Lexus CT200h  F Sport (2011/2) 後編 前編へ戻る


メーターフード内の最左端にあるパワースイッチ(写真31)を押すと正面のメーター類が点灯する。 HVだから当然であるが、バッテリーがチャージされている状態では、車両がパワーオンとなってもエンジンは始動しない。正面のメーター類はトヨタ得意の自光式で、個人的には好きではないが、HVということを考えれば寧ろハイテクっぽくて合っているのかもしれないし、実際にISなどに比べて気にはならない。

プリウスやHS250hと共通のパターンではあるが、高級感では勝るセレクター(写真32)を右下に押してDを選択し、トヨタ車お馴染みのプッシュ/プッシュ式パーキングペダルを解除するために踏んでみたら、逆にメーター内に赤いブレーキのマークが出たことで、おっといけねぇ、逆にパーキングをONにしてしまったと気付き、もう一度踏んで解除する。 ブレーキペダルを放すと無音でユックリとクリープのように前進したので、アクセルペダルを極わずか踏んでみたら全く無音で滑らかに前進した。そのまま公道の前まで走り 軽くブレーキに足を乗せると、クイィーンという地下鉄のような回生ブレーキの音と共に減速し一時停止する。30秒ほど待ってから流れの切れ目となったので左にステアリングを切りながらアクセルは1/4程度で発進すると、プリウスと同様にモーター独特の低速時のトルクを感じる。 この時の操舵力はプリウスなどよりも重めのセッティングとなっている。クルマの向きが道路と一致したところで、1/2スロットル程度に踏み込んで流れに乗る。この程度の穏やかな加速域では、電気モーターの 低回転から最大トルクを発生するハイブリッド車のメリットが感じられて、結構良い印象となる。その後、車は2車線の地方道に入るが、勿論一般的な40〜50km/h程度の流れなら全く問題なく巡航する。 そのうち前の車が細い脇道へ左折して、前が空いたのを機会にフルスロットルを踏んでみる。この時はエンジンの回転数は結構上がり、ガーっという安っぽい音が聞こえ、チャージメーターは一杯に上方向、すなわち放電側を指すが加速自体は大したことは無く、精々1.8ℓクラスというところか。

今まではノーマルモードで走行していたが、今度はモードセレクトダイヤル(写真37)を右に捻ってスポーツを選択する。これにより、左側のチャージメーターは回転計に切り替わる (写真34)。スポーツモードでは、多少スロットルレスポンスが良くなるのと共にエンジンの回転数も上がり、モーターのみの使用も控えめになって、要するに多少のエコを犠牲にしても走りに振っている。 と、いうと何やら走りそうだが、実は少しマシになるだけで、元々が大した動力性能ではないので、劇的に変化するわけではない。
次にセレクターを左に捻ってエコモードを選択する。エコモードでの走りは意外とノーマルと変わらずに、例えばアクセルと踏んでも全く加速しないということもなく、気にしなければノーマルモードとの大きな差は無いように感じる。エコモードでハッキリ違いが判るのはむしろ減速したときだった。 加速中に前車が見えてきたので先ずはアクセルOFFとすると、上方に振り切れていたチャージメーターはセンターより少し下を指して、僅かに充電モードとなったこととで回生制動が作動していることと、EVマークの点灯によりエンジンを 停止させてモーターで走行していることが判る。ただし、前車に追従して巡航モードに入ったことで僅かにアクセルを踏んだらEVマークも消えたから、この時にはエンジンも始動されたのだろう。 このようにエコモードの場合は最大限に回生ブレーキとEV走行を使うようだ。この辺の制御は実に自然で、ドライバーは殆ど何も考えなくとも、システム側で小まめにエンジンが回ったり、止まったりと燃費向上に勤しんでくれる。
 


写真31
メーターフード内の最左端にあるパワースイッチ。

 


写真32
プリウスやHSと同様のパターンのATセレクターだが、レバーはより高級感のあるものが使われている。


写真33
メータークラスター内には中央の大径速度計と左右に小径メーターが配置されている。勿論、トヨタ得意の自光式だが、HV車には似合ってはいる。
 

 


写真34
スポーツモードを選択すると、左の小径メーターはそれまでのチャージメーターから回転計に変身する。

 

CT200hにはパドルスイッチ(写真35)によるマニュアルモードが付いている。パドルは右がアップ、左がダウンという標準的なものだから、違和感無く操作できるのは有り難い。 マニュアルモードの切り替えスイッチは特に無く、Dで走行中にパドルを操作するとマニュアルモードとなり、解除するには右のアップスイッチを長押しする。本来無断変速のCVTを段階的にシーケンシャル動作させてマニュアルミッションをシミュレートする事には批判的な意見もあるが、マニアックな走りをするにはあるに越した事は無い。 CVTというのは二つのプーリーの有効径を変えることで変速するのだが、通常の使い方では徐々にギア比が変化していくのに対して、擬似マニュアル動作の場合はある程度のプーリー変化を一気に行うためにどうしてもレスポンスが悪くなる。そういう面では、CT200hのマニュアル時の変速レスポンスはCVTとしては最高の部類で、良く出来たトルコンATと良い勝負で、パドルを引いた後一瞬のタイムラグで直ぐに変速される。 ただし、4速から左のダウン側スイッチを素早く2回引いてみたが、一気に2速には行かず、3速に入っただけで、もう一回分は無視されてしまった。
 


写真35
マニュアルシフト用のパドルスイッチは右でアップ、左がダウンというオーソドックスなもの。

 


写真36
ステアリングホイール下端にあるFスポーツのエンブレム。
 

 


写真37
走行モードの切り替えダイヤル。EVモードスイッチと、その右にあるATのPスイッチが紛らわしく、走行中に誤操作の危険があり、極めて問題。
 

 


写真38
Fスポーツにはアルミペダルが標準で装着される。

 

今度はモーターのみで走行するEVモードを使ってみる。信号で停車中にコンソール上のモードセレクトダイヤル右にあるEVモードスイッチを押すと、メーター内に表示が出てEVモードとなったのが判る。信号が青になっ たので、ユックリとアクセルと踏むと、クルマは全く無音で発進する。速度が20km/hくらいになったところで、前車との距離が空いてしまったのと、ルームミラーに後続車がいることからアクセル を少し踏み増したところ、いつの間にかエンジン音が聞こえたので(同時にEVモードの表示も消える)EV走行ではなくなったことが判る。 プリウスも同様だがEVモードの走行は余程条件が良くないと継続できないようで、いってみれば単なるオマケのモードという感じだ。この点では60km/h巡航でもEV走行可能なフーガハイブリッドに大きく水を開けられている。EVモードの特性も判ったので、このモードを解除するつもりで、EVmodeボタンを押したつもりが、あれっ?右隣のⓅボタンを押してしまったうようだ。一瞬、如何すれば良いのか判らずに、もう一度Ⓟボタンを押したが解除できない。メーター内では△に!マークが点滅している。 結局、ATセレクター(シフトレバー)をDにすることで復帰できたのだが、それまではニューラル状態で走行していた事になり、場合によっては危険な状況になったことも考えられる。しかし、EVmodeとパーキングという相反するスイッチを、しかも似たような外観で2つ並べるというレイアウト (写真37)は一体何を考えているのだろうか。ブレーキと間違いてアクセルを必死で踏んで事故に至るようなドライバーがいる米国の状況を考えれば、このスイッチを押し間違いて 事故が多発することは充分に考えられるし、そうなれば例によってトヨタバッシングの再来で、折角収まった暴走騒ぎの再燃となるのではないか。 これは早急に対策しないとトンでもない事になりそうな予感がするが、余計な推測であれば、それに越した事は無いが・・・・。

それにしても、先日試乗した新型ヴィッツのアイドリングストップの飛び出しといい、今回の紛らわしいスイッチ配置といい、本来ならメーカーの走行試験で指摘されて、発売までに改善されるような内容が、全く素通りで発売に至ってしまうという、トヨタの開発体制は大丈夫なのだろうか?

写真39-1
直4 1,797cc 99ps/5,200
rpm、14.5kg・m/4,000rpmを発生する2ZR−FXEエンジン と82ps、21.2kg・mの3JMモーターというプリウスと全く同じ動力源を持つ。
 

写真39-2
内容的にはCT200hと全く同一のプリウスのエンジンルーム内をみると、確かにカバー類のデザインは異なるが、事実上は同じものであることが判る。


写真40
ブレーキのマスターシリンダーは通常は単なる信号発生元となっている。
 

 


写真41
ボンナット内の高圧ケーブル(オレンジ色)がHVらしさを感じさせる。
 

 

試乗車はFスポーツというグレードだったこともあるが、ステアリングは国産車にしては重めで、よく言えばドイツ車のようにシッカリとしたフィーリングで、中心付近の不感帯も少ないし反応も結構クイックだ。今回の試乗コースには特別にハンドリングをテストするようなワインディング路はなかったが、途中に何箇所かのきつめのブラインドコーナーがあるので、常識の範囲内で速めに進入してみたが、想像以上にニュートラルで安定しているのに驚いた。 これは感覚的にはFFスポーティー車のベンチマーク的なVWゴルフGTIに迫る程だといっても過言はない、というくらいに好印象だった。まあ、本気で攻めたらどうなるのかは判らないが、これはゴルフGTIと直接対決でもやりたいくらいだ。前述の走行モード切り替えをスポーツにした場合、スロットル特性と共にステアリング特性も変化するらしいが、実際にやってみると、確かに変化は感じるが目に見え て大きく変わる事もなかった。

思いのほか好印象のコーナーリング特性の代償は硬い乗り心地だった。走行中は常に細かい路面の凹凸を拾って突き上げがあるから、鏡のように平らな路面以外では明らかに不快感を感じた。ただし、VWゴルフGTIも特にダンパーに当たりの付いていない新車時には不快なほど硬い場合があるが、その硬さと良い勝負だったから、その手のクルマのオーナーには気にならないのだろうか。 そういえばレクサスの国内展開が始まった当時の初期のISは、妙に硬いサスとわざとらしくクイックなステアリング特性に似非ドイツ車的な嫌らしさを感じたが、今回のCT200hの硬いサスとクイックな ステアリングは、初期のISに比べれば大いに進化していて、一言で言えば室内の雰囲気といい、走行感覚といい、結構重厚感があることで、数年間の試行錯誤により到達した結果なのかもしれない。

CT200hはプリウスから引き継いだブレーキバイワイヤシステム(以下B/W)を使用している。この方式を一般的な量産車にまで適用しているのは世界広しといえどもトヨタだけだろう。もう何度も言ってきたが、天下のメルセデスですら先代のEクラスでSBCという名称の元に B/Wを量産したが結果は惨憺たるモノで、100年以上かかって築いたメルセデス神話を一気に崩壊させ、クラスでダントツだったEクラスはライバルのBMW5シリーズに逆転されるという結果となった。 それ程までに難しいB/Wだが、HVのように強力な回生ブレーキをフルに利用するには、ブレーキペダルを踏んでもギリギリまで摩擦ブレーキを作動させずに、回生ブレーキを使用する必要があり、これはもう電子制御を使うしか方法が無い。
と、能書きはこれくらいにして、早速CTのブレーキペダルに足を乗せて軽く踏んでみると、遊びの少ないペダルは行き成り重くなって僅かに減速を始めるが、同時にクィーンという地下鉄のようなインバーター音が聞こえて、回生制動が作動してのが判る。重めのブレーキに足を乗せた途端にある程度の減速度が出るから、最初はチョッと違和感はあるが、慣れれば特に問題はないだろう。 この時、さらに踏力を増すと減速度が高まったのと同時に摩擦ブレーキの油圧も作動始めたような感覚を感じて、回生制動が目いっぱい使われていることが判る。 実際にブレーキペダルの先には小さなマスターシリンダーがあって油圧を発生させるが、通常時はその圧力をセンサーが感じてコントローラに信号を送り、これでドライバーが制動を要求した事を関知して、必要な回生制動を与え、それでも足りない場合はブレーキキャリパーへの圧力を伝えて、通常の摩擦ブレーキも併用するという、高度な事をやっている。 なお、このマスターシリンダーは緊急時にはブレーキへの圧力を供給するように油圧配管が切り替わる。というよりも、パワーオフでは緊急回路が生きていて、パワーオンで電子制御に不具合が無いことを確認すると、マスターシリンダーはブレーキへの出力が閉じられて信号発生用としての動作を始めることになる。

さて、肝心な通常速度でのブレーキ性能であるが、これは全く問題なく、現在の平均的な日本車の水準に達している。アルミホイールのスポークの隙間から覗くキャリパーは極普通の片押しタイプで、特にフロントはプリウスと共有しているように見える。
 


写真42
プリウスと同サイズのボディは取り回しが楽だ。  

 


写真43
CT200hのキャリパーはプリウスと同じに見える。レクサスとしては、ちょっとチャチなブレーキだが、効きは悪くない。
 

 


写真44
Fスポーツに標準設定されている215/45R17タイヤと17×7Jアルミホイール。

 


写真45
バージョンCは205/55R16タイヤと16×6Jアルミホイールが標準となる。
 

 

高級な内装とプリウスそのモノの走り。まあ突っ込みどころも結構あるが、インテリアの雰囲気などはISに比べてトヨタ臭さ-がなくなっているなど、苦労の跡も見受けられる。それにトヨタが最も得意とするハイブリッド専用車を 、レクサスとしては新しい分野であるCセグメントハッチバック車に適用したのも、当然正しい戦略といえる。あとは、どの程度売れるかだろう。

というわけで、CT200hとライバルについて、特別編としてもう少し詳しい考察してみよう。

これから先は特別編だから、いつものように言いたい放題が気き入らない人達は、読まないことをお勧めいたします。

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