2026年2月28日、米国とイスラエルによる共同空爆によって最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師が急逝(暗殺)したことを受け、イランの権力中枢はかつてない緊張感の中で後継者への移行を行った。
戦時下という極限状態で行われた権力移行のプロセスと、新指導者モジュタバ・ハメネイ氏が直面している前例のない治安リスクは‥‥
🔷異例のスピードで行われた権力移行の舞台裏
通常、イランの最高指導者が死去した場合、88人の聖職者で構成される「専門家会議(Assembly of Experts)」が法的な手続きに則って後継者を選出する。しかし今回は、最高指導者の暗殺と同時に空爆が続く戦時下であったため、以下のような異例のプロセスをたどった。
• 革命防衛隊(IRGC)による主導と超法規的措置:ハメネイ師の急逝直後、イランの軍・治安機関の内部には大きな動揺と混乱が広がった。この事態に対し、実権を握る精鋭部隊「イスラエル革命防衛隊(IRGC)」が、体制の崩壊を防ぐために「即座の後継者任命」を強く要求。爆撃が続く中で正規の手続き通りに専門家会議を招集することが物理的に困難だったため、革命防衛隊の主導による事実上のトップダウンで後継者が絞り込まれた。
• 専門家会議による選出と団結の呼びかけ:その後、混乱が落ち着いた3月に入り、専門家会議の投票によってアリ・ハメネイ師の次男であるモジュタバ・ハメネイ氏(56)が正式に新たな最高指導者として選出された。国営メディアは「圧倒的な賛成票による決定」と発表し、国内の知識人やエリート層に対して、新体制への忠誠と国家の団結を強く呼びかけた。
🔷 新指導者モジュタバ師を巡る「深刻な治安リスク」
モジュタバ師が就任以来、徹底して姿を隠し続けている背景には、極めて現実的かつ物理的な命の危険があるとイラン側は言っているが、実は次の事実が公然の秘密となっている。
・2月28日の空爆による「深刻な負傷」
モジュタバ師は、父親のアリ・ハメネイ師や自身の妻、子供が亡くなった2月28日のテヘランの最高指導者施設への空爆の際、一命は取り留めたものの同じ場所にいて巻き込まれ、重傷を負ったとされている。
複数の欧米メディア(ロイター通信など)や米国のヘグセス国防長官の公式声明によると、彼の容体は以下のように極めて深刻であると伝えられている。
・顔面の著しい醜状(火傷・外傷): 爆撃による激しい火傷と負傷により顔が変形しており、「喋ることすら困難な状態」であるとされている。
下肢の重傷: 片方または両脚に深刻なダメージを負い、これまでに複数回の手術を受け、現在は義足の準備を待っている段階とも報じられている。一部のインテリジェンスでは、一時期意識不明の重体だったという情報もある。
🔷「120日以上の完全な空白」が意味するもの
モジュタバ師は3月8日に新しい最高指導者に就任して以降、今日に至るまで120日以上、写真一枚、映像一秒、あるいは肉声の録音一つすら公開されていない。
国家の最高権力者が交代し、国民や軍の動揺を抑えたいはずの政権が、父親の国葬という最大の政治舞台にすら彼を引っ張り出せなかったのは、「出さなかった」のではなく「姿を見せたら車椅子やベッドに縛り付けられ、顔に包帯を巻いた痛々しい姿(あるいは発話できない状態)が露呈してしまうため、出せなかった」と考えるのが自然だ。実際、彼は同じ空爆で亡くなった「自身の妻」の追悼式にすら出席していない。
🔷なぜ政権は「治安上の理由」と言い張るのか
イラン保健省などは当初、「数針縫っただけの軽傷」と発表していたが、時間の経過とともに「足の怪我」「背中の痛み」「耳の裏のひび」と、徐々に負傷部位の公表を拡大させており、隠蔽が限界に達しつつあることを示唆している。
政権が頑なに「重傷で動けない」と言わず「治安のために隠れている」というストーリーに固執するのは、以下の政治的理由があるからだ。
戦時下における精神的崩壊の防止: カリスマだった前最高指導者を暗殺され、さらに新指導者まで「動けない・喋れない」ほどの致命的な打撃を米イスラエルから受けたと認めることは、国家の敗北と無力を認めることに等しく、軍や国民の士気が完全に崩壊してしまう。
実権を握る革命防衛隊(IRGC)の都合: 現在、意思表示が困難なモジュタバ師に代わり、軍事エリートである革命防衛隊が事実上の国策を決定しているとみられている。「最高指導者は健在だが、安全のために影から命令を出している」という形にしておく方が、彼らにとって都合が良いという側面もあるのだった。