中国はタングステンの輸出規制により自国が輸入するNANDメモリが不足するという状況を招いたが、それ以前に米国の制裁で韓国が輸出できない、という事は無いのだろうか。

結論から言うと、米国による厳しい制裁(輸出規制)は「すでに存在」しており、日韓のメモリメーカーは常にその網の目を潜り抜けるような綱渡りの運用を強いられていた。
ただし、米国が規制しているのは「韓国から中国へのメモリの輸出(販売)」そのものよりも、「中国国内にある韓国企業の工場で、最先端メモリを作らせないための規制」が主戦場となっている。
ここが非常に複雑な構造になっているため、米国の規制内容と、韓国企業が置かれている現状を整理する。
🔷米国が敷いている「2つの規制の網」
米国(商務省)は、中国のAIや軍事技術の発展を阻止するため、主に以下の2つの手段で規制をかけている。
• 網①:製造装置の「中国搬入」規制(最大の急所)
米国は、18nm(ナノメートル)以下のDRAMや、128層以上のNANDフラッシュメモリを製造できる「最先端の半導体製造装置」を中国に輸出することを禁止している。これには米国製の技術や特許が使われている日本やオランダの装置も含まれる。
• 網②:最先端製品(HBMなど)の輸出規制
AIサーバーに必須となる「HBM(高帯域幅メモリ)」などの超最先端メモリや、高性能AIチップそのものを中国へ輸出することを禁止・制限している。
🔷なぜ韓国企業は今も中国でメモリを作れているのか?
実は、サムスン電子はNANDフラッシュメモリの約3〜4割を中国(西安工場)で生産しており、SKハイニックスもDRAMの約4割を中国(無錫工場など)で生産している。
もし米国が完全にこれを即時禁止すれば、世界中のスマートフォンやPCのサプライチェーンが崩壊(大恐慌レベルの混乱)してしまうため、米国は韓国企業に対して「例外措置(特例)」を認めてきた。
しかし、この特例のルールが現在進行形でどんどん厳しくなっている。
• 無期限免除(VEU制度)の廃止と「年次ライセンス制」への移行: 以前は「実績のある優良企業(VEU)」として、韓国企業は比較的自由に装置を中国工場に持ち込めたが、米国政府はこれを厳格化し、1年ごとに個別の許可を更新させる「年次ライセンス(Site License)制度」へ移行した。
• 「維持・管理」はOK、「アップグレード」はNG: 米国が許可しているのは、あくまで「いま中国にある工場を維持し、既存の世代のメモリを現状維持で作ること」だけで、工場を拡張したり、次世代のさらに高性能なメモリを作るための最新装置を導入することは、米国によって厳しくブロックされている。
🔷通常の「NANDメモリ」は制裁対象外(ただし足元は不透明)
スマートフォンやPC、一般のサーバーに使われる「通常のNANDフラッシュメモリ」は、現時点ではいわゆる汎用品(レガシー半導体、または成熟世代)として扱われるため、韓国から中国へ輸出すること自体は米国の直接的な制裁対象にはなっていない。中国のIT企業(レノボやシャオミなど)は、これらを使って製品を組み立てている。
しかし、前述の通り「中国の工場で最先端のメモリへのアップデートができない」という足枷をはめられているため、サムスンやSKハイニックスは、最先端メモリの製造ラインをどんどん韓国国内(平沢や龍仁のギガファブ)にシフトさせている。
まとめ
米国からの制裁や圧力は間違いなく存在する。 韓国企業は、「汎用メモリは中国で売り続けるが、中国の工場はこれ以上進化させられない。最先端メモリ(AI向けなど)は韓国国内で作り、中国には渡さない」という、米国の顔色を窺いながらの極めてタイトな二面作戦をとっているのが実態だ。