シートに座ると、欧州車としては例外的にサイドサポートがタイトなことに気が付く。まるで、国産の280ps級のハイパフォーマンスカーのようだ。インテリアの基本は4気筒と変わらないが、フルスケール300km/hの速度計と7000rpmからレッドに塗られた回転計が、しかもゼロが真下にあるレイアウトと共に、(多少のハッタリはあろうとも)このクルマが只者ではないのを暗示している。
エンジンをかけると、結構な振動と音でアイドルする。勿論不快感は全く無く、300km/hフルスケールの速度計が、伊達では無いと予感する。BMW330iのアイドリングも刺激的だったが、こちらは更にマニアックだ。
ここまでで、既に気分は高揚しているのだか、いよいよ走り出すと、これはもうトンでもない世界が待っていた。スロットルを少し踏み込めば、上半身はバックレストにグイッと押し付けられる。これだけなら国産の280psカーだって、それ以上の加速だろうが、何より凄いのは加速時に耳を刺激するエンジン音だ。これは、スロットルを閉じた時も、また刺激的で、この音を楽しむためにGTAを買うというのも有りと思える程に気持ちが良い。 このエンジンは2.5ℓと共通のボアにストロークを増して3.2ℓとした事から、アルファのブランドから想像する程には、高回転はスムースではない。と、言っても低速トルクが絶大なので、レッドゾーンまで回す必要も少ない。7000rpmのレッドゾーンは、ラテン民族特有のハッタリか?
試乗車のミッションはセレスピードの6速で、前回の4気筒同様にフィーリングは非常に良いし、6速化により繋がりも多少スムースだ。特に左のパドルを引いた時は、ウォンという短い空ぶかしの音と共にシフトダウンされ、不必要にシフト操作をしたくなる。
ところが、良いことばかりでは無い。極端なフロントヘビーの弊害は、行き成り現れた。10分程のドライブで慣れてきたので、少し狭い、しかもワダチがある道路に行き、ここでフルスロットルを踏むと、ステアリングはワダチに取られて行き成り振られ、オッとヤバイと修正すると、今度は盛大なトルクステアでステアリングが戻される。この繰り返しは、一瞬の間に何度か訪れて、傍から見ればクルマが左右に振れながら加速していく不安に襲われるだろう。最も、この程度の状況ではドライバーは結構楽しく、事故の予感を感じる程には危険ではないが、でもヤバイという、何とも楽しませてくれる車だ。
ここまで、読んでくれた人は想像できるだろうが、操舵特性はドアンダーという言葉がピッタリで、このクルマを速く走らせるには、それなりの特殊なテクニックと練習が必要だろう。フロントヘビーのFWD(FF)に250psのパワーは、国産4WDの280psとは桁違いのじゃじゃ馬だから、試乗したくらいでは、とてもコーナリング特性なんて判らないし、下手な挑戦は痛い目に合うだろう。
今回の写真にフロントからのカットが無いのを不思議に思われた方も居るだろうが、実は前日に試乗した人が事故ってしまい、フロントバンパーの右半分は哀れにもパックリと口を空けて、とても写真にはならなかった。試乗で事故るなんて聞いた事無いが、このクルマをカッコで乗ると、こんな目に合うと言う教訓だろう。
乗り心地は当然硬いが、先週の2.0が安っぽい硬さだったのに比べ、それより硬いGTAは、何故か不快感は無かった。一見同じボディでも、補強の違いからくる剛性感と、ダンパーも遥かに高価な物を使用しているのだろう。
また、ブレーキもスポンジーでNG評価をせねばならなかった4気筒に比べ、こちらは、例えばBMWのサルーンよりも剛性感では上回り、フィーリグの良さではポルシェボクスターに次ぐ高評価を与えられる程良かった。それも、その筈で、ホイールから除くキャリパーはブレンボー製で、アルファレッドにAlfa
Romeoの白いロゴが、これまたマニア心をくすぐる。ブレンボーキャリパーを採用する高性能車は数あるが、メーカーのカラーとロゴを付けているのは、フェラーリ、ポルシェ、AMG、アルピナくらいで、この点ではGTAは、単なるスポーツセダンでは無いとも言える。
さらに、4気筒がマスターシリンダをLHDと共用のため左側に付いているのに対して、GTAはマスターが右に付いており、しかも可也深い場所で、リンク系の剛性を極力失わない設計になっている。4気筒の手抜きに対して6気筒の凝りようは、両者の性格の違いを表している。 |