質、サイドサポートや座り心地も悪くない。

大人でも何とか座れるリアシート。この点ではソアラやポルシェ911にも勝っている!

シートに座ると、これまた低い着座位置と足を投げ出した運転姿勢は懐かしいスポーツカーのそれだった。シートは本皮とメッシュクロスのスポーツシートで、見かけは中々良いし、座り心地もまあまあだ。シートの調整は全て手動だが、上下にも調整でるし、サポートの張りも調整できるようだが、やって見てもあまり意味が無かったところも昔の国産車のようだ。

車内の質感もまあまあで、値段を考えれば大したものだと言えるだろう。エクステリアもインテリアも見渡した限りの部品代を考えれば、200万円代前半の価格は実に安いと言える。

  シートや内装の質感は悪くないが、シルバーのセンタークラスターやATのセレクターレバーのベースプレートなどは安っぽい。ステアリングホイールは標準で革巻きとなる。
センタークラスター下段はマニュアルエアコンの操作スイッチ類。

シートや内装の質感が良いのとは対照的にメーター類の質感は良くない。速度計は輸入車なので目盛は260km/hまで刻まれている。速度計、回転計とも質感は良くないし、その中央上側にある水温計と燃料計は更に安っぽく見難い。
センタークラスター中段にも3つのメーターがあり、左からエンジントルク計、瞬間燃費計と電圧計なのだが、これも小さく質感が低い上に、センターの比較的低い位置だから、運転中には見辛いし、なによりトルク計なんて何の役にたつのだろうか?BMWにも瞬間燃費計は付いているが、あれは一番見やすい特等席に付いているから意味があるのだ。

こういう意味のないメーターをヤタラ並べるのがスポーティという感覚は、三十数年以上も前の初代フェアレディZ(S30)の頃の日本車のようで、ある面懐かしくもあるし、ハッキリ言って発展途上のスポーツカー感覚だと言える。

 
輸入車の強みで260km/hまで目盛られた速度計と6500rpmからレッドゾーンの回転計。そんなに回るのか?そんなに速度が出るのか?なんて堅いことは言わないように!

中段の3つのメーターは左からエンジントルク計、瞬間燃費計、電圧計で実際には何の役にも立たない。標準はオーディオレスとなる。

いよいよ走りだしてみよう。175ps/6000rpm、25.0kgm/4000rpmの2.7ℓ V6エンジンは走り出した瞬間は、結構トルク感がある。それゃ2.7ℓもの排気量があれば、いくら性能イマイチのエンジンとは言っても、絶対的なトルクは結構あるから、普通の街中での走行では十分なトルクがあるのは当たり前だろう。
多少慣れたところで、フルスロットルを踏んでみると、4速ATのキックダウンの反応は遅く、やっとシフトダウンしたら、今度はエンジンの回転上昇がこれまたトロイ。それでも5500rpm程度までは回り、振動も騒音もなんとか我慢できる範囲だった。世間で評判の悪いニッサンの3.5ℓVQエンジンでもヒュンダイの2.7ℓ V6よりはマシだが、ボルボV70の5気筒エンジンよりは良く回るので、言って見れはボルボ5気筒とニッサンVQの中間くらいと思えば良いだろう。同じ自然吸気6気筒2.7ℓエンジンとしては最近乗ったポルシェボクスターが最上級とすれば、ヒュンダイは何とか使える下限というところか?カタログには「V6DOHC2.7リッターの圧倒的なパフォーマンス」と書いてあるが、何が圧倒的なのか知りたいものだ。

走行中にバックミラーを見ると気になるのが、中央に横一線に見えるリアスポイラーだ。常に後方視界の邪魔になり、慣れないと実に不愉快だ。今時、後方視界を犠牲にしてまで、見かけを良くする感覚も、これまた信じられない世界だ。視界といえば、低い着座姿勢と、比較的高いウエストラインに少ないガラス面積から想像出来るように、後方視界は最悪だ。とてもじゃないがバックする気になれないのも昔の日本車のようだ。

ステアリングについては、まず操舵力はかなり重い。それも、ドッシリと重いのではなく、ステアリング系のフリークッションの多さや、極端なフロントヘビーによる車両バランスの悪さからくる重さだろう。特性は当然クイックではないが、直線走行中にステアリングを45度以上切っても全く反応しない程に鈍くはない。45タイヤを履いていることもあり、中心付近でグニャグニャすると言う訳でもないから、普通の人が一般道を流れに乗って走る分には大きな不満は出ないだろう。
今度は少しきつめのカーブを探して、ここに進入してみたが、この時の特性はいわゆる”ドアンダー”と言う奴で、ただでさえ重いステアリングを力任せにエイッと切っても、クルマは曲がってくれない。だから、進入前に十分な減速を必要とするわけで、それゃ、カーブの前は減速するのが安全運転の原則とは言え、今時これ程速度を落とさないと曲がらないクルマも珍しい。少なくとも20年は遅れているような気がする。ただし、やたら硬い足回りのお蔭でクルマが大きくロールする事はない。
同じくフロントヘビーでドアンダーのアルファロメオGTAの場合は腕の良いFF乗りなら、テクニックで何とかなるだろうし、それがまたマニアックで楽しいのだろうが、ヒュンダイクーペの場合は、どうにもなりそうもないし、面白くないし、何より無理は危険だ。カタログには「ドライバーの意思をリニアに受け止め、常に走る喜びに変える。・・・」とあるが、はぁ?冗談でしょ、と言いたくなる。
このクルマに比べれば、オデッセイアブソルートを、まるでスポーツカーのようだと表現するのも、あながちハッタリだと非難も出来ない。

 
標準で装着されるアルミホイールと215/45ZR17タイヤ。タイヤハウス後方のルーバーはダミーのようだ。

リヤーも当然ディスクブレーキを装着。ブレーキキャリパーはフロントに比べてかなり小さい。相当なフロントヘビーなのだろう。

赤いボディに白い文字でヒュンダイのロゴが入るキャリパーが見えるホイールは、いかにも高性能車の雰囲気があるが、そのブレーキ性能は見かけとは大違いだ。

これは本物のポルシェ911Sのキャリパー。ヒュンダイクーペも素人見にはポルシェのような外観と言うところか?
ただし、性能は世界一のポルシェに対してヒュンダイクーペは世界最低の部類だろう。
 

コーナーで案外ロールが少ない事でも予想はつくが、硬く固めた足と45扁平のタイヤの組み合わせから想像できるとおりに、乗り心地は悪い。チョッとした路面の凹凸で、常にガツッ、ガツッと体に伝わるが、結構マトモなシートのお蔭で乗るのが嫌に成る程に不快ではないが、これも昔の国産スポーツ車を思い出す。これまたカタログでは「シャープでリニアなハンドリングと優れた乗り心地を両立」したそうだ。

トロイエンジン、硬い乗り心地と盛大なアンダーステアは、まあ愛嬌としても、どうにも成らないのが効かないブレーキだ。最初にブレーキペダルに足を乗せた瞬間に感じる異様なストロークは、チョッとした制動でもペダルがグニューッと床まで沈み込む。これが少し強い制動となれば、本当に床に底突きするんじゃないかと思える程だ。ストロークと共に摩擦係数も如何にも低そうなフィーリングだから、今時珍しい駄目ブレーキだ。この酷さは、特にクルマに興味の無い人でも判るレベルだ。これは早急に何とかしないと問題だろうが、米国では安ければこんなブレーキでも許されるのだろうか?それとも、この手のクルマを買う層は、これで十分なのか?まあ、ブレーキなんて殆ど必要ないような、米国の広大なド田舎しか走らないのかもしれないが。

ただし、ブレーキの見かけは中々良いから困ったものだ。特にフロントは細身のスポークを持った17インチアルミホイール(これも強度が心配)から覗くブレーキキャリパーが赤いボディに白いヒュンダイロゴと、まるでポルシェのようだ。カタログには「高性能を主張するレッドキャリパーを採用」と書いてあるが、赤ければ高性能という感覚が何とも笑える。キャリパーを赤く塗る暇があったらもう少しブレーキ性能をなんとかしろよと言いたくなる。

このスタイルとスペックを価格と比較すれば、そのコストパフォーマンスの良さに一瞬心が動くが、冷静に考えれば、この今時トンでもない性能と未知の信頼性、それに殆ど期待できないリセールバリュー等を考えれば、今現在とても手を出せないし薦められない。それでも6速MTモデルは、乗り潰す気で買うなら止めはしない。このMTモデルは注文生産で納期は3ヶ月以上掛かるとか。既に予約をしている人がいるそうで、成る程、物好はいるものだ。そのうちMTモデルの程度の良い中古が只同然で出たら、ちょっとその気になるかもしれない。

今回のヒュンダイクーペの性能はもうヨレヨレだったが、このクルマは韓国車としては1世代前の設計なので、最新鋭のモデルはもう少しマシだろう。そう言う意味では、年末には日本でも発売される可能性のある新型ソナタとXGの後継車であるTGには興味がある。恐らく、来年の今頃はヒュンダイやその擁護派は、TGがレクサス(セルシオ)を追い越したとか、ソナタはカムリより安くて高性能で米国市場でカムリを追い越すのも時間の問題、てな事を言うような予感がする。しかし、悲しいかな、その頃にはレクサスはフルチェンジのタイミングになり、必死で近付いた筈の韓国車に大きく水をあけるだろう。
あれっ、これって、何処かのパターンと似ていないか?そう、旧型のBMW5シリーズを目標に、やっと近付いたと思ったら、新5シリーズは遥か彼方の世界に行ってしまい、これに追いつくにはまた5年や10年は掛かりそうだという何処かの国のクルマにソックリじゃないか!