Porsche Panamera S (2009/11) 後編 ⇒前編

        

クルマに乗り込み、エンジンをかけ、各部の操作確認も終わった頃に突然エンジンが停止した。んっ?一体何が起こったのかと焦ったがアイドリングストップ機能が働いたようだ。 この機能については改めて説明するが、一言で言えばマツダアクセラと同様に信号待ちなどの停車時にエンジンが停止する機能で、パナメーラにも標準で装着されている。 ところでパーキングブレーキは何処か探したらダッシュボード右端の下にレバースイッチがあり、これを押すとOFFで引くONとなる。う〜ん、これじゃサイドターンが出来ないじゃないか・・・・なんて下品な事を考えるようなクルマではない。 またパナメーラーは走行モードがノーマルとスポーツの切り替えが出来るが、最初はノーマルモードで走ってみる。まずはアクセルを少し踏むとチョッと下手な半クラ ッチのように結構クラッチをスリップさせながら発進する。 少なくとも名人のアイドリングスタートのように最小限の半クラッチで発進するという訳ではない。ただし、ノーマルモードのときは発進時にはディスプレイの数字が2を指しているからセカンド発進をしている事になり、成る程これなら名人でも多少の半クラ ッチでスリップさせることは必要かもしれない。
V8 4.8ℓの強大なトルクはノーマルモードでの走行でも充分なトルクを感じられる。しかし一般道で先行する車が徐行しながら左折して目の前が開けたら先行車は遥か彼方、なんていう場合にアクセルを強く踏んでキックダウンを誘発するが、 このモードでは多少のタイムラグがある。 またスロットルレスポンスも良くないから、活発に走るドライバーは苛つくこともあるだろう。最近のクルマは国産車でも走行モードスイッチを持つものが多いし、これらの殆どがノーマルモードではトロくて使い物にならないが、パナメーラも同様 でノーマルモードだけの試乗をしたならば、所詮はサルーンだとの判断になるだろう。 そこでスポーツモードに切り替えてみると、これこそポルシェのサルーンだと言うくらいに豹変する。まずシフトポイントが高めとなるが、それでもカレラ等と比べると大人しいようで、例えばカレラのスポーツモードは巡航時でも3,000rpm前後を維持するが、パナメーラーの場合は2,500rpm くらいを主に使用する。 D(オートマ)モードで巡航中のキックダウンもノーマルモードで気になった遅れも殆どなくなり、これなら常時Sモードに入れっぱなしというのもありかと思うほどだ。 
このパナメーラSのエンジンは基本的にカイエンSと同一だ。それにしてはカイエンSは動力性能がイマイチ物足りなかったが・・・・・。という訳で車両重量を調べてみればカイエンSは何と2,350kgだからパワーウェイトレシオは6.1kg/psで、これに対してパナメーラSは1,880kgで4.7kg/psとなり、大きく異なっていた。やはりクルマの重量は軽いに限る。

次にSモードで信号待ちでの停車状態から青信号でのフル加速を試みてみる。信号待ちでふと気が付いたのが、エンジンがアイドリングをしていることだ。あれっ?アイドリングストップはどうなったのかと思ったが、どうもSモードのときはアイドリングストップはキャンセルされるようだ。 さて、信号が青になって一瞬してからスロットルベダルをいっぱいに踏みつけると、一瞬後にエンジンがふけ上がり多少のクラッチスリップと共にクルマは勢い良く発進する。この時後方からキュッという2 85タイヤ(オプション)のスキール音が一瞬聞こえてから猛烈な勢いで加速していく。 そして1速はあっという間にレッドゾーン手前に向かい、ここで2速にシフトアップ。このシフトアップは一瞬で事が終わるし、振動なども殆ど感じない。そして2速でも強烈な加速を続けるが、何しろ発進してから5.4秒で100km/hに達するのだから、一般道である程度の常識を踏まえれば2速の途中で加速は終了となる。 しかしこの数値はカレラSの4.5秒はもとより、カレラの4.7秒よりも0.7秒遅いことになり、ケイマンの5.7秒に近いのだが、 バカデカいサルーンが強烈な加速をすることからか、体感上はもっと速く感じる。
パナメーラのエンジン音は高級乗用車としては結構車内に侵入するが、これはどう考えてもドライバーにエンジンの存在を認識させるための演出だろう。特にフル加速時には適度な排気音とメカ音が車内の乗員にハッキリと聞こえるし、一定速度での巡航でもエンジン音は聞こえるから、高級車=無音という考えだと腹を立てる結果となる。 そして、その音はといえばV8らしくビートの効いたスポーツカー的な排気音と、ポルシェらしくメカメカしいバルブ音も聞こえるから、1500万円の高級車の常識とはかけ離れている。しかし、そのフィーリングはポルシェカレラのオーナーならば殆ど違和感がない、というよりもカレラよりは乗用車っぽいと思うだろうし、 レクサスLSのオーナーならなんじゃ、これは!?と驚くし、BMW7シリーズオーナーでも違和感を感じるかもしれない。
 


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5連メーターはカレラと異なり中央寄り右はディスプレイ専用となる。中央の大径メーターが回転計というサルーンも珍しい。写真下側はスポーツモード(左)とノーマルモード(右)。スポーツを選ぶとアイドリングストップはキャンセルされる。

 

写真 23
セレクター(シフトレバー)はカレラ等、他のPDK搭載車と同じだが、その周辺にあらゆるスイッチを集めたデザインは新しい。しかし、走行中にこの中から目的のスイッチを見つけるのは難しい。


写真 24
ペダルは標準でスポーツカーのようなアルミペダルとなる。

 


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PDKのマニュアルシフト用ステアリングスイッチ。カレラやケイマン/ボクスターと同じ。

 


写真26
ダッシュボード右端のライトスイッチも他のポルシェと同じ位置に同じ形状だから、ポルシェオーナーなら何の心配も要らない。

 


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電気式のパーキングレバースイッチ(黄色↑)。引いてオン、押してオフ。

 


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フロントは補助ピラーによって三角窓が出来、視界を確保している。

 


写真27
カレラ等と比べて高い着座位置は前方視界が良好で、全幅1,930mmの割には運転し易い。

 

最初にノーマルモードで走り始めた時点での第一印象は、多少ダルいステアリングから所詮はサルーンだと思ったのだが、10分ほどの走行後にスポーツモードに切り替えたときは、その豹変ぶりに驚くと共に、これぞポルシェのサルーンだと納得ができた。 ノーマルモードでは中心付近が緩くてレスポンスがイマイチだったのがスポーツモードではシャキッとして、路面からのインフォメーションも大幅に増えた。スポーツモードならば07年以前のフェイズ1と呼ばれる911系、すなわちボクスター/ケイマンをピュアスポーツカーに見立てて、 それに対して911系はグランドツーリングカーという位置づけだったカレラなどに近いフィーリングだ。もっとも、09のMCによるフェイズ2のカレラ(特にカレラS)のシビアなステアリングには及ばないが。
約30分ほどの試乗でクルマにも大分慣れたところで、何時もポルシェのハンドリングを試しているワインディング路に到着した。ここは中速コーナーが連続していて道幅も結構広く、おまけに見通しも良いという中々お気に入りのコースだ。 モードスイッチはSportでPDKはマニュアルモードにして発進。例の使い辛いステアリングスイッチで3速を維持して最初のコーナーをクリアしてみると、パナメーラの旋回特性がサルーンとしては飛びぬけて素直で安定している事に気づく。 常識的な感覚の速度では全く平和そのもので、その扱い良さは2ヶ月ほど前に同じコースを走ったフェイズ2(09)カレラSよりも明らかに勝っている。そして、ステアリング特性がカレラS程にはシビアでないのが逆に扱い易いことにも繋がっている。 BMW7シリーズも大型サルーンとしては驚異的なハンドリングで、あのデッカイ図体のサルーンがヒラヒラと舞うのに驚愕したものだが、パナメーラは7シリーズより も更に上手だった。 これはX-5が背の高いSUVの常識を覆す驚異的な旋回特性を持つ事に驚いて正に別格と思っていたら、ある日カイエンSに乗った瞬間にX−5より も上手なことに、これまた驚いたのと状況が同じだった。

最初のコーナーで関心したので、次からは少し速度を上げてクリアしてみたが、その安定性は全く変わらない。カレラでもボクスターでも、コーナーの先で何が起こるか判らない一般公道でコーナーを試すときは、速度に十分なマージンととるのは当然だし、そうなると、実はミッションはマニュアルでも常に3速に入れっぱなしで事が足りたりする。 まあ、使っても2と3を往復させる程度だろう。そういう面ではパナメーラの場合は3速入れっぱなしというよりも4速で乗り切ることも出来る。なぜなら、2,000rpmも回せば充分なトルクを稼げるからで、例えばボクスター/ケイマンの2.7ℓなどで4速2,000rpmでコーナーを回ったら、脱出時にトルクを掛けようにもトルク不足 となってしまう。 これは3.8ℓのカレラSでも同様の傾向があり、2,000rpmのコーナーリングなんて折角のクルマに対して宝の持ち腐れとなる・・・・というのは個人的な意見だが。 話をパナメーラーに戻して、今度は3速でコーナーの頂点少し手前くらいから僅かにスロットルを空ける積りでペダルを少し踏んだが、意外にも反応が殆ど無い。と 感じて反射的に更に少し踏み込んでしまったと同時にトルクが立ち上がって、予定より少しトルクを掛けてしまった。要するにV8 4.8ℓのレスポンスはフラット6 3.8ℓのレスポンスに比べて 多少の遅れがあるということだ。 だからといって決してパナメーラのエンジンが鈍感な訳ではないし、遅れといっても恐らく0.2秒以下なのだが、ポルシェというブランドと実際のコーナーリング能力の高さから、ついつい 世界でも希な右足直結のスポーツエンジンと同次元で考えたのが間違いだった。それで、トルクを掛けすぎた時の挙動はと言えば、クルマは一瞬コーナーの内側へ向かいたがる素振りを見せかけたが、スポーツモードで充分にクイックで正確なステアリングのお陰で 簡単に修正できたし、決して冷や汗が出ることはなかった。逆に、このクルマを買って多少の鍛錬をすれば、この巨体を縦横無尽に操れるのだろうが、まさかそんなユーザーは居ないだろう??いや、いるかな。
 

写真28
V8、4.8ℓのエンジンは基本的にカイエンSと共通で400ps/6,500rpmの最高出力と51.0kg・m/5,000rpmの最大トルクを発生する。

考えてみれば特性から見ても車体の後端にエンジンをぶら下げた911系は勿論、ドライバーの真後ろにエンジンを積んだボクスター/ケイマンでも、独特の癖と速く走るための特殊なテクニックがある程度必要となるが、オーソドックスな FRのパナメーラが素直なのは当然かもしれない。 それにポルシェ自体は944や928などでフロントエンジンの経験は充分にあるのだから、初めからここまで完成された特性を持っていても驚くにはあたらない 。

ブレーキは軽い踏力で良く効くから、カレラやケイマンとはフィーリングが異なり、他の輸入サルーン的だ。といってもBMW程には軽くもないし喰い付き感も無く、寧ろ最近の日本車が採用している国産のハイμ(高摩擦係数)パッドみたいなフィーリーリングだから、この点においては国産車ユーザーでも違和感がない。いくらスポーティーといっても4ドアのビッグセダンだから、カレラのような重くてガチガチのブレーキは不似合いだ し、パナメーラの用途からして確かに少し踏力が軽めのブレーキは合っている。

ところで、踏力が軽いという事は

@ キャリパーのピストン径が大きいかディスクローターの有効径が大きいために、同じ圧力でも制動力が大きい。
A マスターシリンダーの径が大きいかサーボのアシストが強力で、同じ力でペダルを踏んでもキャリパーに送る圧力が高い。
B ブレーキパッドの摩擦係数(μ)が大きいために同じ力でディスクローターを押しても、結果的に発生する制動力が大きい。

のどれかとなる。パナメーラの場合は判らないが、まずフロントホイールを覗いてみると、そこには巨大な6ポットオポーズドキャリパーが見えるし、18インチホイール 満杯にディスクローターが入っているから、@の効果が大きいことは間違いない。 そして、パッドについてはカレラやケイマンはスポーツパッドというか、セミレーシングというか、とに角高速特性や耐フェード性を重視したようで、パッドのμは低目となっている。 パナメーラの場合は、同じポルシェでもサーキットのスポーツ走行などは考えられないから、より乗用車的なμの高いパッドを使った可能性はある。
 


写真29
試乗車はオプションのターボホイール装着のためフロント255/45ZR19、リアは285/40ZR19タイヤとなる。
標準タイヤのサイズはフロント245/50ZR18、リアは275/45ZR18。

 


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ブレーキキャリパーは フロント6ポット、リア4ポットの対向ピストンが装着されている。リアエンジンのカレラに比べてフロント軸重が大きいため、フロントキャリパーも馬鹿デカい。

 

動力性能のみならば最近はパナメーラ並みの高級車も存在するが、ハンドリングは勿論のことクルマ全体から発するフィーリングを考えれば、これ程スポーツカー的なセダンは 他には見当たらない。 正に4ドア版911と言っても言い過ぎではないが、それでも大型セダンであるためにある程度はサルーン的なのもまた事実だ。それに、単に性能のみだったら、例えばランエボ]は動力性能ではパナメーラSと同等以上だし、ハンドリングだって勝るとも劣らない。ところが、そのフィーリングは全く異なるし、ランエボをショーファードリブンで使う事は有り得ない し、ユーザー層も全く異なる。

えっ、何時もの毒舌の限りを尽くす特別版はないんか?って。やっぱり必要ですかねぇ。確かにあれをやらないと B_Otaku の存在価値がないかもしれない。グーグルで探せば止め処も無く出てくる試乗 ブログに勝ち残る(ちょいとオーバーだが)には、やっぱり特別編は必要かもしれない。

と、いうところで、これから先の結論編は、一部の読者に限定した内容になっています。
以下に同意できる読者のみ先に進んでください。


私はこの先の記事を冷静に読める知識と教養を身につけています。
従って、この先に何が書かれていようが、笑って受け流す事が出来る為に

先に進みます