AUDI A6 3.2FSI  quattro (2005/2/20)


最近のアウディに共通のバンパーにまで至るフロ
ントグリル。これにより一目で新型と判る。
 


個性的なフロントに比べて、あまり特徴
のないリア

昨年フルモデルチェンジされて、国内では9月から発売されていた新型アウディA6にようやく試乗できた。本当はもっと早く乗りたかったが、何故かチャンスに恵まれずに今回やっと乗ることができたわけだ。試乗車は3.2FSI quattroで価格はピッタリ700万円(消費税込み)という、必死で原価計算したとは思えない数字だ。

試乗車にはオプションのレザーパッケージ(35万)が装着されていたので、735万円也となる。この下に2.4(これも切り良く560万)があり、上には4.2quatro(885万)がある。ベースグレードの2.4のみが2WD(FF)で他は4WD(クワトロ)となり、さらに2.4はミッションが無段変速マルチトロニックと呼ばれる、言ってみればCVTなのに対して、上級グレードは6ATが組み合わされる。
 
フロントからの外観は最近のアウディのトレンドであるバンパーにまで至る大きなグリルを持つから、旧型との違いは直ぐに判る。しかし、リアの形状はフロントに比べて大きな特徴はないし、サイドからの形状は6ライトの従来からのアウディのアイデンティティを踏襲している。


リアシートはこのクラスとしては標準的で、大人
4人が長距離を移動するのに適している。

ドアを開けた瞬間から旧型とは違う雰囲気を感じる。

フロントのドアを開けると、そこに広がる景観は高級感と仕上げの良さで他のライバルに大きく水を空けていた旧型の面影は全くない。近代的になったことは認めるが、どうにもチャチになってしまったのが残念だ。BMW5シリーズも似たような傾向にあるが、あれ程徹底されると、嫌なら買うなといわれているようで恐れ入りましたと引いてしまうが、A6の場合はそれ程徹底していないから辛い。 ATのセレクターレバーは短いシフトノブにパターンはP→R→N→DでDから左でSになり前後でマニアルモードとBMWと変わらない。それもその筈でA6が搭載する6ATは5シリーズなどと同じZF製だ。 このシフトパターンはミッション形式の異なる2.4でも全く共通なのは、ベースグレードを差別しない点で好感がもてるし、その他の内装も2.4と上級車種では殆ど区別が付かないくらいだ。


近代的になったが、何となく旧型に比べて安っぽく見えるダッシュボード。
この写真は試乗車の3.2だが、2.4も基本的には変らない。
マニアルモードの時はステアリングのパドルスイッチが使える。右(写真赤丸)がプラス、左がマイナス。2.4はオプションで他は標準装備。

シートに座って右サイドのレバー式スイッチでシート位置の調整を行うのはセオリー道理で、本皮の質感や乗り心地も欧州のプレミアムカーとしては標準的だが、何度も言うように旧A6があまりにも質が高かったので、それに比べるとコストダウンが丸見えだ。

エンジンは従来と同じにキーを挿して、捻って始動する方法と、キーはクルマの中に置いておき、コンソール上のシフトレバーの右あたりにある始動スイッチでも行える。ご丁寧にも両方残したのはハイテクに取り残された年配ユーザーの事を考えてか?

セレクターをDにして、パーキングブレーキのリリースレバーを探すが、見当たらない。実はアクセルと踏むと駐車ブレーキが解除されるのだ。これを聞いて進んでると思う人もいるだろうが、何て言うことは無い、日本では十数年以上前からある停止保持装置と似たようなものだ。

走り出してまず感じるのは旧2.7T、特にオールロードの低回転からの恐ろしい程のレスポンスと比べると、なんだか普通のクルマという感じだ。3.2ℓという排気量だから当然十分なトルクはあるのだが、530iなどに比べて低回転でのトルク感に乏しい。もちろん右足に力を込めれば、それなりの加速はするが、3ℓクラスとしてはチョッと寂しい。それにATのキックダウンもトロい。ただ、ATのシフトスケジュールは、このクラスなら学習機能があるだろうから、試乗車としてオッカナビックリ走る癖が付いているのかも知れない。
新型A6は3.2以上に標準でステアリング裏面にマニアルシフト用のパドルスイッチが付く。これは右がアップ、左がダウンでアルファロメオのセレスピードやBMWのSMGなどのシーケンシャルシフトのようにも見えるが、実際はトルコン式のATだから、シフトレバーでアップダウンさせるのと基本的なレスポンスは変らない。オマケにスイッチのフィーリングもシャキっとしないで、丁度安物電卓のスイッチのようにゴムっぽい。このグニョッとしたスイッチを引くと、けっこうなタイムラグの後にシフトされるから、例えばアルファのセレスピードのようなものを期待すると、ガックリする。
これに比べれば、同じくトルコンにパドルスイッチもあるレジェンドの方がフィーリング、レスポンスとも上だ。

旧型に比べて、動力性能よりも顕著に違いを感じるのは、乗り心地と安定性だ。しかも良くなったのではなく、悪くなったのだ!
旧型のクワトロは、運転していて絶大な信頼感を寄せたくなるような、他のどのクルマにも無い安定性に感心したが、この新型はそれ程ではない。勿論4WDの安定感は感じるが、どうも1ランク下がってしまったように感じる。試乗中に運良く工事中の部分があり、約30m程の穴だらけの凸凹なダート路があったが、その乗り心地は酷い突き上げを感じて、ライバル達の多少の振動はあるが、ばね下がバスケットボールのように軽く弾んでいるような感覚を感じる事はなかった。試乗車は既に数千キロ走行していたから、ダンパーの当たりが付いていない訳でもないし、装着されていたタイヤは225/50R17で、これは今やこのクラスには当たり前だから、これらが不正路で乗り心地の悪い理由にはならない。さらに装着されているホイールを見れば普通の鋳造アルミで、オールロードの3ピース鍛造アルミをチタンボルトで結合した、「恐れ入りました」のホイールに比べると、何ともショボい!

 ステアリングは速度感応式のパワステにより、低速では極めて軽い。この軽さはクラウンマジェスタもジャガーSタイプも、そしてBMW5シリーズ(特に発売初期のモデル)も同程度に軽いから、最近の高級サルーンのトレンドなのだろうか。4WDによる安定感は裏を返せば曲がらない、アンダーの傾向で、実際試乗中に路肩の向こうは1段下がった畑があるような場面で、いつもの気持ちでステアリングを切ったら思いの外曲がらなくて、クルマは路肩に向かって行くという思わず冷や汗物の場面もあった。まあ、慣れれば如何って事はないだろうが。その点でも旧型の方が感覚を掴み易かったような気もするが・・・。

 それから、これも印象が悪かった原因だが、なぜか新型は幅が広く感じて、狭い道で運転し辛い。確かに幅が1855mmもあるから日本の道では扱い辛いのは当たり前だが、幅が同程度のメルセデスEクラス(相手が避ける事もあるが)はモット楽に走れるし、BMW5シリーズだってこんなに気を使わず走れるのは如何した訳か。それに旧A6だってこれよりは走り易かったような覚えがあるが?

 と、ここまで丸で取り得が無いようなレポートになってしったが、良い所だって当然ある。それはブレーキで、好き嫌いはあるにしても、新A6のブレーキは非常に踏力が軽くて、ガツンッと効く典型的な欧州タイプだ。これは慣れればつま先で自由にコントロール出来るし、緊急時は誰でもロックに至る(勿論ABSが作動するだろう)ことが出来るから、その安心感は絶大である。


試乗した3.2は225/50R17タイヤが装着され
ていた。

こちらは2.5で225/55R16となる。

旧型は、メルセデスやBMWに比べて誰が見ても納得の仕上げの良い内装や、クワトロ(4WD)による抜群の安定性。それに、2.7Tモデルの低速からの凄まじいレスポンスと、さらに回転が上がって過給が開始されてからの強力な加速感など、ライバルに比べてブランドイメージがイマイチな分は性能でカバーし、しかも価格も安めだった。
ところが、今度の新型は如何したのだろう?これらのメリットが大幅に後退してしまったことでライバルと比較してメリットが無くなってしまい、しかも価格はライバル並となってしまった。これでは、売れる訳が無いのは誰でも判ることで、一体アウディはどうなってしまったのだろうか??

もう、良き時代のアウディは新車では買えないのか?と言えば、いえいえ、そんな事はありませんよ!この試乗記でも絶賛したオールロードクワトロが、未だ旧型のままで販売されている。しかも、価格も以前の体系だから2.7Tが734万と、今回試乗したショウモ無い新型3.2とほぼ同価格だ。それどころか、2.7SVなら629万円で買えるから、これはお勧め、買うなら今のうちだろう。