Porsche Cayman S & Carrera 特別編
987か997か(ケイマンS vs カレラ) その1

特別編へようこそ。何時ものように、このコーナーは言いたい放題の毒舌が好みの読者以外はお勧めいたしません。

この企画は元々、ケイマンS試乗記の特別編として、価格も性能も近い911カレラとの比較として企画したのだが、カレラ試乗記の冒頭でも記したように、カレラなら写真も試乗経験も豊富にあるから、手持ちの資料で簡単にできると思って、始めてみたらば・・・・何と、豊富な経験と写真はカレラSの方で、いわゆる”素のカレラ”は前期型にチョイ乗りしたくらいで大した試乗経験もなく、写真に至っては後期型の場合では殆ど無い事に気が付いた、という状況だった。そこで、急遽カレラに試乗して、その結果 としてカレラとカレラSの比較を中心に試乗記としたが、結局ケイマンvsカレラというテーマはカレラ試乗j記の特別編としても成立する訳で、結果的に2つの試乗記の特別編を兼ねた形となった。

さて、前置きはこのくらいにして、早速本題に入ろう。最初にケイマン〜カレラSに至る4モデルについて一覧表にまとめてみた。

    @ Porsche A Porsche B Porsche C Porsche
      Cayman Cayman S Carrera Carrera S
 

車両型式

  ABA-987MA120 ABA-987MA121 ABA-997MA102 ABA-997MA101

寸法重量乗車定員

全長(m)

4.345 4.435

全幅(m)

1,800 1,810

全高(m)

1,305 1,300 1,310 1,300

ホイールベース(m)

2.415 2.350

駆動方式

MR RR

トレッド(m)

1.490 1.485 1.485
    1.535 1.530 1.535 1.515
 

最小回転半径(m)

  5.2 5.1

車両重量(kg)

  1,380/1,410 1,390/1,420 1,460/1,490 1,470/1,500

乗車定員(

  2 4

エンジン・トランスミッション

エンジン型式

  N/A N/A N/A N/A

エンジン種類

  H6 DOHC

総排気量(cm3)

2,892 3,436 3,613 3,799
 

最高出力(ps/rpm)

265/7,200 320/7,200 345/6,500 385/6,500

最大トルク(N・m/rpm)

300/4,000-6,600 370/4,750 390/4,400 420/4,400

トランスミッション

6MT/7DCT(PDK)
 

パワーウェイトレシオ(kg/ps)

5.2/5.3 4.3/4.4 4.2/4.3 3.8/3.9

最高速度(km/h)

265/263 277/275 289/287 302/300
 

0-100km/h加速(sec)

5.8/5.7 5.2/5.1 4.9/4.7 4.7/4.5

サスペンション・タイヤ

サスペンション方式

ストラット

ストラット マルチリンク

タイヤ寸法

前/後 Fr:205/55ZR17
Rr:235/50ZR17
Fr:235/35ZR18
Rr:265/40ZR18
Fr:235/40ZR18
Rr:265/40ZR18
Fr:235/35ZR19
Rr:295/30ZR19
 

ブレーキ

前/後 Vディスク/Vディスク

価格

日本国内価格

604/651万円 754/801万円 1,086/1,161万円 1,329/1,404万円

米国価格(6MT)

$51,900 $62,100 $77,800 $90,500
 

レート換算 (¥/$)

116.4 121.4 139.6 146.9

これを見れば604万円のケイマン(MT)と1,404万円のカレラS(PDK)の価格差は何と800万円!倍率で言えば2.3倍もの価格だが、0〜100km/h加速はそれぞれ5.8秒と4.5秒と、その差は1.3秒。この1.3秒に800万円もかかる事になる。今回の主人公であるケイマンSとカレラ(何れもPDK)の場合は価格差は360万円、倍率では1.4倍となり、性能差は0〜100km/h加速で5.1秒と4.7秒だから、その差はたったの0.4秒。ポルシェに限らないが、クルマと言うものは上級モデルになる程、割高になる傾向がある。
次に国内価格は米国価格に対してドルで換算してみると、やはり上級モデル程割高となっていて、ケイマンなら¥116.4/$でまあ許せる範囲というか、結構良心的な価格だが、これがカレラSとなると何と¥146.9/$というボッタクリに変化する。因みに国内で568万円のボクスターは、米国では$48,100だから換算率では¥118.0/$でケイマンと殆ど同率となっている。そこでBMW M3(クーペ、MT)を見てみると、国内価格1018万円に対して米国では$55,900だから、¥192.8/$となる。えっ、いや、別に何も言う事は御座いませぬ。はいっ。

ケイマンSとカレラのアウターサイズを比較すると、全長はケイマンSの 4,345mmに対してカレラは4,435mmだからカレラが90mm長いが、ホイールベースはケイマンの2,415mmに対してカレラの2,350mmというように、カレラは65mm短いから、結果的にはカレラのオ ーバーハングはケイマンよりも155mmも長いことになる。しかし、ケイマンとカレラはフロントバルクヘッドより前は共通となっているから、フロントオーバーハングもほぼ等しい。といいうことは、その差155mmの大部分はリアオーバーハングということになる。写真2のようにカレラのルーフは滑らかに後端まで伸びていて、これが独特のエレガントさを 演出しているが、ケイマンSの場合は短いリアオーバーハングのためにルーフ後端はストンとチョン切れている。
 

図1
基本的にはフロントバルクヘッドより前が共通だが、2+2のカレラの優雅なスタイルに対して2シーターのケイマンSは挑戦的なスタイルに見える。

 

図2
全長はケイマンSが 4,645mmで、カレラの4,435mmよりも90mm短いが、ホイールベースはケイマンSが2,415mmとカレラの2,350mm対して 65mm長い。
フロントはほぼ共通だから、リアのオーバーハングはカレラが155mm長いことになる。
結果的にカレラの優雅なスタイルに対して、ケイマンSのリアはチョン切れて、これが挑戦的に見える原因となっている。

 

真正面から見た時の最大の相違点はヘッドライトの形状が違うことで、それ以外にもフォグランプを含めてフロントエアインテイクの形状が異なる(写真3)のは当然だが、前述のように987と997はフロントバルクヘッドから前は基本的に共通となっていて、ボディ形状も殆ど同一となっている。そこで、フロントのラッゲージスペースを覗いてみると、やっぱり同じだった (写真4)。ただし、一見するとカレラの場合はバルクヘッド側にプラスチック製のボックスが装着されているが、ケイマンSには無い。今まで見てきた車両では、カレラ系(997)には全てボックスが付いていたが、ボクスター/ケイマン系(987)の場合には、極一部のイヤーモデルと仕様によっては、997と共通のボックスが付いている場合もある。

まあ、何れにしても、両車はフトント部分の骨格も同じであることが判るだろう。
 


図3
バルクヘッドより前は共通となっているが、それでもヘッドライトとフロントエアインテイクの形状を変えることで随分イメージが違う。
 


図4
フロントのラッゲージスペースは基本的に同じ。ただし、カレラにはプラスチック製のボックスが付く。
なお、場合によってはケイマン/ボクスターでもカレラと同じボックスが付いている。
 

次に後方から見てみると、当然ながらフロントとは全く異なる。何しろエンジンの搭載位置がケイマンはフロントシートのすぐ後方にあるミッドシップであり、カレラはリアアクスルから更に後方にぶら下がってマウントされているリアエンジンだから、ケイマンはハッチバックのゲートがあり、カレラはエンジンのエアインテイクを兼ねた点検カバーがある (写真6)。それで、ケイマンのエンジンはどうやって見るのかといえば、普通は見られない!ただし、リアラッゲージルームの床板を外せばエンジンが見えるようになるが、余程の物好きが、整備の実務(効能書きではなく)の経験がないと、あそこは開けないであろう。

なお、排気管の出し方はケイマンSが中央から、カレラが左右からとなっている。ただし、911でもGT3の場合は中央から出しているのは、排気系(とエンジンも)が全く異なるためだ 。
 


図5
エンジン搭載位置もケイマンSのミッドシップに対してカレラはリアだから、リアの形状は全く異なる。

 


図6
ミッドエンジンのケイマンSはリアゲートとラッゲージスペースがあり、リアエンジンのカレラはエンジンルームとなっている。
 

ドアを開けて最初に感じるのは、両車のインテリアが一見するとそっくり似ている点だろう。特にシート形状などは全く同じで、+2のカレラが後席への出入りに必要なシートのバックレストを倒すためのレバーなどは両車に付いている。まあ、ケイマンの場合はリアにラッゲージルームがあるからという理由もあるが、シート後方に全くスペースの無いボクスターでも同じシートが使用されている。

形状は全く同じシートではあるが、表皮は異なっている。どちらも両サイドには合成皮革を使用しているが、このレザレットという素材は一見レザーと見紛う程に出来が良い。そして座面とバックレストの中央部分は、ケイマンSがアルカンターラでカレラは本皮となっている (写真8)。アルカンターラは裏革風の人口皮革だから、カレラの本皮よりもワンランク落ちるという差別化のようだが、聞くところによるとアルカンターラは人工皮革とはいえ結構高価で、下手な本皮よりも原価が高いという。確かにカレラよりも、いやカレラSよりも高価なGT3は、シートのみならずステアリングホイール や内装にもアルカンターラが多用されてる。

両車の大きな違いであるリアシートの有無ではあるが、カレラの場合、リアシートがあるといっても完全な+2であり、大柄なパッセンジャーではリアスペースに潜り込むことすら大事となる。ここは、手荷物や買い物 のレジ袋などをおっぽり込むのに実に便利、という使い方に向いている。実際に、実用面ではカレラのリアスペースは大いに威力を発揮する(写真9)。
 

図7
両車の室内は非常に似ている。
標準シートは基本的に同じで表皮のみが異なる。


図8
表皮はどちらもサイドに人工皮革(レザレット)を使い、座面とバックレストはケイマンSがアルカンターラ、カレラは本皮となる。
 


図9
ケイマンSはツーシーターでリアにはラッゲージスペースがある。
カレラは小さいながらもリアシートがあるが、大人が座るのは難かしく、ここはラッゲージスペースと割り切れば使い勝手は良い。

ドアのインナートリムは上半分は両車全く同じで、これらに付属するドアオープンノブやパワーウィンドウスイッチ、オーディオスピーカーなど全く同じ部品が使われている (写真10)。違いといえばドア側のアームレストとドアのグリップで、ここは夫々別のデザインとなっている。
 


図10
ドア開閉ノブ、パワーウィンドウスイッチ、オーディオスピーカーは両車完全に同一品を使用している。
両車ともオプションのBOSEシステムを装着していた。
 


図11
ドアのインナーグリップとアームレストの部分は、両車別の部品となっているので、ドアインナーパネル全体も別物に感じる。
ケイマンS以上はこの部分がレザー貼りでステッチが入っている。
 

インパネを比べてみれば、基本的には極めて類似点が多く、恐らくポルシェを始めて見るユーザーならば、違いがよく判らないかもしれない(写真12)。しかし、よ〜く見れば、当然相違点もある。

まず、最大の相違点はエアコンのエアアウトレットの形状で、ケイマンSは丸型なのに対してカレラは変形の角型で、ケイマンSのシンプルさに比べてカレラは高級感で勝っている (写真13)。今回のカレラはアウトレットの外枠がグレー系の塗装だったが、個人的にはフェイズ1でよく見かけた半つや消しのクロームメッキのほうが、より高級感が増すと思うのだが、まあこれは趣味の問題だろう。なお、ダッシュボードは結構柔らかい弾性樹脂で、表面のシボも出来が良く、チョッと見ただけではレザーを見紛うくらいだ。そして、その質感自体はケイマンSもカレラも同等だった。ただし、ダッシュボードの天板は、ケイマンSがドライバー側に向かってなだらかに傾斜しているのに対して、カレラは急な角度でストンと落ちている。

センタークラスターは両車とも全く共通で、オーディオとエアコンのコントロールパネルも同一品を使っている。なお、写真14ではセンタークラスタ下端に並ぶスイッチが一つ多いが、これはオプションのPASMを装着していたためで、ケイマンSでもPASMを装着していれば、この部分も同一となる。なお、PASMはカレラSには標準装備されているが、カレラの場合はオプションとなる。

実はこのPASMについて、カレラ試乗記の後編で スポーツクロノをスポーツに設定するとPASMもスポーツになり、ここでPASM(スポーツ)をオフにしようとしたが上手くいかなかった、という記述をしたが、ちょっと説明不足だったようなので、ここで再度この点を説明してみる。まず、どちらもスポーツになった状態でPASMスイッチを押したら、確かにPASMのインジケータが消えたのでノーマルに戻ったのだが、この時同時にスポーツクロノのスポーツ(若しくはスポーツプラス)スイッチのインジケータも消えてしまい、要するにスポーツモードとPASMのノーマルの組み合わせが出来なかった、と感じていたのだった。しかし、911オーナーである複数の読者からの連絡によれば、PASMスイッチは単独にオフできて、スポーツモードとPASMノーマルの組み合わせは可能だということで、更にポルシェディーラーに確認したところ、やはり同様の回答が帰ってきた。ということは、B_Otaku の勘違いか、偶々試乗車に何らかの不具合があったか、ということだが、この際ポルシェの顔を立てて感違いということにしておこう。でもねぇ、確かに変な動作はしていたんだけどなぁと、未練まがしく・・・・・。

それにもう一つ。カレラの試乗車でPASMをスポーツにしても、従来ほどのガチガチではなかったということも触れているが、これもどうも解せない現象ではあった。やっぱり、試乗車はどこか変だったのか?
 


図12
よくみれば相違点もあるが、雰囲気は極めて似ている。 その大きな相違点の一つとして、ダッシュボード天板がドライバーに向かって、なだらかに下降するケイマンSに対して、カレラの場合はストンと切り落とされている。

 


図13
インパネ関係での大きな違いはエアコンのエアアウトレットで、ケイマンSが丸型なのに対してカレラは角型となっている。
これが意外と高級感の差となっていて、特にカレラでオプション(カレラSは標準?)の半つや消しクローム仕上げとすると、より高級感が増すことになる。
 


図14
センタークラスタは全く同じ。写真ではスイッチ類が幾分異なるが、これはオプション装備が違うため。

こうしてみれば、やっぱりケイマンSとカレラの共通点は結構あることに気付く。そこで、次に走行関係のコンポーネントの比較と、実際に走行した時のフィーリングの違いなどについて比べれ見る。

その2につづく