2026年4月12日に投開票が行われたハンガリー総選挙により、同国では16年ぶりとなる歴史的な政権交代が実現した。
長期政権を維持してきたビクトル・オルバーン首相率いる右派与党「フィデス(Fidesz)」が敗北し、ペーテル・マジャル氏率いる新興勢力「ティサ(Tisza)」党が圧勝を収めた。この変化は、ハンガリーの外交方針、特に中国との緊密な関係に大きな転換点をもたらすと見られている。
なお、右派政権(フィデス=ハンガリー市民連盟)が親中路線をとる主な理由は、イデオロギーよりも実利(経済)、対EU・対米関係のバランサー、そして非リベラルな統治スタイルの共有という複合的な要因によるものだ。
1.政権交代の概要
• 選挙結果:ペーテル・マジャル氏率いる「ティサ」が、議会の3分の2(133議席以上)を確保する勢いで勝利した。
• 交代の背景:
◦経済の停滞:2023年以降のマイナス成長や、EU平均を上回るインフレ、予算赤字の拡大が国民の不満を招いた。
◦ 腐敗への批判:オルバーン政権に近いエリート層への利益誘導や、相次ぐ政権スキャンダルが「変革」を求める世論を後押した。
◦ 新リーダーの台頭:元政権内部の人物であったマジャル氏が、SNSを駆使した草の根運動で若年層や都市部、さらには失望した保守層の支持を広く集めた。
2.中国との関係はどう変わるか
オルバーン政権は「東方への開放」を掲げ、EU内で突出した「親中路線の旗振り役」でしたが、新政権下では以下のような変化が予想される。
経済プロジェクトの見直し
現在、ハンガリーでは中国のEV大手BYDの工場建設(2026年稼働予定)や、CATLによる大規模な車載電池工場など、巨額の対中投資が進んでいる。
• 透明性の確保:マジャル氏は、これまでの対中契約における不透明なプロセスや環境への懸念を厳しく批判してきた。既存の契約を破棄する可能性は低いものの、労働条件や環境基準の厳格化を求める姿勢を強めると見られる。
• 依存度の抑制:中国一辺倒の投資誘致から、EU域内や他国とのバランスを重視する方向へシフトする可能性がある。
外交・安全保障の正常化
• 「一つの中国」への態度の変化:これまでハンガリーはEUによる中国批判の共同声明にしばしば拒否権を行使してきたが、新政権はEUとの協調を最優先にする意向を示している。
• 警察協力などの停止:オルバーン政権が進めていた「中国警察による共同パトロール」の受け入れなどは、主権およびEUの安全保障上の懸念から、撤回または縮小される可能性が高い。
価値観外交への転換
• 新政権は「法の支配」や「民主主義の回復」を掲げており、中国のような権威主義体制との過度な親密さを避けることが期待される。これにより、中国にとってハンガリーは「欧州における最も信頼できるゲートウェイ(入り口)」としての機能を失うことになる。
4.今後の見通し
政権交代直後の現在、ハンガリーは「親中・親露」から「親EU・親NATO」へと大きく舵を切ろうとしている。

中国にとっては、EU内で唯一無二の協力者であったオルバーン氏の退場は大きな痛手であり、欧州市場における戦略(特にEV産業の拠点化)の再考を迫られることになりそうだ。