未だ危険なレガシーシステムを使用している企業の割合と理由は


「2025年の崖」の警告(経済産業省が2018年発表の「DXレポート」で警鐘を鳴らした、日本企業のデジタル化遅滞に伴う危機的警告)を通過した現在(2026年時点)でも、日本のユーザー企業の約6割(大企業に限れば7割以上)が、未だにサポート切れ、またはそれに準ずる危険なレガシーシステムを抱え続けている。

これほどサイバー攻撃のリスクや業務停止の危険性が叫ばれているにもかかわらず、なぜ刷新が進まないのか。その理由は「怠慢」ではなく、技術・経営・組織の3つの構造的な壁によって「動けなくなっている(塩漬け状態)」というのが実態だ。

1. 経営と予算の壁:ROI(投資対効果)が説明できない

システム刷新が進まない最大の理由は、経営会議で稟議を通す際の「説明の難しさ」にありる。

• 「将来のマイナスをゼロにする」投資への忌避
数億〜数十億円をかけてレガシーシステムをクラウドや最新ERPに刷新しても、直接的に売上が増えるわけではない。「いつか起きるかもしれないシステム停止やランサムウェア被害を防ぐ」「保守費が高騰するのを防ぐ」という防衛的な投資であるため、短期的な利益(ROI)を重視する経営陣からは「今動いているなら、あえて巨額のコストとシステム停止リスクを負ってまで触るな」と後回しにされがちだ。

• 「維持費」に予算を食いつぶされる悪循環
古いシステムほど、延長サポート費用、専用ハードウェアの保守費用、古い言語(COBOLやVB6など)を扱える希少なエンジニアの人件費が高騰する。これにより、IT予算の約8割が「現行システムの維持」に消えてしまい、新規刷新に回す予算が捻出できない。

2. 技術の壁:完全なブラックボックス化と「誰も分からない」恐怖

長年にわたって改修を重ねてきたシステムは、中身が誰も触れない「パンドラの箱」と化している。

・仕様書の散逸と多重下請けのツケ
日本企業特有の「SIerへの丸投げ開発」と「度重なる機能追加(カスタマイズ)」の結果、最新の仕様書が存在しない。退職した担当者の頭の中にしか仕様がないため、「この機能をクラウドに移行したら、どの部署のどの業務が止まるか分からない」という恐怖が、刷新プロジェクトを根底から頓挫させる。

・新旧両方が分かるエンジニアの枯渇
刷新には、「古いシステムの仕様(COBOLや古い業務フロー)」を読み解き、「新しいクラウド環境」へ設計し直す高度な人材が必要だ。しかし、古い技術を知るシニア層の退職が進む一方で、新しい技術しか知らない若手エンジニアにはレガシーコードが読解できず、「移行の橋渡しができる人材」が市場から消滅しつつある。

3. 組織の壁:現場の猛烈な抵抗と「Fit to Standard」への拒絶

システムの問題以上に厄介なのが、人間の「慣れ」と組織のサイロ化だ。

・「今のやり方を変えたくない」現場の反発
欧米では、クラウドの標準システムに人間の業務を合わせる(Fit to Standard)のが主流だが、日本企業は現場の細かな要望に合わせてシステムを改造(カスタマイズ)してきた。システムを刷新し、標準的なパッケージソフトなどに移行しようとすると、現場から「画面が変わると仕事が回らない」「この独自のチェック機能がないと困る」という猛烈な抵抗が起き、プロジェクトが座礁する。

・IT部門と現場部門の断絶
多くの場合、システム刷新はIT部門主導で進められるが、実際に業務を行う現場部門とのコミュニケーションが不足しているため、「なぜ今、苦労してまでシステムを変えなければならないのか」という危機感が共有されず、全社的な協力体制が築けない。

このように、単に「お金を出して新しいソフトを買う」という話ではなく、長年蓄積された「技術的負債」と「企業文化の負債」を同時に精算しなければならないため、多くの企業が立ち往生しているのが現状だ。