2026年6月中旬に米国とイランの間で戦争終結やホルムズ海峡の安全確保に向けた「覚書(MoU)」が交わされ、高官級協議が進められているものの、「IAEAによる核査察」と「凍結資金の解除・運用」の2大核心ガバナンスにおいて双方の主張が真っ向から対立し、足元で激しい火花を散らしている。
🔷 IAEA核査察を巡る「完全合意」vs「計画なし」のズレ
もっとも激しく衝突しているのが、国際原子力機関(IAEA)による査察再開の範囲とタイミングで、2025年の衝突以降、イランは査察団の入国を拒んでいる。
• 米国の主張(永久かつ全容解明): トランプ大統領やバンス副大統領は「イランが最高水準の核査察(永久査察)を受けることに全面的に同意した」「これが核プログラムを終わらせる第一歩」と成果を強調している。米国側は査察の受け入れを原油輸出許可(数十年ぶりのドル建て決済容認)の見返りとして位置づけている。
• イランの反論(攻撃された施設の隠蔽): イラン外務省報道官らは「査察の日程すら組んでいない」と即座に否定した。特に、過去の軍事衝突で攻撃を受け、ダメージを負った核施設についての査察計画はないと言い切っている。
・背景にある思惑: イラン側としては、破壊された施設を外部(IAEA)に見せることで、現在の実際の核開発能力や損失規模の「手の内」が米国やイスラエルに露呈することを極めて警戒している。
🔷凍結資金(約120億ドル)の「使途制限」を巡る主権争い
イラン側が強く求めていた原油収入などの凍結資産(初期段階で約120億ドル=約1.9兆円規模)の解除についても、運用の「コントロール権」で揉めている。
• 米国の主張(紐付きの限定解除): バンス副大統領は、解除された資金がテロ資金に流用されないよう、「米国とカタールが使途を承認・管理する仕組み」を提示した。具体的には、米国の農家から農産物を買い、イラン国民の食糧支援に充てるような「米国にも利益がある形」でのみ使用を認める意向です。また、署名と同時に自動解除されるのではなく、60日間の本交渉期間中のイラン側の「実証的な行動(遵守)」に応じて段階的に解除する方針を崩していない。
• イランの主張(完全な主権の主張): ジュネーブ国連大使らイラン側は、この米国による管理案を即座に拒絶。「凍結解除された資産をどう使うかはイランの単独主権であり、米国やカタールといった他国がいかなる関与や影響力を持つことも認めない」と猛反発している。
今後の見通し
この覚書は、今後スイスなどで予定されている「60日間の本交渉」への道筋をつけたものに過ぎず、最も重い課題である「核プログラムの縮小方法」や「経済制裁の完全解除の順番(シーケンシング)」は先送りされた状態だ。
現在は、「合意の実績を国内にアピールしたい米国」と「一歩も主権を譲りたくないイラン」が、お互いに都合の良い解釈を内外に発信し合っているマウンティング合戦のフェーズと言える。実際の運用ルール(テクニカルな取り決め)が定まるまでは、この迷走状態が続く可能性が高い。