中国の若者が「高齢者を助けない(不扶老人)」と言うようになった最大の理由は、親切心から人助けをした結果、逆に加害者に仕立て上げられて多額の賠償金を請求されるという、「碰瓷(ポンツー:当たり屋)」と呼ばれる詐欺行為が横行しているためだ。
この背景には、中国特有の社会問題と、ある決定的な裁判の判決がある。
1. 社会のモラルを破壊した「彭宇(ポン・ユー)事件」(2006年)
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この問題が社会全体に広まる決定的なきっかけとなったのが、2006年に南京市で起きた「彭宇事件」だ。
彭宇という青年が、バス停で転倒した高齢女性を助け起こし、病院まで付き添って治療費まで立て替えた。しかしその後、女性とその家族は「彭宇に突き飛ばされた」と主張し、損害賠償を求めて訴訟を起こしたのだ。
驚くべきことに、裁判所は「突き飛ばしていないのなら、なぜ助けたのか(善意だけでそこまでしないだろう)」という理屈で青年に賠償を命じる判決を下した。この判決は中国社会に甚大なショックを与え、「人助けをすると罰せられる」という深刻なモラル・ハザード(道徳崩壊)を引き起こした。
2. 医療費の負担と「碰瓷(ポンツー)」の横行
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中国では公的医療保険のカバー率や給付額が十分でないケースが多く、大怪我や重病になると高額な医療費が自己負担になる。そのため、自分が転んで怪我をした高齢者が、助けてくれた人を加害者に仕立て上げて医療費を払わせようとする悪質なケースが後を絶たない。現代の中国社会において「碰瓷」とは、故意に車にぶつかったり、転倒した際に助けてくれた人に言いがかりをつけて金を騙し取る当たり屋行為全般を指すようになった。
3. 自己防衛としての「不扶老人」

現在では、路上で高齢者が倒れていても、若者だけでなく多くの人が遠巻きに見るだけで助けようとしない。それは彼らが冷酷だからではなく、「親切心を出せば人生を棒に振りかねない」という恐怖があるからだ。
どうしても助けたい場合は、「周囲の人に頼んで、自分が助けている様子(自分が突き飛ばしたのではないこと)をスマホの動画で撮影してもらう」という対抗策(証拠保全)をとってから手を差し伸べるのが常識となっています。
「十不青年」の中にこの項目が含まれているのは、理不尽なリスクから徹底的に自己防衛しなければ生きていけない、現代の中国社会の世知辛さを象徴していると言える。