イランがホルムズ海峡封鎖を行ったにも関らず、原油価格は変わらず





イランによるホルムズ海峡封鎖という極めて深刻な事態にもかかわらず、原油価格が3月以降バレル100ドル前後(危機前の約60ドルから倍増した水準)で「高止まり」しつつも、さらなる暴騰を抑えられているのには、複数の市場調整メカニズムと政治的介入が働いているためだ。

1.供給面での緊急対策(戦略備蓄の放出)
国際エネルギー機関(IEA)や米国による大規模な供給支援が価格を抑制している。

• 備蓄放出:米国を中心に、合計4億バレル規模の緊急石油備蓄が市場に放出された。これにより、封鎖による物理的な不足分を一時的に補っている。

• 米国内輸送の規制緩和:トランプ政権が「ジョーンズ法(米国内航路の外国船規制)」を60日間一時停止したことで、米国産原油の流通効率が向上した。

2.逆封鎖」と代替ルートの活用
• エピック・フューリー作戦の影響:米海軍によるイランへの「逆封鎖」により、市場はイラン側の封鎖能力が低下したと判断している。

また、サウジアラビアやUAEがホルムズ海峡を回避する迂回パイプラインをフル稼働させていることも、供給途絶リスクを緩和している。

• ロシア産原油の制裁緩和:米国がロシア産原油の購入制限を一時的に緩めたことで、供給源の多角化が進んだ。

3.デマンド・デストラクション(需要の減退)
100ドル超え」という価格そのものが、世界的な景気後退懸念を呼び、需要を抑制している。

• 経済活動の停滞:世界約40カ国でエネルギー非常事態が宣言されており、途上国での消費低迷や、先進国での省エネ・代替エネルギーへのシフト(需要の破壊)が急速に進んでいる。これが価格の天井を抑える要因となっている。

4.停戦交渉による心理的緩和
4月中旬以降、価格が一時的に90ドルを下回る場面もあった。

• 一時的な開放:4月17日にイラン外相が「停戦期間中の海峡完全開放」を宣言したことで、最悪のシナリオ(長期完全封鎖)への懸念が和らいだ。

• 外交交渉の進展期待:トランプ政権が検討している「エピック・パッセージ」への移行が、大規模戦闘から「海上警察活動」へのフェーズ変化と捉えられ、市場に「極端な供給不安」から「管理された緊張」へと認識を変えさせている。

現在の状況(2026年5月初旬)
現在の価格水準(100ドル前後)は、危機前の約2倍という非常に高い水準ではあるが、「物理的な不足分を備蓄で補い、外交交渉の進展を市場が凝視している」という、極めて危うい均衡状態にあると言える。