VOLVO S60 DRIVe & T6 SE (2011/4) 中編


最初に4気筒1.6LターボのDRIVeから乗ってみる。ダッシュボード中央、ディスプレイの右側にあるキーホールに電子キーを挿し込んで、その上にあるスタートボタンを押すとエンジンはスタートする。このスタートボタンは世間一般で使われる丸型ではなく、小さな長方形を採用している(写真21)。勿論、フートブレーキを踏みながらというのは言うまでもない。なお、インテリジェントキーによるプッシュスタートの場合、例えキーホールがあっても電子キーは所持するだけで作動するのが普通だが、S60は必ずキーを挿入しないと始動できない。パーキングブレーキはダッシュボード右端のライトスイッチの下に電気式のスイッチがあり、これを押すとオン、引くとリリースされる(写真22)。

センターコンソール上にあるATセレクターのパターンはP→R→N→D、そしてDから左でマニュアルモードとなる極一般的な左ハンドル用をそのまま流用したティプトロタイプだ(写真24)。 セレクターをDに入れて、ブレーキペダルを放すとDCTとはいえ極わずかにクリープするから、そこで少しスロットルペダルを踏むと、クルマは結構強力に推し進められる。 裏道をグルッと回って信号待ちから4車線国道の本線に出て2/3程スロットルを踏むと、ターボ過給とはいえ1.6Lとは思えない強力な加速をする。この新型1.6L 4気筒エンジンはよく言えばスポーティー、悪く言えばちょっと煩い傾向があり、1,500rpm程度の巡航でさえある程度エンジンの存在を主張したがるし、踏み込めばメカニカルノイズや過給器のタービンノイズと思わしき音が結構響き 渡る。

その後、信号の手前で少しの渋滞に巻き込まれたが、前車が発進して前が空いたために車間距離を詰めようと発進時にチョッと多めにスロットルを踏むと、一瞬遅れてから急に飛び出す傾向がある。要するにターボラグが大きいタイプで、言ってみれば時代遅れのターボ丸出しでもある。とは言っても絶対的な排気量が小さいから、ドッカンターボといっても大したことはないが、慣れるまでは中々スムースに走れない。
 


写真21
エンジンの始動はキースロット(黄色↑)に電子キーを挿入し、上にある四角いスタートボタンを押す。


写真23-1
速度計の目盛は140km/h以上では30km/h毎になる。260km/hと7,000rpmのフルスケールはハッタリ気味。


写真23-2
T6のメーターは目盛までシルバーのメタルとなり、高級感に差をつけている。ただし、フルスケールは共通だから、内部のパーツは全く同じだろう。
 

 


写真 22
写真の下端にあるのがパーキングブレーキスイッチで、押してオン、引いてリリースとなる。
 

 
 


写真 24
V70、XC60等の最近のボルボ各車と共通なATセレクター。
DCT方式のDRIVeもトルコン式のT6もセレクターの概観は全く同じ。

 

渋滞を抜けて、地方道とはいえ4車線で流れの速い道路を巡航する時に、前車が左折して前が 空いた後の加速では、これだけあれば一般的には充分と思えるほどの強力なトルクを感じるし、60km/hの 法定速度を無視して40km/hで走る家族連れのワゴンRを右に車線変更して一気に抜き去る時にも、エンジン音の勇ましさを気にしなければ、加速自体は充分だった。 この加速感は他車で言えば、BMW320iよりも上で、523iと同等くらいだろうか。勿論、523iのようにスムースではないが、それでも5,000rpmくらいまではキッチリと回っていた。 後ほどトルク特性を調べたらば、最大トルク24.5kg・m という2.5L並みのトルクを1,600〜5,000rpmという幅広い回転域で発生することが判明し、成る程523iと同等の動力性能が納得できた(写真25-1 添付図) 。

1.6TのミッションはDCTタイプで、前述のように僅かなクリープもあるし変速のショックも少なく、注意していなければトルコンATとの差はわからないくらいだ。マニュアル操作はコンソール上のセレクターを左に倒してMモードとして、レバーを押してアップ、引いてダウンという国産車の多くと同じ パターンで、現行のBMWとは逆となっている。 また、ステアリングホイールにパドルなどのマニュアルスイッチは無いが、ボルボというクルマの性格とオーナーのタイプを考えれば、これで充分なのだろう。実際にマニュアル操作を行ってみたが、DCTだからといって特別にレスポンスが良いという程ではなく、出来の良いトルコン程度だった。

操舵力は軽すぎず、重すぎずで適度だし中心付近の不感帯も少なく、どちらかといえばクイックな部類に属する。そして、クルマ自体のレスポンスも悪くない。1.6Tはフロント駆動(FF)だが、アンダーステアは弱く てコーナーリング能力は結構高く、最近の出来の良い他社のFFと同等レベルの旋回特性で、数年前までのボルボでは考えられないくらいに進歩している。 まあ、そうは言っても、このクルマの性格からすればコーナーリングを楽しむという使い方はしないだろうから、この特性は安全マージンだと思えば良い。乗り心地はしなやかで路面からの突き上げも少なく、それでいて安定性も充分だから 、これはかなりの好評価を与えられる。

最近のボルボのブレーキは、BMWと同じメーカーのキャリパーを使用しているから、効きも充分に良い。ただし、パッド自体の特性はBMWとは違うようで、BMWのような足を乗せただけでガツンと効くのではなく、もう少しマイルドだが、普通に使うには充分の性能を備えている し、BMWの軽すぎるブレーキに違和感があるというユーザーにはむしろ好ましい特性でもある。
 

写真 25-1
直列4気筒DOHC 1,595ccターボで
180ps/5,700rpm 24.5kg・m/1,600〜5,000rpmを発生する、
DRIVe用の新型B4164型エンジン。

写真25-2
直列6気筒DOHC 2,953ccターボで
304ps/5,200rpm 44.9kg・m/2,100〜4,200rpmを発生する、
T6用のお馴染みB6304型エンジン。

次に3.0LターボのT6に乗ってみる。乗り込むためにドアを開ければ、そこに見える光景は1.6LターボのDRIVeと全く同じ。いや、本来はDRIVeの場合ファブリックシートなのだが、オプションでレザーシートを選んでいるので、シートのみならずドアのインナートリムもレザー仕上げだから、目で見た限りでは両モデルの相違点は全く無い。勿論、始動方法もパーキングブレーキ の解除も同様だ。 DRIVeがミッションにDCTタイプを使用しているのに対してT6はトルコン式を使用しているが、ATセレクターは少なくとも概観上は両車とも全く同じものを使用している。

3.0Tは1.6TのようにDCTではなくオーソドックスなトルコン式ATを使用しているが、ブレーキペダルを放した時の僅かなクリープのフィーリングは全く変わらない。1.6Tと同様に4車線国道に出て2/3程スロットルを踏んでみたら、多少のターボラグの後に強烈な加速が始まった。 元々ボルボのT6というのは、ボルボにしては結構ホットなモデルであったから当然といえば当然だし、車両重量が1,770kgに対してエンジンパワーは304psもあるから、パワーウェイトレシオは5.8kg/psという値で、これはBMW335i(1,610kg、306ps)の5.3kg/psに迫る数値だ。 ただし、335iがターボらしさの無い自然な特性であるのに対して、T6の場合はレスポンスは良くないし、過給が始まると行き成りトルクが盛り上がる、言ってみれば時代遅れのドッカンターボ的なフィーリングがある。
実際に特性を見てみると、1.6Tの幅広いフラットなトルク特性に比べて、T6の場合は2,000rpm以下では急激にトルクが下降している(写真25-2 添付図)。まあ、これはこれで、好きなユーザーもいるだろう。 そんな、特性だから1.6Tとは全く別世界となり、走り出した直後から一クラス上の重厚感と余裕がある。この旧時代的なターボの特性は、例えば交差点をゆっくりと左折して横断歩道を通過たところで、ステアリングを戻しながら適度に加速をしようとすると、直ぐには反応しないので、ついついスロットルを余計に踏んでしまうと、そのタイミングで過給が始まり、行き成りドカンと加速しそうになり、結果としてピョンと飛び出す事になる のは1.6Tと同様だが、何しろ圧倒的にトルクがあるから結構焦る。

操舵力は1.6Tと同様に重過ぎず軽すぎず丁度良いくらいで、ひ弱な女性でも重過ぎることもなく、大柄な男性でも軽すぎるとは思わないだろうから、一家に一台のファミリーカーで夫婦が共用で乗っている場合などでも、大きな問題は出ないだろう。えっ、ダンナの奥さんはひ弱どころかダンナよりもパワーがある、って、まあそういう家庭もあるようで・・・。
T6は1.6TのFFに対してAWD(4WD)を使用している。しかし、コーナーリングのフィーリングは1.6Tと殆ど変わらなかった。勿論、エンジンの重さからくる重量配分の違いや、車両重量自体の違いもあるから全く同じではないが、少なくとも4WD独特のアンダーステアは感じられず、出来の良いFF的なものだった。そこで後ほど、T6の4WDシステムを調べてみたらばバルデックス社の電子制御駆動配分ユニットを使用しているということだった。 このシステム、言ってみればスタンバイ4WDだから通常は只のFFの訳で、成る程、操舵フィーリングがFF的なのは当然だった。なお、バルテックス社の4WDユニットはハードコーナーリングで限界に達したときに、コントロールが出来なくなるという問題が指摘されているが、勿論今回jはそんなハードなコーナーリングは行わなかったから定かではない。

T6での走行で、一番最初に感じるのは異様に硬い乗り心地だった。路面からの振動は常にゴツゴツと拾い、ボディ全体が振動するという、言ってみればシビックタイプR並みの乗り心地だった。タイプRは、その手の好きなマニア向けだから良いとしても、T6の場合は普通のファミリー用途が本来だから、これはいただけない。 ところで、カタログには3段階に切り替えられる”3ドライビングモード選択式” FOUR−Cアクティブパフォーマンシャーシーにより、COMFORT/SPORT/ADVANCEに切り替えられると書いてある。しかし、試乗車にはそんな切り替えスイッチは存在し なかったので、よくよくカタログの設定表をみらた、このシステムはオプションだった。それで価格を調べてみたが、価格表には載っていない。もしかして、日本向けには未だ準備中なのだろうか?


写真26
グリルに仕込まれたレーダーセンサーは前方150mまでの範囲で前車との距離をモニターする。
 

 

 


写真27
オプションのセーフティーパッケージ(25万円)用のセンサー(デュアルモードレーダー)およびカメラ。

 


写真30-1
1.6TのDRIVeは7.0J×16ホイールと215/55R16タイヤが標準装備される。
 

 


写真 30-2
3.0TのT6 SEは写真の8.0J×17ホイールと235/45R17タイヤが標準装備される。なお、T6 R-DESIGNは8.0J×18ホイールと235/40R18が標準となる。
 

 


写真31-1
1.6TのキャリパーはBMW320iなどと同等のものが付いている。
 

 


写真31-2
3.0Tのフロントキャリパーは1.6よりも明らかに大きなサイズで、BMW5シリーズに近い。
 

 

S60は「安全のボルボ」として面目回復のため、先進の安全装備が装着されている。そこで充実した安全装備についての紹介もしてみうよう。と、いう ところで、この続きは後編にて。  

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