アリババにしても、規制前に導入したハードウェアが旧退化した際には新たに導入できるのは性能を落としたモデルとなり、いくらソフトで解消するといっても限界があるだろう。今後のAI開発では米国から徐々に引き離されるのではないか。
AI開発における「Scaling Law(スケーリング法則)」が有効である限り、「絶対的な計算力(FLOPs)の差」はソフトやアーキテクチャの工夫だけでは永久に埋められない。
米国の主要大手(OpenAI, Meta, Microsoft, Google等)がNVIDIAの最新GPU「Blackwell(B200/GB200)」などを数十万基単位で投入してメガクラスタを構築するのに対し、中国勢が手に入れられるのは数世代前のGPUや、規制枠内の性能制限版(HGX H20)、あるいは国産のHuawei Ascendシリーズ等に限られる。
この「ハードウェアの壁」により、今後どのような構造的変化が起きるのか、物理的限界と中国勢の対抗策の両面から整理する。
1. 物理的制約:中国AIが直面する『3つの限界』

アリババやMoonshot AIなどの中国勢が、物理的なハードウェア格差によって直面している限界は以下の通り。
• フロンティアモデル(事前学習)の計算量格差
◦ 次世代の超巨大モデルを一から学習(Pre-training)させる際、1ノードあたりの計算速度やメモリ帯域幅の差がそのまま学習期間の長さに直結する。米国が数週間で終わる学習に、中国勢は数か月〜1年以上かかる計算になる。
• 「数を並べれば解決する」のコスト・電力限界
◦ 性能の低いチップを何十万基も並べてネットワークで接続しようとすると、サーバー間の通信遅延(ボトルネック)が跳ね上がる。また、巨大なデータセンターの電力消費量や熱処理問題が物理的な壁となる。
• 歩留まりと耐用年数の問題
◦ 規制前に確保したA100/H100などは数年間のフル稼働で故障率(経年劣化)が上がる。これを補充・置き換える国産チップ(SMIC製造の7nm等)は、製造の歩留まり(歩留率)が低く、供給量自体に制限がある。
2. 中国勢の反論:「戦い方のルール」を変えるアプローチ

しかし、「米国から一方的に引き離されて失速するか」というと、中国勢は計算量の勝負(物量戦)から「効率と推論の勝負(構造改革)」へ戦場をシフトさせることで食い下がっている。
① 「計算力を10倍増やす」から「1/10の計算量で動かす」へ
DeepSeek(V3/V4)やアリババのQwenシリーズ、Kimi K3などが世界に与えた衝撃は、「米国の1/10以下の計算コストで、同等レベルの知能を実現した」点にある。
• MoE(Mixture of Experts)の極限活用:2.8兆パラメータあっても、1回の処理で作動させるのは数%の専門家(Expert)のみにする。
• メモリ圧縮・量子化(MXFP4など):精度を落とさずにデータを軽量化し、旧式GPUのメモリ上限に収める。
② 「事前学習」から「推論時計算(Test-time Compute)」へ
AIの進化軸が「事前学習でとにかく巨大化させる」段階から、OpenAIのo1/o3やKimiのように「思考時間(推論時)に計算リソースを割り振って解を導く」方向へ移行している。 推論フェーズであれば、最先端のH100/B200がなくても、国産のHuawei Ascend 950PRやH20といったチップを並列化することで十分に対応可能だ。
③ 国産AI半導体の「実用化」の進展
Huawei(ファーウェイ)の「Ascend 950PR / 910C」などの国産AIプロセッサは、NVIDIAの最先端には及ばないものの、すでに「H20の約2.8倍の性能」を出し、ByteDanceやアリババ、テンセントなどの大量受注を受けて急拡大している。 「NVIDIAが買えないから全滅する」のではなく、「自国製エコシステムで実務運用を回す」体制が整いつつある。‥‥というのは、中国側のアナウンスだから、まあ、そのまま信頼するには値しないが。
3. 結論:どのような「引き離され方」になるのか?

結論として、AIレースは「2つの領域に二極化する」可能性が高い。
1. 「純粋な先端フロンティア(AIの極限性能)」分野
◦ 米国の勝ち(格差拡大)
◦ 万能で圧倒的な計算力を必要とする汎用人工知能(AGI)の実験や、超大規模マルチモーダル学習においては、NVIDIAの最先端インフラを持つ米国企業(OpenAI, Google, Meta, Anthropic等)が中国を引き離していく可能性が高い。
2. 「実用・コストパフォーマンス・普及」分野
◦ 中国勢が互角〜リード
◦ アリババ(Qwen)やDeepSeekのように、オープンソース化を武器に「圧倒的に安く、実用的なモデルを社会や企業に配る」領域においては、ハードウェアのハンデを工夫で埋め、グローバルなデファクトスタンダード(標準)を握る戦略が成功している。
「ハードウェアの限界があるため、絶対的な最大計算力では米国から徐々に引き離される」が、中国勢はその負け戦(物量戦)を避け、「省資源でいかにスマートに動かすか」という別の軸で勝負を持ちかけているのが現在の状況といえる。