BMW 525i ツーリング (2005/4/30)

 




 
BMW 525i M-sp


BMW 525i


BMW 530i


BMW 330i


BMW Z4 3.0

 

※この試乗記は2005年 4月現在の内容です。
従って、文中の車種や価格は現在と多少異なる場合があります。


前から見れば5シリーズサルーンそのものだ。
 
例によってワゴンとは言えリアオーバーハングはセダンと殆ど変らない。積載量を競うクルマではない。
 

今から30年程前、やっと社会に出たばかりのころ、自分で会社を起した少し年上の友人から電話があり、新しいクルマを入れたので見に来ないかと言うことだった。友人は当時、事業が上手くいきだして、今まで仕事に使っていた中古のフルサイズ・アメ車ワゴンを入れ替えたいと言っていたので、新車のアメリカンワゴンにお目にかかれるかと思い出かけて見ると、なんと、目の前にあったのがメルセデス300TDだった。これは当時コンパクトメルセデスと呼ばれていたW123、要するに3代前のEクラスのCピラー以降を延長してワゴンボディとしたもので、エンジンは3ℓのターボディーゼルを搭載していた。
早速、運転させてもらい、友人の所要に付き合って東京から静岡までの試乗となった。結果は300TDのあまりの安定性の良さに、ショックでその後当分自分の車に乗る気がしなかった。さらにその半年後、その友人の経営する会社の社員と共に伊豆に旅行に行こうということで、此方も自分の車を出し、他の1台(三菱ジープ)とともに伊豆の山道を走ったのだが、まあ、ジープはマイペースで別行動したが、こちらは300TDに附いていていった。ところが、友人の会社のアルバイトの女子大生(なんと免許取立て)の運転する300TDに、クルマおたくの運転する国産ツイカム、ソレックスキャブ付きのGTは、付いていくだけで精一杯だった。なにしろ、見るからに安定した姿勢でコーナーをクリアしていく姿を見せつけられながら、こちらはと言えば自慢のワイドタイヤは悲鳴をあげ、5速MTをこれでもかとシフトして、直線になったらフル加速、コーナー手前でヒールアンドトーを駆使して2段落とし・・・・それで若葉マーク女子大生の運転するディーゼルエンジンの大きなドンガラのステーションワゴンに付いていくのがヤットなのだから、今まで知らなかった、国産車との実力の差を見せ付けられた訳だ。

その時、心に誓ったのが、カタログスペックだけのゴミみないな国産ハイパフォーマンスカーなんて辞めて、貯金に励んで、何時かはメルセデスのワゴンを買おうと言うことだ。


左がW123のワゴンで古き良き時代のメルセデスだ。
右が現行W211ワゴンで、Eセグメントの王者もブレーキの欠陥などで
BMW5シリーズが直ぐ後ろまで迫っている。

月日は過ぎて、コンパクトメルセデスはW123からW124に進化し途中でEクラスと呼ばれて、このクラスでは押しも押されもしない、名実共にナンバーワンの座を築いた。と、ここまでは良かったのだが、次のW210は4つ目のデザインが不評だったり、メルセデスのこれでもかの高品質感が薄れて、普通のクルマに近付いたことから、どうも落ち目に向かい始めたようだ。と、言っても相変わらずナンバーワンの座は変らず、次のW211にバトンタッチ。ここで、またチャチになったのだが、それよりも最悪なのがオールエレキによるブレーキ制御システムのSBCに欠陥があり、リコールになったことだ。これはSBCが誤って故障警報を出してしまい、緊急用のメカブレーキに切り替わってしまうことだ。この場合に得られる減速度は0.3G程度だから、言って見れば雪道程度で、しかもブレーキペダルを目一杯踏んだ時の話だから、普通の人からすれば突然警告と共に殆どブレーキが効かない状態になるわけだ。
こうなると、王者Eクラスも流石に敬遠されて、その分はBMW5シリーズに流れる確立が高いことになる。

と前置きが長くなったが、要するに何時かはメルセデスワゴンという B_Otaku の夢は、5シリーズワゴンに変ってしまった訳だ。5シリーズのワゴンは2世代前のE34型のバリエーションとして1991年に発表された。従ってメルセデスに比べて10年以上後発となり、未だにマイナーな存在であることは事実だ。当然ながら試乗車も簡単には見つからないが今回は運良く試乗ができた。


リアワイパーの付け根に隠れるスイッチでリアのガラスハッチを明けることが出来る。

大きなテールゲートを明けなくても、スーパーの買い物袋などのチョッとした手荷物を出し入れできる。このクルマで近所へ買い物に行くか?という話もあるが・・・。

BMWのワゴンは伝統的に実用性よりも走りを重視するため、ワゴンとしての荷室の広さは重要視されては居ないが、流石に、このクラスになると元々車両が大きいので、結構広いスペースがある。
ワゴン専用サスによる張り出しの無さも効いている。何より内装の高級さは他のワゴンに比べて際立っており、ここに汚れた自転車を乗せるのはチョッと・・・・・。
 

試乗車は525iツーリングハイラインパッケージで、価格は667万円(消費税含む)で、ベースグレード(635万円)に対して本皮シート、電動サンルーフ、ポプラウッド・インテリアトリム、リア・サイドウインドー・ローラーブラインド、6連装CDチェンジャーが追加される。

外観はと言えば、前から見れば5シリーズそのものだ。リアも中々カッコ良く、人によってはセダンに比べてもワゴンの方が好きだという場合もあるだろう。
ワゴンだからといってリアオーバーハングを伸ばしたりしないのがBMWワゴンの特長だから、ラッゲージスペースは他車に比べては決して広くない。しかし、5シリーズのようにアッパーミドルクラスともなると、それでも結構広いスペースがある。何より、ラッゲージルームに張り詰められたカーペットを見ると、とてもじゃないが、ここに汚れた荷物を積む気にはなれない。この高級感が堪らないという人には、それだけで買う価値ありだ。

ドアを開けて運転席に座れば、その眺めはマルっきりの5シリーズそのものだ。違うのはルームミラーに映し出されるリアウインドウの位置が、いつもより遠い事だけだ。
試乗車はハイラインパッケージ仕様なのでウッドトリムと本皮シートが高級感を助長する。BMWにしても、メルセデスにしても、なぜウッドトリムと本皮シートがこれ程までの高級感をかもし出すのだろう?久しぶりに気が付いたが、なぜ国産車にこの雰囲気が出せないのだろうか?


5シリーズそのもののフロント回り。試乗車はハイラインパッケージのため、本皮シートやウッドトリム(勿論本木)を装備する。BMWの本皮シートの質感は実に良く、表面にわざとシワを付けているのがまた高級感を誘う。メルセデスの本皮もBMW同様の質感だし、ジャガーはもっと張りのある、それでいて滑らないなど、欧州の名門は皮の使い方に関しては流石に上手だ。
 

エンジンを掛けるのに、スタートボタンを探したが、5シリーズはキーを捻って始動スイッチが入るという、極当たり前の動作だったことを思い出した。このところ新発売される新型車は国産を含めて、何故かスタートボタン方式が多くなってきた。

B_Otaku は新5シリーズについて、03年12月の発売と同時に525i530iに試乗しているし、昨年12月には追加設定されたMスポーツパッケージ車(525i)にも試乗している。さらに、約1年前に530iを3日間モニターで、2日はいつものとおりに通勤に使用して、残る1日は旧友に合うために少し遠出をして、3日間で500km程を走った経験があるから、5シリーズは我が家のマイカーを除いては、一番身近な車種とも言える。


お馴染み5シリーズのメーター。1も3も基本的にはみな同じ雰囲気だ。それに、中央下半分のオンボードコンピュータの表示も先代からお馴染みだ。右の回転計の下には瞬間燃費計がある。

ステアリングのスポーク部分に仕込まれた携帯電話のハンズフリー操作ボタン。これなら違反切符を切られないで済む。やはり、法律は金持ちの味方か?
 

走り出して改めて再認識するのは、5シリーズのスムースで静かで、しかも微かに聞こえるエンジン音の何とも言えない安心感と心地良さをもたらすことだ。アクティブステアリングの軽くクイックな事も、何度乗ってもその度に感心する。この辺のフィーリングはクラウンやフーガがBMWに追いついた等と言っても、全くもって到達できない部分だろう。

5シリーズの基本的な走りに付いては既に何度も触れているので、そちらを参照願うとして、今回は主にワゴンとセダンの違いに付いて確認する事としよう。
まずはセダン(1575kg)より150kgも重い(1730kg)車重に対して2.5ℓで十分かという点だろう。結論を先に言えば、パワフルなクルマが好きな人にはチョッと辛いが、普通に穏やかに走る分には不足はない。感覚的には旧3シリーズ(E46)で言えば、318i(2ℓ、4気筒)より速く、320i(2.2ℓ、6気筒)よりは遅いというところだ。イザと言う時には右足を踏み込めば、スムースな6気筒エンジンは6500rpmのレッドゾーンまで全くストレスなしに吹け上がるし、その時の音も全く耳障りでないばかりでなく、人によっては心地良さも感じる程だから実際には何の問題も無い。とは言え、このクルマをスポーティーに走らせるには3.0を積むべきだと思うが、BMWの6気筒は既に新3シリーズに搭載のマグネシュウム合金製の新型エンジンが主力になったから、この5シリーズツーリングも近い将来は新エンジンに改装されるだろう。その時は若しかしたら2.5でも十分かもしれない。

次に気になるのが、リアの重いワゴンボディで十分な操縦安定性が確保できるかという点だが、これに関しては全く問題ない。通常の一般路ではセダンとの違いは殆ど判らない。途中、例のハンドリング確認の旧道で試したが、大柄なフルサイズワゴンでこれ程までのコーナーリング性能があるのは驚異としか言いようが無い。アクティブステアリングの助けも借りて、大柄なワゴンはライトウェイトスポーツカーのようにヒラヒラと思いどうりに向きを変える。

次に乗り心地だが、リアに自動車高調整を装備しているためにリアはエアスプリング(いわゆるエアサスだ)を採用している。その為か乗り心地はすこぶる良いし、何よりショックを受けたときの当たりが柔らかい。ただし、BMWには珍しく多少のピッチング(上下方向の揺れ)を感じる時がある。ただし、どの車種に乗っても常にフラットな最近のBMWとしてはの但し書き付きということで、ヤタラに柔らかい最近のメルセデスEクラスよりは少ないと言っておこう。大きなクルマが一瞬グラッと前後に揺れるのは、ある意味では高級車っぽい(メルセデスEはその典型)ともいえるから、これまた全然問題はない。
それよりも感心するのは、スタイル優先と言われるBMWのワゴンといっても、本気で重い荷物を積める様に高価なセルフレベライザーを採用したり、ラッゲージエリアを確保し、しかもBMWとしてのサスペンション性能も確保するために、こんなに手の込んだワゴン専用サスを開発したりと、とに角理想を追求していることだ。

そして、当然ながらブレーキ性能も全くの5シリーズそのものだった。

 
前半分は全くの5シリーズそのものだ。お馴染みの直6は近い将来、新3シリーズ(E90)と同じマグネシュウム合金エンジンに変るだろう。

セダンの525iと同一の225/50R17。ホイールのデザインも全く同じ。
 

走る、曲がる、止まるはBMW5シリーズそのままで、高級感溢れる内装の質感と、何よりも走行感覚自体が他のどのクルマでも得られないスムースで静かな、全身これ高級感に包まれる。しかもオシャレなワゴンボディという、正に究極の万能車とさえ言える、このクルマの唯一物足りないのがエンジンのパワー(トルク)で、これさえ解決すれば完璧だ。
もっとも、530iツーリングが発売されたとして、その価格は750万円クラスになるから、今でも高価なのに、益々庶民の手には届かなくなることなる。えっ?元々庶民が無理して買うものじゃないって?そりゃそうだ!

良いものは高い!でも、良くないのに高い物もある。この辺を見極めるには、見る目を育てて、鍛錬するしかない。