Alfa Romeo 156 GTA (2004/10/17)


フロントには2.0に比べて更に重い3.2ℓ、V6をアクスルより遥かに前方に積む。

試乗車はワゴンボディ
こんなワゴンを誰が買うのか?

何ともマニアックな眺めのエンジン。
今時のプラスチックカバーに覆われたエンジンに不満のマニアには涙ものだ。

先週の156 2.0に気を良くして、遂にGTAに試乗することになった。
試乗車はワゴンボディだが、これには事情がある。と言うのは、今現在156GTAのRHD(右ハンドル)はワゴンのみでセダンはLHD(左ハンドル)のMTのみの設定のため、試乗車がワゴンボディとなった。なお、今年の12月頃には、やっとRHDのセレスピードが設定されるらしい。売れ筋のRHDを、どう考えても売れそうもないワゴンに設定する感覚が判らない。もちろん、販売の第一線からも非難轟々だったらしい。
先週試乗した2.0も、トンでもないフロントヘビーだったが、4気筒2.0に比べて遥かに重いV6、3.2ℓ、(250ps)を積むGTAは半端じゃない。しかし、ボンネットを開けて眺めるエンジンは、今時珍しいアルミ製のカムカバーにフィンが付いて、更にはAlfaのロゴが赤で浮き出しているという、マニアからしたら心を刺激する逸品だ。念の入った事に、Vバンクからはクロームメッキされた6本のインマニが、これまた赤いロゴの入った噴射ポンプに繋がっている。

シートに座ると、欧州車としては例外的にサイドサポートがタイトなことに気が付く。まるで、国産の280ps級のハイパフォーマンスカーのようだ。インテリアの基本は4気筒と変わらないが、フルスケール300km/hの速度計と7000rpmからレッドに塗られた回転計が、しかもゼロが真下にあるレイアウトと共に、(多少のハッタリはあろうとも)このクルマが只者ではないのを暗示している。

エンジンをかけると、結構な振動と音でアイドルする。勿論不快感は全く無く、300km/hフルスケールの速度計が、伊達では無いと予感する。BMW330iのアイドリングも刺激的だったが、こちらは更にマニアックだ。
ここまでで、既に気分は高揚しているのだか、いよいよ走り出すと、これはもうトンでもない世界が待っていた。スロットルを少し踏み込めば、上半身はバックレストにグイッと押し付けられる。これだけなら国産の280psカーだって、それ以上の加速だろうが、何より凄いのは加速時に耳を刺激するエンジン音だ。これは、スロットルを閉じた時も、また刺激的で、この音を楽しむためにGTAを買うというのも有りと思える程に気持ちが良い。

このエンジンは2.5ℓと共通のボアにストロークを増して3.2ℓとした事から、アルファのブランドから想像する程には、高回転はスムースではない。と、言っても低速トルクが絶大なので、レッドゾーンまで回す必要も少ない。7000rpmのレッドゾーンは、ラテン民族特有のハッタリか?

試乗車のミッションはセレスピードの6速で、前回の4気筒同様にフィーリングは非常に良いし、6速化により繋がりも多少スムースだ。特に左のパドルを引いた時は、ウォンという短い空ぶかしの音と共にシフトダウンされ、不必要にシフト操作をしたくなる。

ところが、良いことばかりでは無い。極端なフロントヘビーの弊害は、行き成り現れた。10分程のドライブで慣れてきたので、少し狭い、しかもワダチがある道路に行き、ここでフルスロットルを踏むと、ステアリングはワダチに取られて行き成り振られ、オッとヤバイと修正すると、今度は盛大なトルクステアでステアリングが戻される。この繰り返しは、一瞬の間に何度か訪れて、傍から見ればクルマが左右に振れながら加速していく不安に襲われるだろう。最も、この程度の状況ではドライバーは結構楽しく、事故の予感を感じる程には危険ではないが、でもヤバイという、何とも楽しませてくれる車だ。

ここまで、読んでくれた人は想像できるだろうが、操舵特性はドアンダーという言葉がピッタリで、このクルマを速く走らせるには、それなりの特殊なテクニックと練習が必要だろう。フロントヘビーのFWD(FF)に250psのパワーは、国産4WDの280psとは桁違いのじゃじゃ馬だから、試乗したくらいでは、とてもコーナリング特性なんて判らないし、下手な挑戦は痛い目に合うだろう。

今回の写真にフロントからのカットが無いのを不思議に思われた方も居るだろうが、実は前日に試乗した人が事故ってしまい、フロントバンパーの右半分は哀れにもパックリと口を空けて、とても写真にはならなかった。試乗で事故るなんて聞いた事無いが、このクルマをカッコで乗ると、こんな目に合うと言う教訓だろう。

乗り心地は当然硬いが、先週の2.0が安っぽい硬さだったのに比べ、それより硬いGTAは、何故か不快感は無かった。一見同じボディでも、補強の違いからくる剛性感と、ダンパーも遥かに高価な物を使用しているのだろう。
また、ブレーキもスポンジーでNG評価をせねばならなかった4気筒に比べ、こちらは、例えばBMWのサルーンよりも剛性感では上回り、フィーリグの良さではポルシェボクスターに次ぐ高評価を与えられる程良かった。それも、その筈で、ホイールから除くキャリパーはブレンボー製で、アルファレッドにAlfa Romeoの白いロゴが、これまたマニア心をくすぐる。ブレンボーキャリパーを採用する高性能車は数あるが、メーカーのカラーとロゴを付けているのは、フェラーリ、ポルシェ、AMG、アルピナくらいで、この点ではGTAは、単なるスポーツセダンでは無いとも言える。
さらに、4気筒がマスターシリンダをLHDと共用のため左側に付いているのに対して、GTAはマスターが右に付いており、しかも可也深い場所で、リンク系の剛性を極力失わない設計になっている。4気筒の手抜きに対して6気筒の凝りようは、両者の性格の違いを表している。


アルファレッドに白いロゴのブレンボーキャリパー

今時、安易にフルスロットルを踏むと、容易に破綻を来たす安全性の低さと、そんな安定性が低いのに横滑り防止装置すらない(わざと付けないらしい)。それに、極端なフロントヘビーによる極大のアンダーステア。信頼性は疑問だし、値段は550万もする。もう少しでBMW525が買えるし、ポルシェボクスターのベースモデルやBMW330なら、ほぼ同価格だ。国産車ならセルシオのベースモデルだって視野に入るし、殆どの280ps級のハイパフォーマンスカーが楽に手に入る。
まともな感覚では、とても買えないこのクルマ。100人中99人以上は、鼻も引っ掛けないだろう。しかし、そのフィーリングと危なさは、何とも刺激的でマニア心が疼いてくる。この試乗記を読んで、何やら気に掛かるアナタ!もしかして、若い頃は、峠小僧でナラシたんじゃないですか?そんなアナタなら、是非ともアルファのデーラーに行って見よう。そして、B_Otaku と一緒に、アホの世界に足を踏み入れよう!

もしも、このクルマを手に入れたら、クルマ自体の慣らし運転と共に、ドライバーの慣らしも必要だし、逆に必死で練習して、このじゃじゃ馬を乗りこなし、峠のコーナーを攻めたら、なんと幸せだろう・・・なんていう悪夢が頭を過ぎる?

この悪夢から早急に覚めないと、と思いつつ、何やら不吉な予感を感じる今回の試乗だった。