日本の自動車メーカー、タイからの撤退状況と理由は

タイの自動車産業において、長年「アジアのデトロイト」の主役として市場を牽引してきた日本メーカーの「生産撤退」や「工場閉鎖」の動きが相次いでいいる。

現在の具体的な撤退状況と、その背景にある複合的な理由は‥‥


🔷日本メーカーの主な撤退・工場閉鎖の状況
直近で発表・実施されている主な動きは以下の通りで、完全な「タイ市場からのブランド撤退」ではなく、「タイ現地での生産(四輪車工場)の終了」が中心となる。今後は日本や他国(インドやアセアン他地域)からの完成車輸入・販売へと切り替えるケースが目立つ事になる。

• スバル(富士重工業)
◦ 状況: 2024年末までに現地合弁工場での生産を終了。
◦ 体制: 日本からの完成車輸入による販売へ移行。

• スズキ
◦ 状況: 2025年末までに四輪車工場を閉鎖することを発表。
◦ 体制: 工場閉鎖後は、日本やインド、アセアン域内の他工場から完成車を輸入して販売・アフターサービスを継続。

• 日産自動車
◦ 状況: 2025年2月に発表された大規模な世界構造改革の一環として、タイの工場(第1工場を含む)の閉鎖・再編へ。
◦ 体制: 固定費削減と生産能力の適正化を目的とした大幅な縮小。

※なお、市場シェアの大部分を握るトヨタやホンダは、ハイブリッド車(HEV)を中心にタイでの生産体制を維持・強化しつつ、現地のニーズ変化に対応する戦略をとっている。

🔷現地生産を縮小・撤退する「4つの主な理由」
日本メーカーがタイでの生産見直しを迫られている背景には、タイ国内の経済状況と、中国勢によるEVシフトという内憂外患の構造がある。

① タイ国内の「深刻な自動車内需の不振」
かつて年間100万台規模を誇ったタイの国内新車販売市場だが、2024年〜2025年にかけて大幅に縮小(60万台前後まで減少の懸念)している。 最大の原因は「家計債務(借金)の上昇」で、タイ国民のローン負担が限界に達したことで、金融機関が自動車ローンの審査を極端に厳格化した。これにより、「買いたくてもローンが通らず買えない」という状況が続き、内需が急速に冷え込んでいる。

② 中国系EV(電気自動車)メーカーの急台頭
タイ政府が打ち出した積極的なEV振興策(補助金や税制優遇)に乗り、BYDをはじめとする中国のEVメーカーが低価格を武器に急速にシェアを拡大した。 さらに、中国からのEV輸入には関税がかからない仕組み(FTA)や、内燃機関(ガソリン車)への高い物品税が有利に働き、日本車が強みを持っていたミドル〜ロアクラスのガソリン車・コンパクトカー市場が大きく侵食された。

③ 生産能力の過剰と「輸出拠点」としての地盤沈下
タイはもともと国内販売だけでなく、周辺国への「輸出拠点」として大規模な生産能力(キャパシティ)を備えていました。しかし、周辺国(インドネシアやベトナムなど)でも現地生産化が進んだこと、またタイ国内市場の縮小が重なったことで、工場を維持するための生産効率(稼働率)が著しく低下した。特に中堅規模のメーカーにとっては、現地で工場を維持するメリットよりも、固定費の赤字リスクの方が大きくなってしまったす。

④ 「選択と集中」による世界戦略の見直し
日産のスリム化に見られるように、自動車業界全体が次世代技術(電動化やソフトウエア)の開発に巨額の投資を必要としている。限られた経営資源をどこに投入すべきかと考えた際、サプライチェーンの維持費が高いわりに市場が縮小しているタイでの現地生産に見切りをつけ、開発・生産拠点を「日本、インド、あるいは次なる成長市場」へと集約する動きが強まっている。

要約すると:
タイ経済の低迷による「歴史的な自動車売れ行き不振」に、「中国製EVの急激な流入」が直撃し、現地で工場を維持するコストが見合わなくなった中堅・下位メーカーから順に、生産拠点の閉鎖・再編(輸入販売への切り替え)を進めている、というのが現在の構図だ。