Toyota Crown Majesta (2010/9) 後編 ⇒中編へ戻る


インテリジェントキーを所持して、ダッシュボード上のスタートボタン(写真33)を押すという、今や国産車なら軽自動車でも付いている方式によりエンジンを始動すると、回転計を見なければエンジンが回っている事を確認できない程に静かなアイドリングをするのも、トヨタ製最高級車としては当然でもある。 正面のメータークラスターにはトヨタ得意の自光式メーターが点灯しているが、以前のように風俗産業の看板のようなギンギラした輝きではなく、自光式とは言えオーソドックスなメカ式のアナログメーターの雰囲気を残しているのは、大いなる進歩だ。

今時ちょっと時代遅れなジグザク式のゲートを持つセレクター(写真32)をDに入れて、さてパーキングブレーキはといえば、フートレストの上方にペダル (写真36)がある。ああ、例によってこれかと踏んでみるが、リリースできない?もう少し踏むとペダルは更に奥に入っていって、より重たくなる。 ん?そうか、もしかしてリリースレバーでの解除では、と気づいてダッシュボードを探したらステアリングの直ぐ左にあったあった(写真34)。最近の国産車といえば手抜きのプッシュ/プッシュタイプに慣れていたので、つい勘違いしたが、クラウンはメルセデスで伝統的なリリースレバーによる解除を採用しているのだった。 そう言えば、マークXもクラウンと同じだ、と余計な事を思い出した。 そしてレクサスISはプッシュ/プッシュタイプだと、更に余計な事を思い出してしまった。

軽いスロットルペダルをチョイと踏んだら、クルマはピョンと飛び出して、最高級車としてのパワフルさを強調するのも忘れてはいない。公道に出てからの走りは伊達にV8 4.6リッターを積んでない、と思うくらいに強力なトルクで加速するが、以前セルシオ時代に乗ったV8独特の高級感は感じられないのは何故だろうか。 そしてセルシオはは10m走っただけで、「これは只者ではない」と感じたが、マジェスタにそれは無い。エンジンのレスポンスは結構良いし、8速ATの反応も悪くない。もっとも、低域からの強大なトルクのために、シフトダウンのレスポンスが多用悪くとも高いギア位置でそれなりに加速してしまうので、気にならないというのが本当のところだが。
クルマにも慣れてきたのでコンソール上をよくよく見たらば、スポーツというスイッチがあり、これを押してみたらばメータークラスター内のグリーンで SPORTと書かれたインジケータが消えた・・・・・ということは、今まではスポーツモードだったと言うことだ。 それではとノーマルモードで走ってみれば、スタート時の飛び出しはほとんど感じなくなった。そして、低回転での巡航になると、 というグリーンの反転文字 のマークが表示され て低燃費状態での走行であることを知らせてくれる。この状態で、少し加速するとECO表示も消える。ノーマルモードでのエンジンやシフトのレスポンスはスポーツモードよりも多少劣るが、驚くほどには変わらない。 ところが、大いに変わる部分があった。それは操舵レスポンスだ。

マジェスタのステアリングは相当に軽い部類に入る。それこそシートのバックレストを倒して、寝っ転がりながら片手で運転する、という田舎の成金オヤジやヤンキー兄ちゃんがやるような運転を想定しているのではないか、と思うような軽さと中心付近の不感帯の多さだ。それでもスポーツモードの時は未だ良かったのだが、スポーツをオフにしたノーマルモードでは、ステアリングレスポンスは益々トロクなってしまう。 このレスポンスの悪さから、自分の思ったラインをピタリと通れないために、例えば前方に右折車がいて、その左を通過する場合など、左のスペースが特に狭い訳では無いのに、思ったラインを通れない事から、無意味な徐行を必要としてしまう。それなら返って安全運転になるという考えもあるかもしれないが、余裕で速度を落とすのなら安全運転だが、積極安全性にも問題のある操舵性の悪さからの減速は、結果としてアクティブセーフティの低さであり、700万円のクルマとしては、どんなものだろうか。

こんな操舵性と共にコーナーリングは大いに苦手項目だが、それでもトヨタの200万円級のクルマ、例えばウィゥシュ等とはサスペンションへの金の掛け方違うのか、アンダーは強いが決して不安定な挙動をするわけでは無い。まあ、マジェスタで旋回特性云々というのは最初から議論の対象になりそう にも無いし、そういう物を要求するユーザーからみればマジェスタなんて検討範囲のはるか外側だろう。 こういう特性だから、サスの設定は柔らかめで、乗り心地という面では当然良い。走行中に路面の凹凸があると多少のピッチングを伴うが、それ自体は悪い感覚ではないし、ロールなども意外に少ない。そして巡航中のエンジンその他の静けさに 対して、何故か路面によってはタイヤのザーッという音が聞こえてきた。車内が静かなだけに返って目立つのかもしれない。

ところで、スポーツモードスイッチの左にはECOモードのスイッチ(写真35)があり、試しにこれを押してみると、想像通りにスロットルレスポンスやシフトスケジュールは緩慢になる。ただし、それでも大排気量V8エンジンのご利益で、低回転域でも結構なトルクがあるから、単に流れにそって大人しく走る分には、それ程腹は立たない。
 


写真31-1
本来のアナログメーター的な質感も大切にした欧州車的な自光式を採用している。

 


写真31-2
こちらは、夜の歌舞伎町のような国産車丸出典型的しの典型的自光式。やっぱりクラウンはコレが一番!

 


写真32
マジェスタが8ATでロイヤルは6ATだが、セレクター自体は共通のようだ。
その手前にあるスイッチはモード切替スイッチ(詳細は写真25)。
なお中央の写真はマジェスタGタイプのためにセレクターの手前にはシートヒーターの調整スイッチ類がある。
 


写真33
ステアリングコラム右側のダッシュボード上にあるスタート/ストップボタン(右端)。

 


写真34
パーキングブレーキの解除はステアリングコラムの左側ダッシュボード上のレバーによる。

 


写真35
コンソール上、ATセレクター(写真32)手前にあるモードスイッチの拡大。

 


写真36
パーキングブレーキは踏んでONだが、リリースは別のレバーによる。

 

マジェスタのブレーキはレクサス各車(IS250を除く)に採用されているブレーキバイワイヤー方式(トヨタではECBと呼ぶ)を搭載している。そしてホイールから 覗くフロントのアルミ対向ピストンキャリパーもレクサス用と同じものが使われている(写真40)。 従って、マジェスタのブレーキペダルはドライバーが踏んでいる力を利用してブレーキを作動させるのではなく、あくまでブレーキ操作の信号を発生しているのみなのである。この為にべダルフィーリングとしては最初の遊 び部分が極少ない。 普通のブレーキはペダルを踏むとマスターシリンダーのピストンがブレーキ液を加圧するが、その時にピストン中央のバルブをメカ的に閉じてから加圧するまでに多少のストロークを必要とする。そして、マスターシリンダーで発生し たブレーキ圧はキャリパーのピストンを押し出すが、パッドとディスクローターの隙間の分だけはブレーキが効かないので、この分も遊びとなる。 こういう理由により、一般的なブレーキは踏んだ時の最初の数ミリ分はペダルが軽く前進するがブレーキは効かないという状況になり、これが遊びストロークの正体だ。ところが、 ECB方式は単なるブレーキ操作用の信号を発生するのみだからパッドの隙間によるストロークは無視できる。 ただし、バイワイヤーとは言っても実際にはブレーキペダルの先には小型のマスターシリンダーがあり、これを押す事でシリンダー内の圧力が上がり、この圧力を電気的に変換してコントローラーに信号として送る方式なので、マスター シリンダーの遊びが完全にゼロではないが、容量が少ないために極めて少ない。なお、ECBが失陥(故障)した際には、この信号発生用のマスターシリンダーにより発生する圧力で最小限必要なブレーキ力を得る為の緊急用バックアップシステムとなる。

マジェスタは全長4,995mmでホイールベース2,925mmという大きさの割には、チョッと狭い裏通りに入ってもそれほど苦労することはない。一つには全幅が1,810mmと最近のDセグメント程度しかないここと、高い着座位置からボンネットの先端が認識できる(写真 38)ことから運転し易いなど、流石に日本の道路を熟知しているトヨタだけの事はある。


写真 37
V8、4.6ℓ 1UR-FSEエンジンは347ps/6,400rpmの最高出力と 46.9kg・m/4,100rpm
の最大トルクを発生する。
 


写真 38
ボンネット先端が確認できるため、長いボディの割には取り回しはし易い。
 

 


写真 39
タイヤは前後とも235/50R17サイズを履いている。

 


写真 40-1
マジェスタのフロントにはレクサス各車と同じアルミ対向ピストンキャリパーが装着されている。
 

 


写真40-2
ロイヤルは一般的な鋳物のフローティングキャリパーとなる。なお、アスリート3.5のみはマジェスタと共通の対向ピストンキャリパーとなる。
 

 

このサイトの読者の多数派であるBMWオーナー、とりわけ320iオーナーからすれば、マジェスタに700万円も出す予算があったら3シリーズならば335iが買えるし、5シリーズだってベースモデルの523iどころか3Lの528iが買える。 その他のメーカーだって理想のファミリーカーが目白押しだし、ボクスターだって買えてしまう。 と、まあ、人の好みは色々だから、喜んでマジェスタを買う個人オーナーだっているだろうが、そういう人たちはクルマを調べるのにネットを見たりはしないのだろう。

マジェスタにはマジェスタの役割があり、その面ではキチンと自らの役割に徹した設計になっている。これは、これで必要なことなのだろう。ライバルであるニッサンフーガがV8モデルの国内販売を止めてしまったのとは対照的だ。

ここから先は例によってオマケだから、言いたい放題が 気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。今回のテーマは 国産高級車の生涯ということで、マジェスタに代表される高級車の新車から廃車までを考えてみる。  

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