結論から言えば、 ICC(国際刑事裁判所)単体には、巨大なデータベースやシステムをゼロから独自開発・自前構築するような技術力や予算・人員はない。
職員数1,500〜1,800人程度の司法機関であるICCのIT部門は、主に既存システムの運用やセキュリティ管理を担う組織であり、巨大IT企業のようなソフトウェア開発能力は持っていない。
それにもかかわらず「脱米国依存」のシステム移行が進められているのは、「自作する」のではなく「欧州連合(EU)や加盟国政府が主導するオープンソース・エコシステムに相乗りする」というアプローチを取っているためだ。
1. 「自作」ではなく「欧州政府製OSS」の活用

• openDesk(ドイツ政府主導):ICCが移行先として発表した「openDesk」は、ICCが自作したものではなく、ドイツ内務省が設立したデジタル主権センター(ZenDiS)が国家予算を投じて開発・提供している欧州政府向けの標準ITプラットフォームだ。
• 実績ある既存ツール群の統合:ファイル管理の「Nextcloud」や「Collabora Online」など、すでに世界中で実績のあるオープンソース製品を組み合わせて運用している。
2. 外部専門機関による技術支援

自前のIT人員不足を補うため、ICCは以下のような外部の強力な技術基盤に依存している。
• 欧州各国のサイバー防衛機関・ITベンダー:ホスト国であるオランダやドイツ、フランスなどの欧州加盟国から、サイバーセキュリティの監視やシステム移行に関する実質的な技術・人材支援を受けている。
• UNICC(国連国際計算センター):国連機関のITインフラを支える専門機関の知見やデータセンター基盤を活用し、移行時の運用リスクを分散させている。
3. それでもICCが直面する「技術的・運用の壁」

基盤となるソフトウェアを外部(欧州政府系OSS)から調達できたとしても、現場の運用には依然として厳しい技術的限界が存在する。
• 高度なLinux/OSSエンジニアの不足:国際機関の給与体系や採用プロセスでは、Big Techクラスのインフラエンジニアやデータベース移行の専門家を確保するのは極めて困難だ。
• データ移植とセキュリティ運用の負荷:過去数十年の証拠データや暗号化データを旧システム(OracleやAzure等)からオープンソース環境へ安全に移植し、サイバー攻撃から守り続ける運用管理は、内部ITチームにとって極めて大きな負担となっている。
結論として、 ICCは自前でシステムを作る技術力を持っていないが、「EUや欧州主要国(特にドイツ)のデジタル主権予算と技術力に頼る」ことで、米国の制裁リスクに対抗できるインフラの構築を進めてはいる。
とはいえ、前途は極めて厳しい。これについては、赤根所長自らが極めて厳しい予測をしている。