今回のGMOに対するサイバー攻撃において、熊谷代表名義で出された声明が「AIによる独特の言い回し」や「AI攻撃への責任転嫁」としてネット上で厳しい批判を浴びた。これだけの大企業に優秀な法務・弁護士チームが存在しながら、なぜあのような「悪手」とも言える声明がそのまま公開されたのかについては、組織的・構造的な要因が考えられる。
法務と広報(危機管理)の役割のズレ

弁護士や法務の最優先事項は「法的な責任の最小化とコンプライアンスの遵守」で、今回の声明には「顧客への損失を全額自社負担で補償する」という法的な責任を完遂する旨が明記されていた。法務部門は、この補償方針や捜査機関への協力といった要件が満たされていれば公開を止めない。文章のトーンがAI風であることや、被害の原因を「AIの脅威」に求める論法は「広報・PR上のリスク」であり、法務がストップをかける権限の範囲外であった可能性が高い。
強力なトップダウン体制と創業者の熱量

GMOは熊谷代表の強力なリーダーシップで成長してきたオーナー企業であり、声明には代表個人の「国に能動的サイバー防御(ACD)の適用を求める」という強い主張や思想が前面に反映されていた。一般的に、カリスマ的な創業者が強い危機感を持って自ら起草(あるいはプロンプト入力)したメッセージに対し、社内の広報や外部の顧問弁護士が「世間から反発を買うから書き直すべきだ」と根本的な修正を迫ることは極めて困難だ。
全社的な生成AI推進による「AIへの過信」

同社は「AIで未来を創るNo.1企業グループ」を掲げ、社内での生成AI活用を強力に推進している。危機対応に追われる逼迫した状況下で、AIを用いて迅速に声明を作成すること自体が、同社の企業文化においては「正攻法」だった。その結果、客観的な人間の目による推敲が甘くなり、ハッカー側から「AIは関係なく初歩的なミス(1行消せば直る穴)だ」と痛烈に反論される隙を生んでしまった。
結局、優秀な弁護士がいなかったわけではなく、法務の守備範囲外である「広報的センス」と、創業者の「トップダウンの熱量」、そして同社の「AI重視の企業文化」が複合的に絡み合った結果、世間の感覚とズレた声明が公開されたと言える。