学習塾の倒産件数が過去最多水準となり、その約9割を従業員5人未満の小規模・個人塾が占めているという。この背景には、単なる「少子化」だけでは片付けられない業界の構造変化がある。
実は、子ども1人あたりにかける教育費自体は増加傾向にあり、市場全体の売上が壊滅的に消失したわけではない。起きていることの本質は「大手・DX対応塾への集中」と「従来の指導スタイルを続ける個人・小規模塾の淘汰」という深刻な二極化だった。
町の小さな学習塾が苦境に立たされている理由は、主に以下の4つの構造的要因に集約できる。
小規模塾を追い詰める4つの構造的要因

1. コスト高と「値上げできない」板挟み
経営を最も直接的に圧迫しているのが、物価高と人件費の高騰だ。
• 人件費の負担増:最低賃金の引き上げに伴い、学生アルバイト等の講師時給を上げざるを得なくなっている。
• 固定費の上昇:テナント料、電気代、教材の印刷費や紙代などが値上がりしている。
大手塾であればサービス追加と合わせて授業料を値上げできるが、地域の個人塾は「値上げすると生徒が離れてしまう」という懸念から価格を据え置きがちだ。結果として、売上は変わらないのに利益率だけが削られ、じわじわと「隠れ赤字」が進行している。
2. 教育ニーズの変化(「ペーパーテスト対策」の限界)
入試制度の改革により、塾に求められる役割が変わりった。
• 推薦・総合型選抜の拡大:大学入試の過半数が推薦・総合型選抜(旧AO入試)となり、高校入試でも面接や探究学習、ポートフォリオ(自分の過去の作品や実績、スキルをまとめた作品集・活動記録)が重視されるようになっている。
• 教科指導だけの限界:従来の「過去問を解かせる」「学校の補習をする」だけの指導では、保護者のニーズに応えきれなくなっている。
小規模塾では、面接指導や総合型選抜用の手厚い対策ノウハウを更新・提供する人的余裕が不足しがちだ。
3. 大手チェーン・AI教材(DX化)との格差
• AI・オンライン教材の普及:スタディサプリやAI学習ツールなどの登場により、低価格で質の高い「個別最適化学習」がどこでも受けられる時代になりった。
• 大手の顧客囲い込み:資金力のある大手塾はICT投資を進め、従来小規模塾の領域だった「補習層」や「中堅校受験層」までターゲットを広げて生徒を取り込んでいる。
デジタル設備への投資余力がない個人塾は、利便性や学習効率の面で競合に対抗しにくくなっている。
4. 生徒獲得コスト(広告費)の激増
• 「折り込みチラシ」の衰退:新聞購読率の低下により、かつて主流だった「地域チラシを撒けば集まる」手法が通用しなくなった。
• 集客の難易度アップ:Web広告やSNS集客へのシフトが必要だが、少子化で生徒争奪戦が激化したため、生徒1人を獲得するための広告費(CPA)が高騰している。ノウハウと予算のない個人塾は、新規生徒の獲得で後手に回る。
まとめ

現在の学習塾業界は、「教科の解き方を教える場所」から「その塾でしか得られない体験価値(総合型選抜対策、AIを活用した効率学習、深いメンタルフォローなど)を提供する場所」への転換期を迎えている。
少子化・コスト高・入試改革・DX化という複数の変化に直面した結果、それまでの経営スタイルから脱却できなかった「町の小さな塾」から順に淘汰が進んでいるのが現在の実態だ。
では、大手はどうなのだろうか。