米国とカナダの通商交渉が決裂し、互いに最大50%もの高率関税を掛け合う極めて深刻な貿易摩擦へ発展した。これまでの経緯と今後の見通しは‥‥
1. 交渉決裂に至る背景と経緯
今回の関税発動の直接の引き金となったのは、1930年関税法(スムート・ホーリー法)第338条という約75年間使われていなかった極めて強力な法的権限の行使だ。
① 米国側の不満と関税表明(2026年7月)

トランプ米政権は、カナダによる以下の施策を「米国の商業に対する不当・差別的扱い」と主張した。
• 酒類規制:カナダの主要州(オンタリオ州やケベック州など)が政府系酒類公社を通じて米国産アルコール飲料の販売を禁止・棚引きしたこと(約8割の輸出減)。
• 乳製品・自動車問題:カナダの乳製品関税割当(TRQ)における米国企業への不利益や、自動車関連の関税・投資条件など。
これに対しトランプ大統領は2026年7月20日、相手国が米国製品を不当に差別している場合に最大50%の関税を課すことができる「第338条」を発動する大統領令に署名した。自動車、乳製品、アルコールに関する大統領布告ながら、実際の対象リストにはセメント、家具、化学品、プラスチック、ホッケー防具・スポーツ用品など約200億ドル規模の広範な品目が含まれた。
② 土壇場の延期と交渉の完全決裂(2026年8月19日〜22日)

関税は30日後の8月19日に発効予定でだったが、トランプ大統領は「最終合意が近い」として期限を3日間(8月22日まで)延期し、集中協議を実施した。
しかし、8月21日夜に交渉は破綻。
• カナダ側(マーク・カーニー首相)の主張:
「米国が土壇場で持ち出してきた要求は不当かつ不経済であり、合意の信頼性を損なうものだった」
• 米国側(グリア通商代表部代表)の主張:
「カナダ側が事前に合意していた内容を撤回し、新たな要求を突きつけて全体のバランスを崩した」
双方ともに自動車、鉄鋼、アルミニウム、木材といった基幹産業の保護・優遇条件を譲らず、8月22日午前0時1分をもって米国による50%関税が正式発効した。
2. 現状(双方の報復合戦)

• カナダ側の対抗策:
カーニー首相は即座に交渉中断を表明し、米国による50%関税と同等規模(1ドルに対し1ドル=dollar for dollar)の対抗関税を米産品に課す方針(9月以降順次発動)を発表した。
• 米国の再報復:
米国はカナダの報復に対し、一部のカナダ産品(アルコールや乳製品等)に対する輸入禁止措置や関税対象の差し替え・追加などの対抗策を打ち出し、泥沼の応酬に突入している
3. 今後の影響と見通し
① 北米サプライチェーンの寸断とコスト激増

米国とカナダの経済は自動車や建設資材、製造業を中心に極めて高度に統合されている。
USMCA(米・メキシコ・カナダ協定)の優遇税率すら無視して課される50%関税は、両国の企業にとって深刻なコスト増となり、消費者のインフレや供給網の断絶、雇用の悪化を引き起こす懸念が高まっている。
② USMCA(北米自由貿易協定)の形骸化

2026年はUSMCAの定期見直し・見直し協議の年にあたるが、協定の枠組みを無視した旧法(第338条)による unilateral(一方的)な高率関税の行使は、協定そのものの存続と信頼性を揺るがしている。協定再改定の交渉は極めて困難な局面を迎えている。
③ 法的闘争と国際的展開

数十年間使われていなかった関税法第338条の適用に対しては、米国内の輸入業者や業界団体から違法性や大統領権限の乱用を問う訴訟が提起される可能性が高いほか、WTO(世界貿易機関)などでの紛争解決手続きへ持ち込まれることが予想される。
④ 見通し

米国の「自国産業優先と対外圧力」政策と、カナダ側の「国家主権と産業防衛」という立場が正面から衝突しているため、政治的妥結には相応の時間を要すると見られる。当面は北米間での貿易コスト上昇と企業活動の冷え込みが避けられない状況だ。
カナダは米国への依存度を下げて経済的な打撃を和らげるため、第2の貿易相手国である中国との関係強化に舵を切っている事もあり、トランプ政権としては今後もカナダに対して極めて厳しい対応をするだろう。