AI重電・インフラで中国メーカーシェア拡大に対して、米国も当然、このインフラ不足がAI覇権争いおよび国家安全保障の致命的なボトルネックであると強烈な危機感を抱いており、2026年現在、国家を挙げた強硬な打開策に乗り出している。
その動きは、「大統領令による力技」「ビッグテックの富の力」「同盟国との連携」という3つのレイヤーで急速に進んでいる。
1.【政府の動き】国防生産法(DPA)の発動と巨額補助金
米国政府は、電力インフラの不足を「市場の原理に任せておけない国家の非常事態」と捉えている。
• 国防生産法(DPA)の発動: 米国政府は「国家エネルギー非常事態」を宣言し、国防生産法(DPA:Defense Production Act)を適用した。これにより、変圧器や高電圧送電コンポーネント、配電設備などのサプライチェーンを「国防に直結する重要物資」に指定し、政府主導で国内製造を強制的に加速・支援する法的枠組みを整えた。
• 「バイ・アメリカン(米国製品購入)」の義務化: 連邦政府のインフラ投資資金(インフラ投資・雇用法など)を受け取るプロジェクトに対し、鉄鋼やグリッド機器の国内生産を義務付けた。これにより、中国製への依存を断ち切り、米国内への工場回帰(リニアショアリング)を促している。
• 重電メーカーの米国大増産: この国策に応じる形で、Eaton(米)だけでなく、Siemens Energy(独)がノースカロライナ州に変圧器の巨大工場を新設(2027年稼働予定)するなど、世界中の重電大手が米国内への巨額の工場投資を行っている。

2.【テック企業の動き】「自前の発電所」と「グリッド(送電網)のバイパス」
政府のインフラ整備(4〜8年)を待っていられないビッグテック(Microsoft、Amazon、Googleなど)は、自らの圧倒的な資金力で既存の電力インフラを「迂回(バイパス)」する戦略をとっている。
• データセンターの「発電所直結」: 送電網(グリッド)に繋ぐのが遅いなら、発電所のすぐ隣にデータセンターを建てて直接電気を引っ張る「PPA(電力購買契約)」を進めている。特に既存の原子力発電所や、次世代小型原子炉(SMR)の開発企業と直接契約を結ぶ動きが2025〜2026年で完全に主流化した。
• グリッド・インテリジェンス(AIによる電力最適化): ビッグテック自らが電力会社と組み、AIを使って「既存の送電網のどこに余剰電力があるか」をリアルタイムで解析し、無駄なくデータセンターへ融通するソフトウェア技術の開発・導入を急いでいる。
3.【同盟国との連携】「中国外し」のサプライチェーン構築
米国は、自国だけで変圧器や電磁鋼板の不足を今すぐ埋めることは不可能なため、日本や韓国などの「信頼できる同盟国(フレンドショアリング)」への依存と連携を強めている。
• 日韓の重電・インフラ企業へのアプローチ: 米国の電力会社やビッグテックは、日本の日立製作所(Hitachi Energy)や富士電機、韓国のLS Electricなどに対し、数十億ドル規模の超大型契約を提示して製造ラインの最優先確保に走っている。
• 日本の技術への期待: 日本が持つ高い変電・送電ロス削減技術や、電線・ケーブルの耐久性、データセンターをコンパクトに冷やす空調技術(ダイキンなど)は、米国の「限られた電力枠でAIを最大効率で動かす」という目的に合致しているため、日米間でのインフラ同盟が事実上強化されている。
構造改革の課題:それでも残る「時間の壁」
米国は法律、資金、同盟国のすべてを動員して「中国依存からの脱却」と「国内インフラの爆発的拡大」を進めている。
しかし、半導体(シリコン)の製造ラインと違い、大型変圧器や送電網の敷設は「大量の銅、特殊な鋼鉄、そして物理的な土地の工事」が必要なアナログな世界で、いくらお金を積んでも工場の建屋やインフラ網の物理的完成には「年単位の時間」がかかるため、米国がこのボトルネックを完全にクリアし、中国を圧倒できるようになるには、2020年代後半(2027〜2029年頃)まで泥臭い持久戦が続くとみられているのだった。