Porsche Cayman S (2011/5) 後編 ⇒前編へ戻る


試乗車はLHD(左ハンドル)車だったために、先ずはステアリングホイール左側のキースロットに電子キーを挿入する。ケイマンも後期型からは電子キーとなったが、それでもスロットに挿入することと、始動時にはキーを捻るということは絶対に譲れないのだろう。なお、LHD車 のエンジン始動が左手での操作になることについて批判的な意見もあるが、これは何故ポルシェのLHD車のイグニッションが左なのかという点を考えないからだ。 その理由は、何とルマン式スタートに対応しているためだ。有名なルマン24時間耐久レースのスタートは、合図とともに路面の反対側からドライバーがクルマに駆け寄り、コクピットに飛び乗りエンジンスタートとももに 走り出すという伝統的な方式であり、これをルマン式スタートという。そのために、イグニッションキーとシフトレバーを同時に操作するためには、それぞれが反対位置に無ければならない。 すなわち、シフトレバーを右手で操作するLHDの場合は、イグニッションは左に無ければならないことになる。ただし、この方法は1969年を持って終了したのだが、それから40年以上経った今でも、ポルシェは当時の伝統を頑なに守っているという頑固さだ。

試乗車にはオプションでスポーツクロノが装着されていたので、先ずはノーマルで走ってみる。ブレーキペダルから足を放すと一瞬遅れてクラッチが繋がったような感覚が伝わってきてユックリと前進する。この段階ではアイドリング走行となっているようで、そこからアクセルを踏めば踏んだだけ加速を始める。 MTでいうアイドリングスタートと同じ条件なのでスタート直後はゆっくりと加速すれば問題はないが、中間加速での発進は少しもたつく傾向がある。ただし、これは右足の踏み具合にもよるので、オーナーになって修行を積めば上手く操れると思う。
 


写真31
エンジンの始動は電子キーを挿し込んで右に回す。ポルシェの思想はルマンスタート対応のため、シフトレバーと反対側にイグニッショんを配置する。
 

 


写真32
パーキングブレーキはオーソドックスなレバー式。長さも長く、シッカリと確実に引くことが出来る。
 

 


写真33
ペダルもカレラと共通のようだ。ポルシェのLHDはペダルが右に寄っている。

 

写真34
カレラやパナメーラとも共通なPDKのセレクター。

国道バイパスを少し遅い流れに乗って50km/hで巡航している時は5速 1,400rpmくらいで、この状態から前が空いたので1/3程度スロットルペダルを開けると、3.4Lの低速トルクは流石に大きく、5速のままスムースに加速していく。今度は同じ状況から素早く1/2スロットルにすると、一瞬のタイムラグの後に4速にシフトダウンされて、1,700rpmからの加速に入った。では、同じ状況からフルスロットルを踏むとどうなるかといえば、もう一呼吸置いてからシフトインジケーターは2速まで一気にダウンし、3,000rpmから強烈な加速を見せ付けてくれた。 実は2つの(デュアル)クラッチで奇数系と偶数系を切り替えるDCTタイプのPDKは、5速から4速を飛ばしてのフトダウンをするには奇数の3速にはダウン出来ないので偶数である2速まで一気に落とすことになる。

今度はセンタークラスター上のスイッチでスポーツをオンしてみると、ステアリングスポーク上に”SPORT”という文字が表示されて非常に判りやすい (写真37)。SPORTでの第一印象はNORMALで感じたスタート時のクラッチの滑りが殆ど感じられなくなることで、MTでいえばノーマルはクラッチを穏やかに繋ぐとともに半クラッチで滑らせている時間が長いような発進方法に似ているのに対して、SPORTの場合は一気にドカンとクラッチを繋ぐ感じがする。 ただし発進直後のアクセルの操作具合によっては思わぬシフトチェンジが起こり、一瞬ではあるがガツンっというショックを感じる場合があった。今度は7速 60k/h  1,400rpmでNORMAL走行中にSPORTスイッチを入れると、1段シフトダウンされて6速となり、回転数も500rpm程上昇する。 更にSPROT PLUSを選択した場合は、状況によって更に200rpm程度上昇することもあるが、変わらない場合もあった。最初のうちはSPORTとSPROT PLUSを何度か切り替えながら試してみたが、単に走行中に切り替えただけでは想像するほどには劇的な変化はなかった。このSPROT PLUSはPDK装着車のみ用意されていて、スポーツクロノを装着しても6MTの場合にはSPORTのみでSPORT PLUSは選択できない事でもわかるように、このモードはPDKのみで可能なローンチモードなどの2ペダルであることを最大限 に生かしたような使い方でメリットが出るようだ。結局は普通の走行状態では特にSPORT PLUSのメリットも感じられなかったので、これ以降はNORMALとSPORTを適度に切り替えて比較してみた。
  


写真35
カレラSと同様にシルバーのパネル(盤面)となるケイマンSのメーター。
 

 


写真36
オプションのスポーツクロノを装着すると、ダッシュボード中央上面にストップウォッチが装着される。

 


写真37
センタークラスター下部のSPORTスイッチを押すと、ステアリングスポークには表示されるのは使いやすい。
 

 


写真38
SPORT PLUSを選ぶと同様に表示される。
 

 

そのうちに電車との立体交差用の陸橋の上で信号待ちとなって、急な登り坂からの発進が必要な場面となった。先ずはNORMALに入れて、ブレーキを踏んでいる右足を素早くアクセルに踏み代えて、1/3程度踏み込んでみると、クルマが後ろに下がるような事はないが、ある程度の時間は半クラッチで止まっているような状況になり、その後にクラッチを滑らしながらの発進を始めた。 今度は同じ状況でのSPORTを試してみると、踏み変えた一瞬はやはり半クラッヂ状態でクルマが止まるが、その直後に僅かなクラッチの滑りとともに完全に繋がり、普通に走り出した。

以上の結果としては、折角ケイマンSという300ps超のミッドシップエンジン車に乗るのであれば、常時SPORTに入れているくらいが丁度良く、その為に多少燃費が悪くなろうとも、ケイマンSを選ぶようなユーザーならば全く問題にならないし、省燃費の為に普段はNORMALで走る、なんていう考えならば、選ぶべきクルマは他にいくらでもある。そして、ケイマンSを選ぶならばスポーツクロノは是非とも装着したいが、 オプション価格は21.7万円とチョっと高い。 高速道路のインターに向かう一般道で何度かの信号待ちがあったので、その度に1速からのフル加速を試みてみたが、PDKをマニュアル操作すると何故かアップ時(特にフル加速時)がイマイチレスポンスが悪い ように感じた。これに対してダウンは結構素早いのだが・・・・・。

料金所のゲートを通過してから40km/h程度でユックリと流してランプウェイのきついカーブに差し掛かったときにルームミラーを見ると、先代ゼロクラウンのアスリートがピッタリと付いているのが見えた。コレコレ、そんなに焦る事は無いだろうに、と思いながらワザと40km/hを維持してランプウェーを回っていく。ただし、何時でもフル加速できるように2速を維持して2,500rpmくらいで流していく。ミラーをチラッと見ると、後ろのゼロクラおやじの苛々した表情が伝わってくる。 まあ、そんなに慌てるなよ、とニンマリいながらコーナーの頂点が見えてきたところで徐々に加速し、ストレートに差し掛かったところで一気にフルスロットルを踏むとクルマはグイグイと 加速して、加速車線の1/3程の位置で既に100km/hの到達していたので、 右のパドルを引いてシフトアップすると同に、本線にクルマがいない事を確認して、ゆっくりと合流する。ところで、ミラーに移っていたゼロクラはといえば、随分と後ろにいるようだが、目の色を変えて加速して追いかけてくるかと思ったが、そうでも無かった。

実は今回の試乗期間は多少の余裕があったので高速走行は2日間に渡って実施してみた。そのうちの一日は意外に空いていたこともあり、追い越し車線の流れは結構速く、ギリギリ犯罪にはならないが反則にはなる、位の速度で流れていたことから、3速のフルスロットルを何度か試みて見たが、、並みのクルマから比べたらポルシェ製の水平対抗6気筒エンジンを搭載するケイマンSのトップエンドは充分に刺激的だし、軽快なバルブ音で無理している様子が全くなく回る。これはBMWのシルキー6ともまた違うスムースさがあるし、例えばフェアレディ370Zなどと比べれば次元が違う、というとニッサンファンは怒るだろうか?

試乗車の乗り心地は相当に固くて、荒れた路面では一瞬とはいえガツンっというショックも感じる。最近のポルシェは固いとは言え、乗り心地自体は決して悪くない、というよりも可也良いといっても 嘘にはならない。その理由はPASMが装着されていることで、SPORTモードのハードさに比べてNORMALモードでの乗り心地の良さを強調している。 ただし、PASMが標準装備されているのはカレラS以上のために、ケイマンSではオプションとなり、今回の試乗車の場合はPASMが付いていなかったのが、常に固い乗り心地であった理由のようだ。 それにしても試乗車にはオプションがテンコ盛りだったのに、何故PASMが付いていなかったのかというのも、不思議なものだ。 試乗車の乗り心地が固いということは、不快で乗っていられないのか?という疑問もあるだろうが、そんな事は無く、充分な剛性感のボディーのお陰で、一瞬のショックこそ衝撃は大きいが、不快感は全くない。世間ではケイマンの剛性が不足しているような記述もあるが、ケイマンが剛性不足というのは、カレラと比較するからであって、国産車などと比べれば遥かにがっちりしている。
 

写真39
サルーンに比べれば低い着座位置と高めのダッシュボードは決して視界が良いと無いえない。救いはフェンター端の峰が認識できること。


写真40
サイドミラーの内側1/3は出っ張ったフェンダーが視界を遮っている。
 

 


写真41
リアの視界は、この手の車としてはマシなほうだが、サルーンに比べれば決して良くは無い。
 

 


写真42
試乗車のフロント235/35ZR19、リア265/35ZR19はオプション。ケイマンSの標準はフロント235/40ZR18、リア265/40ZR18。
 

 


写真43
御馴染みのブレンボー製、アルミ対向4ピストンキャリパーにドリルドローターの組み合わせ。赤いキャリパーは”S”の証。

 

ステアリングは適度に重く挙動は非常にクイックで、切った瞬間に車両が反応するのは911以上で、とりわけSPORTモードを選んだときには顕著になる。今回は例によって走り慣れたワインディング路を走ってみた。 ケイマンは2005年に発売された当初はケイマンSのみが先行発売され、早速試乗したこのモデルのコーナーリング特性は異様に緊張感を伴うものだったが、その1年後には大分マイルドになっ ていた。 今回のケイマンSも初期型のような緊張感は無いものの世間のクルマに比べれば充分にクイックだから、それなりのスキルのドライバーでないと宝の持ち腐れどころか、危険な場合すらあるかもしれない。

それではカレラと比べるとどうかという点については、特別編で詳しく比較してみようと思う。 ブレーキについては今更言うには及ばないほどに強力で踏んだ分だけ減速するし、クルマ自体の安定性も加わってイザというときには実に頼りになる。ただし、ブレーキについてもカレラ(取り分けS以上)とはフィーリングが若干異なるが、これについても特別編を参照願いたい。

今回の試乗記については、実はもっと詳細に表現するつもりだったが、ケイマンSの性能と追及すると、当然ながらカレラとの比較もしたくなる。そこで、本文は多少サラッと流して、本当に言いたい事は特別編の方で述べて くことにする。
 
ここから先は例によって、言いたい放題が 気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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