カタールからの暫定機1機では、バックアップ機はどうするのか


大統領専用機(エアフォースワン)の運用における鉄則は「全く同じ機体を2機ペア(正・副)で用意する」ことだ。これによって、万が一の故障に対応するだけでなく、「どちらの機体に大統領が乗っているか外から特定させない(欺瞞・カモフラージュ効果)」という強力なセキュリティを担保していた。

しかし、カタールから寄贈された暫定機(VC-25B Bridge)は世界に1機しかない。この状況下で、米空軍が現在どのようにバックアップ機を確保し、運用しているのか、その実態と課題は‥‥

1. 従来の現行機(VC-25A)を「居残り」でバックアップに回す
老朽化や電気系統の不具合が多発している従来のエアフォースワン(VC-25A)だが、暫定機が導入されたからといって完全に退役・解体されたわけではない。

今回の暫定機に何かあった際、あるいはセキュリティ上の重大な懸念が生じた際にいつでも大統領を乗せられるよう、古いVC-25Aをバックアップ機として維持し、近くに待機させる変則的な運用を行っている。 先述の7月上旬のトルコ訪問(NATO首脳会議)の際、往路で暫定機にセキュリティ不安が見つかったため、復路で急遽「従来のエアフォースワン」に乗り換えることができたのも、この古い現行機がバックアップとして随行・待機していたからこそ可能だった技だった。

2.C-32A(ボーイング757ベース)のフル活用
大型の747型機を2機同時に長距離運用することが難しい局面では、米空軍はC-32A要人輸送機をバックアップ機や先遣隊用の機体として頻繁に同行させている。

C-32Aは普段、副大統領(エアフォースツー)や国務長官などの要人が使用する中型機だが、大統領用の通信設備等も備えている。実際に2026年5月にトランプ大統領が中国を訪問した際にも、このC-32Aがエアフォースワンのバックアップ機として随行し、日本の横田基地などを経由して現地入りする運用が確認されている。

バックアップが1機(別機種)になったことによる「致命的な問題点」
機体としての最低限の代替(バックアップ)は上記のように古い機体や別機種で補っているが、防衛専門家からは「これではバックアップの用を成していない」と激しく批判されている。理由は以下の2点で‥‥

• 「欺瞞作戦」が完全に不可能になった:従来の「全く同じ747が2機並んで飛ぶ」状態であれば、敵対勢力やテロリストは大統領がどちらに乗っているか判別できなかった。しかし現在は、新塗装を施された暫定機(747-8)は1機しかないため、「暫定機が飛んでいれば、大統領は間違いなくそこにいる」ということが外から完全に筒抜けになってしまう。

• 性能差による運用の乱れ:バックアップである古いVC-25Aや中型のC-32Aは、新型の暫定機(747-8)と比べて巡航速度や航続距離、着陸できる滑走路の長さが異なる。そのため、2機が足並みを揃えて全く同じルートを飛行することが難しく、万が一飛行中に暫定機からバックアップ機へ緊急に乗り換えるような事態(地上拠点を経由する場合など)を想定した際、作戦立案が非常に複雑化するという脆弱性を抱えている。

このように、現在は「1機しかない新型暫定機」を「だましだまし古い別機種でサポートする」という極めて綱渡りな運用が行われており、これが2028年に正式なVC-25B(こちらはしっかり2機製造中)が納入されるまで米空軍が頭を抱え続ける最大の理由となっている。

以上を図にまとめると