マスコミもAIも三峡ダムは土砂を積み上げたダムではなく、自身の巨大な重量で水圧を支える「重力式コンクリートダム」であり、仮に部分的な損傷やオーバーフロー(越流)が生じたとしても、一瞬で壁全体が崩壊して全貯水量が一度に流れ出るような事態は、物理的に発生しにくい構造となっているから、崩壊はあり得ないと言っている。
これに対して、王維洛氏(浙江省出身の水利の技術者)の主張は、本体そのものの折損ではなく、地盤・基盤の侵食や周辺構造物(閘門)の破綻といった「構造の隙間」から生じる現実的な失敗シナリオを突いたものだ。
王氏 の警告を考慮すれば崩壊はあり得るという事になる。
そこで、両者の視点の違いを詳しく整理する。
1.「崩壊はあり得ない」とされる技術的根拠

重力式コンクリートダムは、巨大なコンクリートの塊(重力ブロック)を幾重にも並べ、自重と床面との摩擦力だけで水圧を抑え込む構造だ。
• アースダム(土砂ダム)との違い:土砂でできたダムは、溢水(オーバーフロー)が起きると土砂が削り取られて一気に全崩壊する。しかし、重力式コンクリートダムは水が壁を越えても構造が一瞬で溶けて崩れ去るわけでない。
• 独立したブロック構造:三峡ダムは多数の独立したコンクリートブロックで構成されているため、理論上、ひとつのブロックに亀裂や局所的損傷が生じても、ダム全体が連鎖的に一瞬で全崩壊する可能性は極めて低いとされている。
これが「一瞬で全貯水量が流れ出るような壊れ方はしない」とされる根拠となっている。
2.王維洛氏が指摘する「崩壊があり得る」本当のメカニズム

王氏が最も問題視しているのは、コンクリート壁そのものの強度ではなく、「水がどこから漏れているか」と「基礎となる地盤の健全性」だ。
① 閘門(こうもん)周辺からの漏出と地盤の劣化
三峡ダムには大型船を通すための巨大な5段式船閘(ロックゲート)が山体を削って建設されている。 王氏は、この船閘周辺や接岸部の岩盤から大量の水が漏出・浸透(シーページ)している点に警鐘を鳴らしている。高圧の水が岩盤の隙間に侵入し続けると、地盤の風化や空洞化が進み、ダムを支える山体や側面の岩盤そのものが流出・崩落するリスクが生じる。
② 揚圧力による滑移(スライディング)
重力式ダムの天敵は、底面の隙間に水が入り込んでダムを持ち上げようとする「揚圧力」で、基盤岩盤への漏水処理が不十分だったり、暗渠排水が機能しなくなったりすると、揚圧力が増大してダムの有効自重が減少する。結果として、コンクリートブロックが水圧に耐えかねて地盤の上を滑り出す(滑移破壊)という現象が起こり得る。
③ 施工品質と連続的な破綻
王氏は建設時の突貫工事によるコンクリートの品質不均一(コールドジョイントや微細なひび割れ)も指摘している。地盤の滑走や一部の構造破壊をきっかけに急激な濁流が生じれば、周辺の地盤をさらに削り取り、結果として大規模なコントロール不能な全潰(崩壊)へ至るという見立てだ。
結論:崩壊は「あり得る」のか?

両者の主張を照らし合わせると、以下のように捉えることができる。
• 「本体壁が突然粉々に砕け散る」という意味での崩壊 ➔ 物理的に極めて発生しにくい
• 「地盤侵食や揚圧力、閘門部の破綻によって水圧に耐え切れず滑走・決壊する」という意味での崩壊 ➔ 設計・施工・維持管理に欠陥があれば物理的に起こり得る
王氏の「心構えを持っておく必要がある」という警告は、「コンクリートの強度は万全」という机上の論理に頼りすぎず、地質工学的・構造的な弱点(水漏れや地盤変化)を直視すべきだという警鐘と言える。